あらすじ
樺太(サハリン)で生まれたアイヌ、ヤヨマネクフ。
開拓使たちに故郷を奪われ、集団移住を強いられたのち、天然痘やコレラの流行で妻や多くの友人たちを亡くした彼は、やがて山辺安之助と名前を変え、ふたたび樺太に戻ることを志す。
一方、ブロニスワフ・ピウスツキは、リトアニアに生まれた。ロシアの強烈な同化政策により母語であるポーランド語を話すことも許されなかった彼は、皇帝の暗殺計画に巻き込まれ、苦役囚として樺太に送られる。
日本人にされそうになったアイヌと、ロシア人にされそうになったポーランド人。
文明を押し付けられ、それによってアイデンティティを揺るがされた経験を持つ二人が、樺太で出会い、自らが守り継ぎたいものの正体に辿り着く。樺太の厳しい風土やアイヌの風俗が鮮やかに描き出され、
(文藝春秋より)
国家や民族、思想を超え、人と人が共に生きる姿が示される。
金田一京助がその半生を「あいぬ物語」としてまとめた山辺安之助の生涯を軸に描かれた、
読者の心に「熱」を残さずにはおかない書き下ろし歴史大作。
感想・レビュー
第162回直木賞受賞作、第十七回本屋大賞5位ノミネート
まず帯文の【降りかかる理不尽は「文明」を名乗っていた】のキャッチコピーが秀逸すぎます。
編集さんか、著者さんかどっちが考えたのかは分かりませんが、これを読む前にも「ははぁ」と思いますし、読んだあとにも「ははぁ」となりましたね。笑
帯文が秀逸過ぎる作品は、私の力ではそれ以上の煽り文が書けませんので、今回はサブタイトルに使わせて頂いております。すみません、秀逸すぎです。
さて物語はアイヌやそれを含めた時代と人の史実を描く、壮大な歴史小説。
アイヌ、ギリヤーク、日本人、ロシア人、ポーランド人など様々な人種が登場します。彼らには母国の言葉があり、風習があり、文化があるが、皆が人生を生きている。
ゴールデンカムイを読んでいたのが、作品を読み進める上での知識に役立ったことは間違いないですが、石川啄木、二葉亭四迷の文学的人物や、金田一京助、大隈重信、西郷隆盛の名など、
ポーランド人の民族学者・ブロニスワフ・ピウスツキなど他国側から見る少数民族がとても興味深く、キャラクターも漫画的で分かりやすかったです。
やはり第7師団の名が出るとついニヤニヤしてしまう。
何より民族描写が読んでいてとても楽しい。が、やはり秀逸な帯文にある文明という名の理不尽は恐ろしく、自分が文明に生きることを考えさせられました。
構成も序章と終章でなるほどとさせられ、主に幼少期から大人になっていく過程も理想的で、最初から読み直しました。
人が生きるということと、自分たちが生きる前にどこかで誰かが生きていたことを考えさせられる傑作です。
改めてまたいつかもう一度読み直したいと思える素晴らしい作品でした。
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