
あらすじ
どうしても「読み終えられない本」がある――。その名も『熱帯』。
この本を探し求める作家の森見登美彦はある日、〈沈黙読書会〉なる催しでふしぎな女性に出会う。彼女は言った「あなたは、何もご存じない」と。『熱帯』の秘密を解き明かすべく組織された〈学団〉と、彼らがたどり着いた〈暴夜書房〉。
(文藝春秋より)
東京・有楽町からはじまった物語は、いつしか京都、さらには予想もしなかった地平へと突き進む。
感想レビュー
第十六回本屋大賞【2019年】第4位ノミネート
個人的に森見登美彦さんは随分とお久しぶりの作家さんです。
実は他にもデビュー作の『太陽の塔』なども読んでみたいのですが、それはまた別の機会に。
ということで、まずは読了後の所感から。純粋に心の底から楽しめる物語ではなかったですね。
作品の不思議さは、著者さんらしいとは思うのですが、その不思議さだけではこの長い物語を最後まで引っ張りきれなかったかなぁと個人的には思ってしまいました。
タイトルにもある「熱帯」というまだ誰も読みきれたことがない謎の本を巡って、物語が展開し……とここまではすごく魅力的なんですよ。
なのでその本を追いかける前半は、それなりに楽しめるんです。
しかし後半は、その「熱帯」の世界に入り(簡単に言うと異世界転生した)、そこからがまぁ楽しみにくい、笑)
最後にはその異世界から帰ってきて、、ってなるんですけど、もうその頃には、だいぶこっちは冷めているんですよね。
そもそも作中に視点が何度も変わったり、主人公が変わるのは、物語においてかなりリスキーなんですけど、今回はそのリスキーな部分がもろに出てしまった気がしました。
読んでいて、作中でやりたいことは何となくわかるんですけど、お話の展開や世界観だったりが、そこまで見事にマッチしていたかといえば、そうではなかったような思えました。
オチこそ綺麗に収まってはいるものの、やはりそこまでのプロセスが長く、間延びを感じたので、どうしても取り返せない。
色々なものを混ぜた結果、作家じたいも混乱してしまった。そのことが読んでいて伝わってきました。
私も色々な物語を多少なりとも読んできましたから、もうこういうのには慣れていますが、
読書初心者の方には、読書特有の辛さを与えてしまう典型的な作品ですよね。笑
作家さんには書くのが得意なジャンル、そうでないジャンルがあるのは百も承知ですから、仕方なかったのかなと。
それに今回はその中でも作家にとって、鬼門の題材ですから、私はこのジャンルに挑戦した森見さんの心意気を評価したいと思います。
調べてみたらWikipediaにこのようなことも書かれていました↓
この題材を思いついたのが2009年頃であり、10年からウェブで連載を始めたが、翌年の11年に持っていた連載をすべて一度停止する。
その後大幅に書き直して、後半を新たに書き足し出来た作品である。
作者の森見登美彦は同書を書き上げるのに8年かかったとしている。
執筆が苦しかったため、こういう小説はもう二度と書きませんと述べている。
(Wikipediaより)
生意気ですけど、こういう「物語の物語」でさらに「ファンタジー」で、っていう作品には、私もたまに出会うジャンルなんですけど、まともに扱える作家ってまだ世界にほとんどいないと思うんですよね。
個人的にはあと50年くらいで、こういう題材で完全なファンタジーを書ききる器のある作家が、世界のどこかで出てきてくれれば嬉しいなぁとは思うんですけど、まぁ気長に待ちたいと思います。
それでは今日はここまで。
最後までお読みいただきありがとうございました。
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