
あらすじ
十二世紀の中国、北宋末期。重税と暴政のために国は乱れ、民は困窮していた。
その腐敗した政府を倒そうと、立ち上がった者たちがいた――。
世直しへの強い志を胸に、漢(おとこ)たちは圧倒的な官軍に挑んでいく。
地位を捨て、愛する者を失い、そして自らの命を懸けて闘う。
彼らの熱き生きざまを刻む壮大な物語が、いま幕を開ける。
(集英社より)
感想レビュー
厳しい寒さのなか、皆さまいかがお過ごしでしょうか。
こういう季節は大人しく家にこもり、読書を嗜むのが最適といえるかもしれません。
さて、本日はもう私がずっと読みたかったけど読めていなかった北方謙三さんの小説。
とにかく北方さんの作品は多いので、何を読むか迷うのですが、まずは水滸伝か三国志だろうということで、本作を手に取りました。
ひとまず先に読了後の所感としては、想定以上に面白かったです。いや、素直に面白かった。
長く続いているシリーズなのは承知の上で、想定以上というのも大変失礼な話なのですが、
こういう時代小説や歴史小説って登場人物も多く、名前や地名も読めなかったり、覚えるのにまず時間がかかる印象があるんですが、そんなことどうでもよくなるくらい面白かったです。
読了こそしましたが、未だに登場人物の名前とかもうろ覚えですし、漢字の雰囲気で読んでました。笑
さらに本作は視点も幾つも変わりますし、登場人物も多いです。
しかしまず一つ、とても文章が読みやすいということ。
もうこれは長く生き残っている作家さんたちの共通点ですよね。
なのでこれだけ視点が変わり、地名もろくに覚えていない状態でも、展開が理解出来るので楽しめるようになっているんですよね。
ただ本作のもう一つすごいところは、人物描写をほとんどしないんですよ。
これって小説という概念において実はすごいことで、私が今まで読んだ小説の中で、ここまで人物描写をしない作品は、プロの作品ではじめてかもしれません。
例えばアマチュアの作品で技量、筆力が足りないから人物描写がないとかって言われてしまうことがあるかもしれないんですけど、著者さんに至ってはプロ中のプロですからね。
そして何より私が驚いたのは、そのような状態の小説であっても、十分に楽しんで読めていたということなんですよね。
正直これには今までの概念を変えられるような衝撃を覚えました。
確かに賛否はあるのかもしれないんですよ。描写がないとそもそも伝わらない。これはごもっともで、その部分が描写されることにより、より世界が鮮明になって楽しめる。
私自身も活字の物語というのは、文字で伝えないと伝わらないという考えが無意識的にありましたが、今回本作を読んで小説・物語というのは何を読んでいたのだろうかと考えさせられました。
さらに登場人物たちが個性的で、英雄から武術家、策士も医者も盗賊も坊主も漁師も料理人も他にも色々といて、でもみんな「志」で繋がっているっていう。かっこいい。
物語じたいは、十二世紀頃の中国で、腐敗した国を変えようとする者たちが、色々と裏で準備を重ねたり徒党を組んだりする、所謂、壮大なプロローグでしかまだないのですが、これが面白いのですよ。
この時代の中国をよく知らない私でも楽しめました。日本では、ちょうど鎌倉時代とかそのあたりだと思います。
登場人物たちが掲げる「志」というものを起点に、様々な「漢」たちが、様々な生き様を見せていく。
修行や殺し合い、時に弱さや成長、友情や仲間、師弟関係もあって、てんこ盛り。
これは男の子はみんな好きなやつかもしれませんね。笑
個人的にこの作品の面白さは、登場人物たちの掛け合い、会話にあるのかなと思いました。著者の持つ唯一無二の部分が出ているかなと思えました。
漢たちが真剣に世を語る。いいじゃないですか、かっこいいと私は思いました。笑
やっぱり長く支持される作品のもう一つの共通点は、会話劇が面白いというか、その人にしか書けないようなものを持っていると、とても惹きつけられるものなのだなぁと改めて感じましたね。
終わり方含めて、林冲良かったなぁ……
個人的には基本的にシリーズものであっても、初刊しか読まないのですが、本作は稀にある続編も読んでみたいなと思える作品でした。
2025年がはじまって積読も結構控えているのですが、どれぐらいのペースでどこまで読むかはわかりませんが、登場人物たちの動向が気になり、早く読んでみたいなと思うので、隙があれば読んでみようと思います。
それでは今日はここまで。
最後までお読みいただきありがとうございました。
どうか寒さにお気をつけください。