爆弾【あらすじネタバレ感想】東京各地に仕掛けられた爆弾。取り調べ室での戦いがはじまる

あらすじ

些細な傷害事件で、とぼけた見た目の中年男が野方署に連行された。
たかが酔っ払いと見くびる警察だが、男は取調べの最中「十時に秋葉原で爆発がある」と予言する。
直後、秋葉原の廃ビルが爆発。まさか、この男“本物”か。さらに男はあっけらかんと告げる。
「ここから三度、次は一時間後に爆発します」
警察は爆発を止めることができるのか。
爆弾魔の悪意に戦慄する、ノンストップ・ミステリー

(講談社より)

感想・レビュー

このミステリーがすごい!《2023年》第1位、第二十回本屋大賞【2023年】第4位

呉勝浩さんは乱歩賞作家という認識だけで、作品は読むのは初めてです。

本作は当時とても話題になっていたので、いつか読めたらなと思い、ちょうどこの機会に読めて良かったです。

まず読了後の所感としては、もう純粋に面白い!面白すぎましたね。

江戸川乱歩をはじめ、乱歩賞受賞作品や、受賞した作家の作品を読むことはちょくちょくあるのですが、

やっぱり乱歩賞作家って、受賞後にすごい作品を書いて売れていく印象があって、才能かなにかを見抜く目みたいなのはあるんでしょうね。

終盤に明かされる偏見を利用した仕掛けには、ミステリーで久しぶりに読みながら唸ったなぁ。

すげぇ、やべぇ」ってな感じで、今ちょうどやってるパリオリンピックのスケートボードの解説の人になるくらいに感心しました。笑

さて、そんな本作は、一人の冴えないおじさん(自称:スズキタゴサク)が、酒に酔っ払って居酒屋店主に暴力を振るい捕まったところからはじまります。

この取るに足らない事件を一応取り調べしていくのですが、このスズキが突然クイズを出し始めます。

やがてそれは東京各地に爆弾が仕掛けられた無差別なテロへと変貌していく……という感じで、スズキと取り調べをする刑事との戦いが描かれていました。

もうこの取り調べのやりとりがそもそもすごく面白いんです。

人間の持つ心理の駆け引きもそうですし、命の価値(理由があれば殺してもいい人はいるのか?)、また善と悪を論じあう姿も、すごく挑戦的で好きでした。

そしてこのスズキの徹底的な自己卑下、卑屈さを演じているのも相まって「フー・ハウ・ホワイ」ダニットが全く見えてこないのも魅力的です。

でも少しずつ、スズキ側も刑事側も、うちに眠る「もの」がえぐり出てくる。

途中、清宮から類家に変わってから、取り調べの展開もより疾走感が出てきて、上手く考えられてるなぁと。

一応、取り調べ以外の外の視点も幾つか出てきて、それがしっかりと物語を動かす役目も果たしていました。

そして何を言っても終盤の仕掛けですよね。女性がホームレスになるはずがないという、先入観、偏見を見事に利用した仕掛け。これには一杯食わされたましたね。

ある意味これ、私含めて騙された読者のこともめっちゃくちゃえぐってるんですよね。笑

偏見により、見抜けなかった私もお恥ずかしい限りですが、それよりも「すごいなぁ、やばすぎるってこれ」と興奮してしまい、嬉しさが止まらなかったです。

本作はスズキの取り調べが物語の大部分を締めますから、会話文がとても多いんです。そしてその会話文に沢山の種を撒いて、この仕掛けを成立させてるんですよね。

当然ですが、閉鎖された場所の会話だけで伏線を撒くのって結構難しいと思うんですよ。

だから今回、外で活躍する等々力や倖田とかが重要になってくるんですけど、それでも大部分は、ほぼこの取り調べだけで賄っていましたよね。

あとはこの爆弾テロについては、「スズキタゴサク」は何者でもなかった。

「いや見抜けるか!」ってなるんですが、やっぱりそこに帳尻を合わせ、トリックとして何枚も被せて成立させるのは流石です。

それを最後まで「スズキタゴサク」として全部演じきってたあのおじさんは、最後に化け物として神格化し、次の誰かに繋がってしまうような爆弾の1つを残したという終わり方も見事というか。

いやそれにしても改めて著者さんの技量の高さが窺えますね。

そしてこの「スズキタゴサク」のやったことは、単純な悪意として本当にみなしていいのか。

被害者からすれば、そりゃ悪に感じるも仕方ないのを前提として、

悪意として言語化して、当てはめてしまえば楽ですし、そうするしかないんでしょうけど、私としてはこれが単純な恨みや復讐心からくるものでもなかったと今でも思っているんですよね。

これを明かすには、スズキの生涯を一から見るしかないに限るんですけど、スズキの正体は、最後の最後まで明かされなかった。

死んだ辰馬たちの話もなかったから、あくまでもこの爆弾テロの動機は想像でしかないんですよね。

ある意味、ここの辺りの詳細を明かさなかったことは賛否があるかもしれませんね。

個人的には本作は、昨今の時代にやれることを出来るだけ詰め込んだ意欲的な作品にも感じましたし、呉さんの他の作品もまた何か読んでみたくなりましたね。

それでは今日はここまで。

最後までお読みいただきありがとうございました。

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