あらすじ
第三次世界大戦が勃発、放射能に覆われた北半球の諸国は次々と死滅していった。
かろうじて生き残った合衆国原潜〈スコーピオン〉は汚染帯を避けオーストラリアに退避してきた。ここはまだ無事だった。だが放射性物質は確実に南下している。
そんななか合衆国から断片的なモールス信号が届く。生存者がいるのだろうか?
一縷の望みを胸に〈スコーピオン〉は出航する。迫真の名作。
(東京創元社より)
感想レビュー
原題:『On the Beach』
新年明けましておめでとうございます。
このブログも4年目となりました。
今後ともどうか末永いお付き合いをよろしくお願いします。
ということで、2025年になりましたが、読書好きの皆さま、いかがお過ごしでしょうか。
私はいつも通り隙を見つけては読書する日々ですが、今年も素晴らしい作品との出会いがあると思うと楽しみでなりません。
さて、そんなめでたい新年には相応しくないないかもしれない「人類滅亡」の一冊から今年は幕を開けたいと思います。笑
個人的に本作は、もう何年も前から読みたいとずっと思っていたので、ようやくこの機会に読むことができて良かったです。
勝手なイメージなのですが、やはり英国小説って、スケールが大きい作品が多くていいですよね。
何かあの土地や文化がそうさせるのですかね。
ではまずいつもの所感から、全体的に勢いのあるシーンは特にないのですが、それでも背景にある設定が過酷なので、とにかく終わりが気になって最後まで捲るページは止まりませんでした。
ただ「面白い」という表現だけではすまされないSF作品なので、色々と考えさせられる作品でもありましたね。
ざっくりと本作は、第三次世界大戦が勃発した後の世界で、北半球は放射能に覆われ、完全に死滅していきました。
次に生き残った合衆国原潜〈スコーピオン〉は、汚染帯を避けオーストラリアに退避し、その艦長のドワイトと連絡士官であるホームズの視点で物語が展開します。
あともう一つ大事なことがあり、放射性物質は南半球に向けて確実に南下しているということ。
これは残された人類にとってとてつもない恐怖と、半分嘘のようにも聞こえる真実でもありました。
このような状況を、数人の視点で日常を描かれていきます。そして背景にある放射能による迫りくる平等な死が、ただの日常ではないと思わされる。
ある意味、病気寿命系の作品と構造は似ているんですが、やはり今回は人類全体の問題ということがあって、似ているようで似ていない。
ゆっくりと死に向かっていく過程で、人々はどう生きるのか。
本作はあまり治安が荒れたシーンなどは、敢えてスポットを当てて描かないようにしていると思うのですが、それでも最後の最後は本当に誰にもわからない。
我々が生きている現在のように、憲法や法が拘束力を持つ世界ではないという背景も色々と考えさせられました。
確かにあとがないなら、悪事を働く意味もないのかもしれないし、開き直って悪事を働くかもしれない。
正直、どんな生き方をしようが、やがて生命として本来の「無」の姿に還るというか。
でもこれは現実の私達にもいえることでもありますよね。
本作はこのような過程を歩み、結末を迎えましたが、こういう作品は想像力の個性が色濃く出る作品なので、私は好きですね。
あともう一つ良かったところは、ちゃんとそれぞれの視点で命の終わりまで描いたところですね。
これは当たり前であって当たり前でないといいますか、著者が人として、物書きとして、物語と向き合ってきた故の力量があるからこそだと思います。
絶対にぼかした方が楽だと思いますから。
一応、補足しておきますと、本作は1957年に書かれた、発行された作品でありますので、放射能によって侵された人たちの症状などは多少誤った認識もあるとのことです。
他にも現代では、核爆弾以外にも食料資源問題など、様々な世界問題が複雑化しているところも書かれた背景とは少し違いますよね。
しかしその時代に、いやこの時代だからこそ、著者がこの作品を題材として筆をとったことについて、私は深く尊敬します。
因みに著者は、本作を第二次世界大戦後、オーストラリアに移住して書かれたそうです。
そしてこの大作を残し、その3年後の1960年(60歳)にこの世を去ったそうです。
日本では著者の作品が少ししか翻訳されていないそうなのですが、英国やオーストラリアでは偉大な小説家の一人だそうです。
あとは個人的興味として、実際に本作のような状況になったら、北半球から南半球に向けて本当にどれくらいの速度や放射能が届くのか気になるところではあります。
まぁしかし絶対にそのようなことがわからない未来であって欲しいとも思いますね。
また機会があれば著者の本と出会いたいですね。
それでは今日はここまで。
最後までお読みいただきありがとうございました。
翻訳は佐藤龍雄さんです。
新年から良い一冊出会えました〜