
あらすじ
「アルキメデス」という不可解な言葉だけを残して、女子高生・美雪は絶命。
さらに、クラスメートが教室で毒殺未遂に倒れ、行方不明者も出て、学内は騒然!
大人たちも巻き込んだ、ミステリアスな事件の真相は?
1970年代の学園を舞台に、若者の友情と反抗を描く、伝説の青春ミステリー。
江戸川乱歩賞受賞作。
(講談社より)
感想・レビュー
第19回(昭和48年)江戸川乱歩賞受賞作
あの東野圭吾さんが、高校生2年生の時にふと手に取ったのが、小峰元さんの「アルキメデスは手を汚さない」だったと。
そしてそれは東野さんにとって、人生で初めてハマった推理小説だったと(Wikipediaによると)。
のちに東野さんは乱歩賞作家となり、現在までの大作家になるという経歴を知ったとき、いつか絶対にこの作品は読んでおきたいなぁと漠然と思っていました。
今回ついにその機会が訪れたので、さっそく読んでみました。
まず所感としては、終盤以外はすごい面白かったかなぁという印象です。
これは終盤が面白くなかったというよりも、普通だなって感じで、お話の流れ的に失速したというか、作中でも描かれていたのですが、少し落ち着かないような事件の解決になってしまって、それが本当にそのまま、その通りというか、勿体ないというか仕方ないというか。
個人的は一番最初の話の軸になっている美雪の死や動機がいまいちぱっとしないというか、そのまま事件解決に至ってしまって、以後父親のパートもなく物語が閉じてしまったのが、どこか消化不良というか……そんな気持ちが残りましたね。
ただですね、やっぱり乱歩賞を受賞するだけあって、序盤から事件解決までもうめっちゃくちゃ面白いんです。
毎日寝る前に読み進めていたのですが、この時間には寝ようと決めていたつもりが、面白くて何度も夜ふかししてしまい、翌日後悔するを繰り返すくらいにはハマっていました。笑
という感じでざっくり振り返っていこうかなと。
物語は高校2年生・「柴本美雪」が中絶手術に失敗し、そのまま死亡したのがきっかけとなって幕を開けます。
美雪は誰の子を身ごもったのかを明かさずに死んでしまい、父親がそれを探していく展開に。
その後、美雪の同級生「柳生隆保」を軸に物語が動いていきます。
学校生活が描かれていく中で、中毒事件が起きたり、これを機に警察側も動きだし、新たな殺人事件が起き、なぜかいつもそこには「柳生隆保」の存在があって…という感じ。
あとは柳生の家庭問題から姉や母の話など、どんどん紐解いていくと、悲しき結末が迎えていました。
美雪の父親、警察・野村、学生たちなど、あと細々とした視点もありますが、大まかに3つの視点で物語が動いていく中でのリーダビリティはとても良かったかなと。
一応形としては、昭和の中後期ぐらいにあたる1970年代の若者たちや家族などの動機が描かれていました。
作中の昭和の雰囲気は、どの小説を読んでいてもいつも楽しいですし、ただ今回出てきた登場人物たちについては、そこまでの共感というのもなかったのは正直なところ。
まぁそれは別に良いんですけど、やっぱり今思い返しても、美雪の死があまりにも報われないし、他にも亀井の殺人があまりにも軽いというか。
子が犯した殺人未遂をわりかし簡単に母親が受け入れる状況や様子とかも、うーん。
たぶんこれは命を失う対価に対しての動機や行動が、どこかふわっとしているというのもあるのかもしれませんね。
だから最後に慌てて詰め込んできた警察人情描写も既に遅しというか、いかにもなトリック成立を優先しがちな推理小説になってしまった。
それは良いとして、それを読者が感じてしまったという点が惜しい。
でもこれがミステリーとしてのデビュー作だとして考えると、生徒たちの使い方や台詞回しやテンポ感、構成の流れの変化、アルキメデスの有名なくだりと作品の掛け合わせ、複数の事件が点と点になって、ちゃんと線になっていく面白さもあり(投書のくだりとかご都合ギリギリな部分もありましたが)充分素晴らしいものだったかなと思います。
まとめ
はい、という感じで、確かに今思えば、作中の主役たちは高校2年生で、東野さんもこれを読んだ時は、同じく高校2年生ですから、彼らに何かしらの思うことはあったのかもしれませんね。
小説はミステリー・ホラーとの相性が格段に良いのと、内面描写が一番の武器になるコンテンツですから、その辺りをもう少し納得出来るような形で描かれているだけで、
私の中での本作の評価がもっとあがっていただけに、むず痒くなるような作品ではありました。
しかしよくあることなので、これは仕方ありません。
ただ色々思うことは書きましたけど、冒頭でも書いた通り、夜寝る時間が惜しいくらいに捲る頁が止まらなかったというのは事実です。
それだけ展開が面白いというのは本当なので、まだ未読の方は是非とも読んでみてはいかがでしょうか。
あと個人的には、他にも乱歩賞を読んでみたい作品がありまして、またどこかで機会があって読めればなぁと思います。
それでは今日はここまで。
最後までお読みいただきありがとうございました。
だいぶ暑くなってきましたので、皆様体調管理にはお気をつけて〜それではまた。