
あらすじ
極限状況での謎解きを楽しんだ読者に驚きの〈真相〉が襲いかかる。
友人と従兄と山奥の地下建築を訪れた柊一は、偶然出会った家族と地下建築「方舟」で夜を過ごすことになった。翌日の明け方、地震が発生し、扉が岩でふさがれ、水が流入しはじめた。
いずれ「方舟」は水没する。そんな矢先に殺人が起こった。だれか一人を犠牲にすれば脱出できる。タイムリミットまでおよそ1週間。
(講談社より)
生贄には、その犯人がなるべきだ。――犯人以外の全員が、そう思った。
感想レビュー
このミステリーがすごい!《2023年》第4位ノミネート、第二十回本屋大賞【2023年】第7位ノミネート
夕木春央さんはメフィスト賞作家ということで、まずデビュー作を読もうとしていたのですが、先に本作から縁があったようで手にとってみました。
2023年の国内ミステリー界隈は、本作と『爆弾(呉勝浩)』で二分されているとのことを、どこかで耳に挟んでおりました。
ということで、楽しみに読んでみました。
まず読了後の所感としては、いやぁ、でも、確かにこれは面白いなぁと。
というのも、本作を読んだ人の多くがそうだと思うのですが、本当にラスト数ページまでは、少しモヤッとしてたのも事実なんですよ。
でもやっぱり死んでもメフィスト作家ですよね。笑
ラスト数ページで一気にまくってきて「あぁ、確かにこれは面白いわぁ」と思わされるようになっているんですよ。
最終盤まで、ぼんやりと引っかかってた気持ちをひっくり返されて、見事に手のひらのうえで転がされていた感じです。笑
ミステリーとしては、館に閉じ込められ人が殺されていき……と王道なものなのです。
しかし本作はその仕掛けを、旧約聖書の創世記にある「ノアの箱舟」を模倣したようなものになっており、この設定が中々独特でした。
単に舟の中で起きる殺人という訳ではなく、地下建築が船のような三階構造になっていて、
最初は私もこれ成立するのかな?と思いながら読んでいたのですが、色々と工夫された結果なんとか成立していたかなと。
山の中にある謎の地下建築に、興味本位でやってきて帰れなくなった社会人(大学の同級生)たちと、主人公の謎の従兄弟(探偵ポジション)に、謎の家族(父母息子)が閉じ込められるというこの感じもかなり特殊でしたね。
タイムリミットがある中で、要所要所で殺人が起きてはいるものの、少し疾走感みたいなものが足りないのですが、逆にそれくらい犯人の動機が見えてこないんですよね。
ただ、わかりやすいくらい主人公に近づいてくる者がいて「動機わからないけど、とりあえずこいつが犯人だな→そうだった→なんか興醒めだ→ラスト数ページ→え・・・いや面白い」ってなるのが本作の心理的ロジックですかね。
だからやっぱり読者の気持ちすらも、すべて著者の手のひらのうえだったということでしょう。笑
そして最後の最後に明かさるトリックから、主人公の人間の性みたいものが全部ひっくり返される瞬間は、正直たまりません。
さらに殺人犯の勝利で終わりながらも爽快感があるのも、まさにどっちが殺人犯なんだ?みたいな気持ちが心のどこかであるからこそ成り立つ仕組みで、かなり高難易度なテクニックになっていたかなと。
過去に水没する系のミステリーといえば「蒼海館の殺人(阿津川辰海)」という、館ごと水没させるものを読んだことがありましたが、本作はまた違った楽しみ方ができました。
それでは今日はここまで。
最後までお読みいただきありがとうございました。
著者さんのデビュー作もまたいつか読んでみたいと思います。
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