ゴールデンボーイ-恐怖の四季 春夏編−【あらすじネタバレ感想】『ショーシャンクの空に』の原作も収録!

あらすじ

トッドは明るい性格の頭の良い高校生だった。ある日、古い印刷物で見たことのあるナチ戦犯の顔を街で見つけた。昔話を聞くため老人に近づいたトッドの人生は、それから大きく狂い…。不気味な2人の交遊を描く「ゴールデンボーイ」。

30年かかってついに脱獄に成功した男の話「刑務所のリタ・ヘイワース」の2編を収録する。キング中毒の方、及びその志願者たちに贈る、推薦の1冊。

(新潮社より)

感想・レビュー

ようやくというか初めてスティーヴン・キングを読めました。

「スタンド・バイ・ミー秋冬編」を先に読むか迷ったんですけど、とりあえず先に春夏編を、ということで、まず本作を読んだ所感としては、素直に面白かったし、著者の内に潜むエネルギーが凄かった、という所でしょうか。

本文庫は『刑務所のリタ・ヘイワース−春は希望の泉−』中編、『ゴールデンボーイ−転落の夏−』の長編の二編が収録されていました。

『刑務所のリタ・ヘイワース−春は希望の泉−』

言わずもがな『刑務所のリタ・ヘイワース』は、大人気ハリウッド映画の『ショーシャンクの空に』の原作になります。

私も映画の方は見たことがあったので、大方内容は知っていました。

見たのがかなり前だったのですが、読んでいてそうそうこんな感じだった、懐かしいなぁ、という印象を受けたので、かなり原作に忠実だったのだと思います。

違いがあるとすれば、小説ならではの表現方法ですかね。

確か映画だと、主人公のアンディー・デュフレーンの視点で物語が動いていたと思うのですけど、後にアンディーの友人になる、同じくショーシャンク刑務所に在籍していた長期受刑者のレッドという「何でも屋」の回想手記のような形で描かれていました。

作中で起きる出来事などは、微妙に違う所もありますが、流れは概ね同じで、映画の方が尺をとっていてわかりやすい所などもありました。

結果的にこのレッドの回想形式が、終盤でかなり感動的な終わり方になるのがとても良かったです。

内容は知っていても思わずうるっときます。サブタイにもある「希望」的な内容でした。

今思うと、アンディーの冤罪や、刑務所での仕打ちは酷いもので、ですが彼の果てしない忍耐の先にある行動に、心が救われる人がいるのも頷けます

『ゴールデンボーイ−転落の夏−』

そして『ゴールデンボーイ』、こちら映画の方は、未視聴でしたので、かなり新鮮な楽しみ方が出来ました。

何よりこれがスティーヴン・キングの恐怖小説か、とゾッとするような気分と、また良い作家に出会えた嬉しさがありました。

本作は三人称で描かれています。終盤、何度も視点変更がありますが、かなり巧みな使い方で、失速することなく駆け抜けることに成功していると私は思えました。

さて、主人公のトッド・ボウデンは、アメリカの郊外に住む13歳。

いかにも健康的な、金髪碧眼の白人で、作中でも「オール・アメリカン・ボーイ」と表現されています。

そんなトッドは頭脳明晰、成績も優秀で、運動も出来るのですが、ある日、友達の倉庫でコミックスを読もうとしていた所、ナチス・ドイツ関連の戦争雑誌を見つけます。

読んでいくうちに、トッドは異常な興味関心を惹かれていき、その日はコミックスを読んでいた友人が先に帰っても、親が探しにくるまで、倉庫で読み続けました。

トッドはその雑誌に掲載されていた一人の男「ドゥサンダー」を街で見かけ、家の場所まで特定し、家に訪問しました。

彼の人生は、この選択をした瞬間から、じっくりと、転落していくことになるのです。

家の名前は「アーサー・デンカ−」と別名になっていましたが、ドゥサンダーという男の正体は、ヒトラー政権時代の象徴の一つでもある強制収容所の所長だったのです。

そんな彼は、第二次世界大戦後、世界各地に逃げ回っていたナチス・ドイツ兵の一人でもありました。

トッドは、彼と出会い、幾つかの駆け引きを乗り越え、かつての話を沢山聞きました。そうして彼の純真だった心は、いつの間にか、蝕まれていき、悪夢を見るようになります。

蝕まれると書きましたが、彼の心に眠る、本来の性のような、描かれ方もしているのでこの辺も大変興味深いものでした。

序盤のドゥサンダーは、トッドに正体がバレてしまったので、脅迫されている側だったのですが、トッドは一時期、優秀だった成績がありえない程悪化し、それをドゥサンダーと共に隠蔽したりしていくうちに、彼らは目には見えない糸で繋がった共犯関係になっていくのです。

この関係性の変化もかなり面白かったです。

こうして彼は同時に悪夢を見るようになり、浮浪者殺しや、動物殺しなど、後戻りが出来ないズブズブの関係性に落ちていきます。

ドゥサンダーがオーブンで猫を焼き殺すシーンは、本当に怖かった。

トッドはトッドで、成績こそ回復し、常に優秀であり続け、運動でも結果を出し続け、ドゥサンダーとも何度も縁を切ろうとしますが、まだまだ子供の部分をドゥサンダーに利用され、彼の心は長らく蝕まれれ続け、既に真っ黒でした。

その内に眠る黒い衝動は抑えきれず、罪を犯し続けます。間違いなくシリアルキラーの類の性的嗜好、精神状態だったと思います。

作中では彼らに関わった人物たちが、徐々に疑問を抱き、彼らの共犯関係に迫っていく場面もヒリヒリとした緊張感といいますか、常にドキドキした状態で捲る頁が最後まで止まりませんでした。

ゴールデンボーイは、老人と少年の話。序盤は平和が崩れ落ちていく暗転を描き、中盤は精神犯罪者の内面を描き、そして終盤は警察小説のような面白さもありました。

まとめ

いかがでしたか。

ショーシャンクの方は、シンプルに楽しめるので、映画でも良いと思いますし、小説でも同じように楽しめると思います。

ゴールデンボーイの方は、映画は見てないのでわかりませんが、これは一度小説で読んで見る価値があるのではないか、そう思えました。

冒頭でも書きましたが、間違いなく著者にしか書けないエネルギーがそこにあると思います。恐怖小説、ホラーが苦手な方はちょっと控えた方がいいかもしれませんが。笑

ただ私もホラー映画は怖くて普段から見ない人でもいけたので、そこまでシビアすぎる内容でもなかったかな、と思っています。

どちらかといえば、彼らの関係性や、内面変化などを時には疑問視しつつ、楽しんでいくのがいいかもしれません。

あと脳内なら嫌な表現を自分が好きなように制御出来るのも小説の良いところかもしれませんね。

解説によると、スティーヴン・キングは「シャイニング」という作品の脱稿後、「ゴールデンボーイ」(百字詰め原稿用紙500枚の長編)をたったの二週間ほどで書き上げてしまったようです。

まさに破壊的衝動のエネルギーだったのですね。

出版社も恐怖の四季編【刑務所のリタ・ヘイワース(春)、スタンド・バイ・ミー(秋)、マンハッタンの奇譚クラブ(冬)】の中でも、この『ゴールデンボーイ(夏)』だけ外せないか、打診した過去もあったそうで、笑)キングはこの作品にかなりの手応えを感じていたようです。

結果、世に出てしまいましたが。

これは余談ですが、ゴールデンボーイでは、刑務所のリタ・ヘイワースの主人公であるアンディー・デュフレーンが間接的に関わっているスターシステム的なものあり、楽しめました。

だいぶ長くなってしまったので、今日はこの辺で終わりたいと思います。

お疲れ様でした。

追記:翻訳は浅倉久志さんです。

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