百年法【あらすじネタバレ感想】不老化処置を受けた日本国民は百年後に死ぬ

あらすじ(上巻)

不老化処置を受けた国民は処置後百年を以て死ななければならない―国力増大を目的とした「百年法」が成立した日本に、最初の百年目が訪れようとしていた。

処置を施され、外見は若いままの母親は「強制の死」の前夜、最愛の息子との別れを惜しみ、官僚は葛藤を胸に責務をこなし、政治家は思惑のため暗躍し、テロリストは力で理想の世界を目指す…。

来るべき時代と翻弄される人間を描く、衝撃のエンターテインメント!

(KADOKAWAより)

感想・レビュー(上巻)

第十回本屋大賞【2013年】第九位ノミネート、第66回日本推理作家協会賞受賞

『百年法』というタイトルはお目にしていたのですが、山田宗樹さんの作品は初めてです。

まず上巻を読んだ所感としては、面白い。面白かったです。

人類がHAVIという医療を受けると、老化せず永遠に生きることができる世界というのは、とても想像力が豊かな作品だなぁという印象を受けました。

ジャンル的には近未来的なSFなんですけど、どこか現実感もすごいある。フィクションなんだけど、ノンフィクションになる日が、部分的にきてもおかしくない。

そう思ってしまうような、どこかリアリティの感じる作品で、頁を捲るうちにどんどんのめり込んでいけましたね。

上巻では第一部、第二部、第三部(前半のみ)が収録されていました。

一部毎に、主要キャラクターや、構成方法、人称視点が変わっており、多少複雑なので、慣れていく必要がありますが、それなりに読めるレベルだったかなと思います。

個人的には感想が難しいなぁと、少し苦労しましたね。笑

あとは地の文よりも会話文が多めだとも思うので(一部手記表現などあり)、わりとスラスラ読める感じだったのではないかなと思います。

さて、物語は「西暦2048年」からはじまります。

一見近未来的なスタートなのかなとも思いましたが、実はこれ「第二次大戦中とその後」からもうSF展開がはじまっていたようです。

史実は日本に落とされた核爆弾の数は「2発」でしたが、作中では「6発」落とされ、ほぼ日本大陸は機能不全、壊滅状態となっていました。

その後、アメリカ支配下の中、日本は奇跡的に立て直しに成功します。ここの流れは一緒なのですが、日本は共和国となり、世界情勢が少し違いました。

世界ではHAVI(human-antiaging-virus-inoculation=老化防止ウィルス)が使用されはじめていたのです。

しばらくして日本にもHAVIが適用され、ついに人は老化しないようになりました。

つまり人類は実施的に「永遠の命」を手に入れたのです。

ただし、このHAVIは完璧ではありません。病気や事故などで死んでしまうこともあるらしいです。

さらにHAVIを受けた年齢から外見が老化しないのと、平均して病気にもなりにくいのかな?と読んでいて思いました。

まぁここがすごいファンタジーな部分ではあるのですが、今まさに「人生100年時代」とも現実で言われていますから、どこか他人事ではないような気もしてきますよね。

そして作中では、HAVIによって永遠に人が生き続けたら日本社会がどうなってしまうのか、という問題に直面し、「百年法」制定に漕ぎ着けるまでの流れが描かれていきます。

百年法とは、簡単に書くと「100年経ったら死んでくださいね。お国ために」という法律なんですよね。

これは人が死ななくなった故に起こりうる問題ともいえるのですが、それは社会的にもだし、人間の精神としての問題も孕んでいるんです。

私たちは常に「死」に向かって生きているので、今という瞬間、例えば若き日々や肉体だったりは、もう普通は戻ってこない。

だから今をできるだけ楽しもうとしますし、できるだけ自分なりに幸せになろうとする。でも永遠に若さを保てるなら話は変わってくる。

一応、作中での「百年法」の正式な法律名称があったので引用させて頂きます。

【生存制限法】

不老化処置を受けた国民は 処置後百年を以て

生存権をはじめとする基本的人権は これを全て放棄しなければいけない

(百年法より)

こうして改めて読むとめっちゃくちゃ怖いですね。

作中でも描かれていましたが、裏を返せば100年経過して、この法律に従わなければ、その後一生人権がないので、他人に何をされても犯罪にならないんですよね…なんて法律だ…

第一部

主に3人の視点が群像劇のように繰り広げられます。

「後に母親になる者・蘭子」「官僚・遊佐」「警察・戸毛」と、それぞれ百年法制定に対して、違う気持ちを抱く3人が、2048年を生きていました。

「後に母親になる者・蘭子」は、ユニオンと呼ばれる低層だけど生活は安定する、職場団体に所属しており、そこでかつての友達の娘と出会い、色々あって二人の仲は深くなっていきます。

「官僚・遊佐」は、百年法制定に向けて動いていたもので、本作でもかなり重要な立ち位置の登場人物です。個人的にも、笹原次官との会話、民主主義についての会話など、とても楽しめました。

最後の最後で牛島議員と徒党を組む過程もあり、次に繋がります。

「警察・戸毛」は、一見硬派だが、百年法期限が近づいた少々情けない男で(仕方ないかもしれないが、笑)結構可哀想なやつでもありました。彼が追う木場ミチオは、のちに蘭子とユニオンで出会い結ばれます。

そしてその先にいる「阿那谷童仁」と呼ばれる、元テロリストに会って百年法から自分を守ってくれという感じの展開。しかし阿那谷童仁なんて存在は一度も登場せず…しかし阿那谷童仁は、その神的な存在感故に、のちにも度々新興宗教的な位置づけを形作る存在にもなります。

何より第一部での一番の注目は、予定されていた日本初の百年法第一回目の期限です。初期にHAVIを受けた者たちは、当初の予定通り、安楽死をしなくてはなりません。

国民は不安と混乱に飲み込まれ、しかし総理大臣は、責任を逃れる為に国民に委ね、国民投票で決めることに。結果は否決で、百年法は一時凍結となりました。

ここまでに辿り着くまでに、様々な社会心理や展開があって、とても興味深く読めました。

第二部

西暦2076年と約28年が経過しており、「母親になる者・蘭子」と「木場ミチオ」の間にできた息子:ケンの一人称からはじまります。

第一部で「百年法」が凍結して、それからの顛末が明かされ、5年後に百年法は開始となったみたいです。

その背景に、元官僚・遊佐が総理大臣となり、牛島議員が大統領になり、独裁国家となっていました。

第二部では主にケンと蘭子の話が多く、最後で涙ぐむんでしまう展開でもありました。

そして父親である木場ミチオ、それに関わる阿那谷童仁の謎も明かされたりもしましたね。

第三部(前半)

第三部では、遊佐と牛島の独裁体制に綻びが生じはじめており、その様子が医者視点から明かされていきます。

結構やばい大統領権限のせいで、政治体制は腐りはじめ、国民健康保険などが廃止されるなど、税負担は軽くなったが、そのせいで地方のインフラは衰退。

貧富の差は大きく開き、都市一極集中状態となっていました。

まさに現実の日本にも起こりうる可能性があると予測されている問題でもありますから、HAVIがないにしても、なんでしょうね、この類似性は。

最後に牛島のブレインでもある遊佐も牛島の権力に飲み込まれいく…ような展開で終わり下巻へ。

このまま日本はどうなってしまうのか!?

とても気になるので、さっそく続きを読みたいと思います。

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あらすじ(下巻)

不老化処置を受けた国民は処置後百年を以て死ななければならない―円滑な世代交代を目論んだ「百年法」を拒否する者が続出。

「死の強制」から逃れる者や、不老化処置をあえて受けず、人間らしく人生を全うする人々は、独自のコミュニティを形成し活路を見いだす。

しかし、それを焼き払うかのように、政府の追っ手が非情に迫る…世間が救世主を求める中、少しずつ歪み出す世界に、国民が下した日本の未来は!?驚愕の結末!

(KADOKAWAより)

感想・レビュー(下巻)

ようやく下巻も読了。

個人的に忙しい時期で、読むのに時間がかかりましたが、最後までとても面白く読めました。

では軽く振り返っていきます。

第三部(後半)

まずドクター加藤がケンたちに拉致され、拒否者村でのお話の続きが描かれていました。

センセイがSMOC(多発性ガン)にかかって、もう先が短く駄目だったり、ドクター加藤とケンの繋がりもここでしっかりと描かれていて、後に繋がっていきます。

そして同時に大統領下の武装組織「センチュリオン」が拒否者村をどんどん摘発という名の(大虐殺)を行います。

この結果、ケンを含め、多くの拒否者村は命を失いました。

第四部

時は【西暦2098年】まで経過しており、ケンは東京で活動していることがわかりました。

由基美やかつて母・蘭子の同僚だった貴世とも再会していたりもしました。

ケンは共和国警察にも「阿那谷童仁」としてもマークされており、色々と接触シーンも増えていきました。

別視点では、警察側の香川や、遊佐首相視点も動いておりました。

懐かしの特準メンバーが集まったり、上巻でも描かれていた大統領が、やはりそのまま狂っていくような流れになっていきます。それは同時に日本共和国の衰退を加速させていきました。

牛島大統領はやがてSMOCであることも判明し、国内情勢はより不安定なものへと変化していきます。

さらにここからケンや遊佐首相が捕まり、共和国内でクーデターが勃発したり、と激しい展開が繰り広げられました。この辺りは本当に面白く、捲る頁が止まりませんでしたね。

なんとかクーデターを回避した日本共和国ですが、最後の最後にHAVI(不老化処置)の謎が明かされます。

それはHAVIを受けた患者は、必ずSMOC(多発性ガン)を発症して死ぬことが判明したのです。

さらにHAVIを受けた者が全滅するまでの期限が長くても「16年しか残っていない」という、日本共和国はほとんどがHAVIを受けていましたから、国家滅亡の危機にさらされてしまいます。

ここから遊佐たちが、共和国をどう建て直すかが描かれていき、最後は登場人物がほぼ全員死んだ世界、ケンだけが生き残った未来が描き方がされて物語は幕を閉じました……

その後のケンが、独裁官になった未来が最後の一文で明かされて終わります。

それはつまり国民が選挙で遊佐首相の望んだ生き残る道(現役世代が苦しみ、未来の人々に希望を託す)を選択したこと。

その後、日本共和国が残るように、国民たちが正しく生きた様も説明していたことになるんですよね。この辺りもすごく上手いなぁと思いました。

ただケンの回想で「遊佐首相は、狂信的な民主主義の凶弾に倒れる前」と書かれていたので、殺されたのが判明して、少し寂しかったですが…とても心に残った言葉を残していたので一部抜粋させて頂きます。

「国力がいかに衰退しても、電気・通信・水道・道路・鉄道網のメンテナンスだけは怠ってはならない。ライフラインと物流は、国を動かす両輪である。この二つが機能するかぎり、国が死ぬことはない。宗教や思想、主義、哲学、生き甲斐、人生観、価値観、そういった精神的なものは、国民一人一人に任せておけばよい。国政を預かる者の責務は、国民が人間らしい生活を営むための物理的基盤を整えることに尽きる。なぜなら、それができるのは国家だけだからだ」

(百年法より)

まとめ

はい、という感じでいかがでしたでしょうか。まとめるのが下手で本当に申し訳ないです。

しかし一つ言い訳をさせて欲しいのですが、この作品は構成がね、凄いんですよ。ホントに。笑

上巻で描かれた多くの登場人物や設定、展開が最後までしっかりと生きており、その後に起きていく事象と展開がとにかくスピーディーで、私のいまの力量ではシンプルに読書を楽しむので精一杯でしたね。

上下巻で、時の経過も約50年くらいするので、軽く読みなおしてみるとなんか懐かしいなぁと思える程でした。

解説の北上次郎さんも書かれていたのですが、終盤の演説シーンの描き方が素晴らしく良かったです。

それによりエンディングがより活きてくる内容だったかなと思います。

あとは空想とはいえ、法律や政治制度、歴史など、著者さんの知識が豊富なことは間違いないです。じゃないと書けないような内容だったかなと思います。

ある程度現実世界が舞台でありがなら、ファンタジー(虚構)要素があった本作。でもそのファンタジー要素と似た国家構造が、いつの日にか現実になる時が来るかもしれない。というより、心境的にはもう既に存在していますよね。社会保障制度とか、、

この作品は「日本が共和国になった」とか「老いなくなった」とか「百年で死ななくてはいけない法律ができた」とか、色々と強いポイントがあるのですが、結局のところ、「命、寿命」という人間の生き方「次世代に託す」といったことを今一度改めて考えて欲しい、という狙いが一番強いのかなと勝手に感じました。

私自身も読了後より「生死」という概念から、生活全てを今一度、考えてみるきっかけにもなりました。

そうすることで自由と不自由、平等と不平等、人と歴史、我々がいま享受できている文化文明など、あらゆる物事の見方を、日常レベルから変えていかなくてはいけないなと個人的に思ったりもしました。

最後にケンが残した言葉を一部抜粋させて頂き、今日は終わりたいと思います。最後までお読みいただきありがとうございました。

「あなた方にお願いする。自虐的で冷笑的な言葉に酔う前に、その足で立ち上がってほしい。虚無主義を気取る余裕があるなら、一歩でも前に踏み出して欲しい。その頭脳を駆使して、新たな地平を切り拓いてほしい。我々の眼前には、果てしない空白のフロンティアが広がっている。あなたにもできることは見つけられるはずだ。」

(百年法より)

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