あらすじ
鍛冶の里に生まれ育った少年キリヒトは、王宮の命により、史上最古の図書館に暮らす「高い塔の魔女(ソルシエール)」マツリカに仕えることになる。
古今の書物を繙き、数多の言語を操って策を巡らせるがゆえ、「魔女」と恐れられる彼女は、自分の声を持たないうら若き少女だった。
超弩級異世界ファンタジー全四巻、ここに始まる!
(講談社より)
感想レビュー
第45回メフィスト賞受賞作(2010年)
ということで久しぶりの『メフィスト賞』受賞作品なのですが、さっそくいつもの所感から参りたいと思います。
まず前提として、タイトルにもナンバリングされているのでもうお分かりかと思いますが、この巻だけでは本作は完結していないんですよ(全4巻)。
基本的に新人賞の受賞作品って1冊完結がだいたいのデフォルトなのですが、おそらくメフィスト賞はよくある新人賞と違って、枚数制限がなかったりするタイプの新人賞だったかと思います。
私の記憶が曖昧なのですが、確か過去に制限があったりなかったりとかを繰り返していたかな?と思うので、その制限がなかった時代の作品なのかなと。(おそらく今も制限がない)
そして受賞自体は、その全4巻分を含めた意味での受賞だと思いますので、今回私の感想は、本作分までということを考慮して読んでいただければ幸いです。
まず読了後の所感としては、何かが動きそうで、動かなかった一冊だったなぁというのが正直なところです。まぁこれは全4巻分なのもあって仕方ないのかなと。
ただ欲を言えば、この1巻だけでも相当な文字数があったと思うので、もう少し物語のテンポを上げてもらいたかったというのが本音ですね。
文体は格式高く、三人称で物語が進みます。(一応補足しておきますが、著者さんは言語学者だそうです)
私も読めないような文字があって、とても勉強にはなりました。
山暮らしをしていた「主人公・キリヒト」が「図書館の魔女・マツリカ」と出会うところから物語の幕が開きます。
その後、マツリカの側にいる者たちと出会い、キリヒトとマツリカが少し恋愛チックな雰囲気になったりもします。
キリヒトのチート的な能力(耳の良さ)が、今後何かに結びつきそうになったりと、世界観の設定や情勢などを含めると、とても魅力的な雰囲気はあります。
しかし、その装飾された文章や世界観を削いでいき、残った物語だけを冷静に俯瞰すると、ここまで何か読者を強烈に惹きつける面白い部分があったか?と今の段階では感じでしまいました。
でも面白くない訳でもない。しかし、何か今後も読みたくなる要素があったかといえば、著者さんの持つ多様な知恵くらいで、人間的魅力や惹きつける何かはまだこの段階では感じなかった。
知恵が欲しいならネットで調べるか、本を読めば良いとも思えます。
これは私の考えなので申し訳ないのですが、小説はあくまでも「物語」を読みにきているのです。
格式高い文体や丁寧な描写は、面白い物語があって、そこで初めて成立する。
逆に芯である物語で勝負できない作家は、詩人になった方が良いかもしれない。
と、ここまで偉そうに書いてしまって大変恐縮なのですが、ここからメフィスト賞を受賞するってことは、その後何かとても面白い物語があるのかもしれませんね。
結末だけを見てみたい気持ちもありますが、やはりこの第1巻を読む限り……うーん、確かに物語でいうなら【序章・前半】かもしれませんが、展開的な仕掛けだけでも絶対にもっとやれたはずだったと思うんです。
これだけの文字数を使っているなら尚更そう思ってしまいます。
確かにオリジナルファンタジーなので、説明と伏線を撒く時間は必要です。
でもファンタジーだからこそ、後半にもってきそうな仕掛けをガンガン前半に仕掛けて、更に後半で何回もひっくり返すくらいの技量のある作品を私は読みたいと思ってしまう。
確かに作家さんは大変かもしれない。人生をかけて書かなくてはいけないかもしれない。
でもまたいつかそういう作品に出会えることを願っています。
これは好みの問題かもしれませんね。
ここで一つ勘違いしてほしくないのは、私はこういう物語があって良いと心の底から思っています。
みんながみんな同じような作品を書く必要もなく、本作はカテゴリーエラーとも言える意欲的な作品です。
メフィスト賞じゃないと受賞は無理だったかもしれない。
でもこれだけの魅力的な世界観が創れるからこそ【序章・前半】だけでも仕掛けがもっと欲しかった。
キリヒトが地下に気付くまで、ただ描写が流れるだけでは少し勿体なかった。
もちろん物語は完結してからじゃないと判断できないと私は常日頃から考えて物語と向き合っています。
だから今日の感想は、冒頭にも書いた通り、あくまでもこの巻だけの感想で、本作の全体評価とまではいかなかったということで。
それでは今日はここまで。
最後までお読みいただきありがとうございました。
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