あらすじ
ゆるされている。世界と調和している。
それがどんなに素晴らしいことか。
言葉で伝えきれないなら、音で表せるようになればいい。「才能があるから生きていくんじゃない。そんなもの、あったって、なくたって、生きていくんだ。あるのかないのかわからない、そんなものにふりまわされるのはごめんだ。もっと確かなものを、この手で探り当てていくしかない。(本文より)」
ピアノの調律に魅せられた一人の青年。
(文藝春秋より)
彼が調律師として、人として成長する姿を温かく静謐な筆致で綴った、祝福に満ちた長編小説。
感想・レビュー
第十三回本屋大賞”大賞“受賞作品
宮下奈都さんは初読みになります。
タイトルからいったいどんな物語なのかしらと思い、読んでみました。
そしたら、ピアノの調律師のお話でした。
山(北海道?)でひっそりと育った男子高校生の外村が、体育館のピアノを調律する板鳥さんと出会い、調律師を目指すきっかけとなる。
こういった出会いは物語においてはベタですけど、少し変則的な題材においては良いと思います。
だがそこから外村は一度、二年生の専門学校で学び、やがて板鳥さんが務める同じ会社に運良く就職することに成功する。
そこから会社で調律師としてのイロハを先輩たちに、そしてお客様であるピアノ弾きに学んでいく。
そうした中で外村という人間がどのような人間なのかが描かれていくのですが、まぁこれが絵に描いたような善人で読む人にとっては多少賛否があるところ。
特に女性作家さんが描く男の子主人公は基本温厚で気弱なタイプが多いので、まぁ仕方ないといえば仕方ない。
私は基本的に、善人すぎる主人公が出てくる物語は苦手な方ですけど、本作の雰囲気にとてもマッチしていると思えたので特にそこまで気になりませんでした。
むしろ外村がいたから双子の姉妹や板鳥さん、先輩たち含め他のキャラクターが引き立つようになっていたかなと思います。
最後まで静かな雰囲気でしたが、構成の起伏は確かに感じられたので、ゆっくりと読書をする一冊にはもってこい良い小説だったと思います。
なんか雨の日とかに読むのもすごく良さそう(私が読んだ時はセミが鳴いた真夏の快晴でしたが。笑)。
最後に書き出しの文章を引用させて頂き、今日は終わりたいと思います。
静謐な雰囲気が伝わってきてグッと物語に引き込まれる言い文章でした。
森の匂いがした。秋の、夜に近い時間の森。風が木々を揺らし、ざわざわと葉の鳴る音がする。夜になりかける時間の匂い。
(羊と鋼の森・本文より抜粋)
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