あらすじ
八歳の時にある出来事から言葉を失ってしまったマイク。だが彼には才能があった。絵を描くこと、そしてどんな錠も開くことが出来る才能だ。
孤独な彼は錠前を友に成長する。やがて高校生となったある日、ひょんなことからプロの金庫破りの弟子となり、芸術的腕前を持つ解錠師に……
(早川書房より)
非情な犯罪の世界に生きる少年の光と影を描き、MWA賞最優秀長篇賞、CWA賞スティール・ダガー賞など世界のミステリ賞を獲得した話題作
感想・レビュー
翻訳:越前敏弥
このミステリーがすごい!海外編:第一位
海外でも様々な賞を受賞している本作ではありますが、さっそく読んでみました。
まずいつもの所感としては、思っていたよりも結構面白かったかな?という印象でしょうか。
?なのは、まず本作は様々なミステリーの賞を受賞してはいますが、そこまでミステリーではないです、正直なところ。笑
というよりも青春小説とアクションよりのサスペンスを行き来しているような感じの作品で、おそらく物語での少し複雑な構成がそうさせたのではないかな、と思っています。
まず順を追って、本作の主人公マイケルが刑務所にいるであろう一人称の語りから、過去を追走していくスタイルで物語がはじまります。
アメリカでは特に王道の構成ですよね。
さらにここから主人公マイケルの【学生時代と解錠師時代】の2つの過去の物語が一章毎に入れ代わり、明かされていきます。
マイケルは、8歳の頃にショッキングな体験をしたせいで、口が聞けなくなり、喋られない唖になってしまったらしい(まだこの時点ではショッキングの体験は明かされていません)。
このタイミングでマイケルは両親を亡くし、叔父に引き取られ共に生活をすることに。
そんな悲劇を体験したマイケルには、特技が2つありました。一つは絵を書くことが上手いこと、二つ目は鍵のピッキング技術です。
絵は漫画を読むのが好きでよく読んでいたらしいので何となくわかりますが、鍵開けとの出会いも物語を進めていくとわかっていきます。
こうして金庫破りの技術は、序盤こそ学生のお遊び程度でしたが、才能があったせいで徐々に悪の道へと引き込まれいき【ゴースト】と呼ばれる老人から学ぶことに。
この辺りはエンタメ感が強めですが、面白かったです。
この作品の特徴として、主人公のマイケルが最初から最後まで一言も喋りません。
一応身振り手振りと軽い手話のシーンがありますが、マイケルは基本的に他人と積極的に意思疎通を図りませんので、ずっと誰かが喋っています。
なので読者は、マイケルと同じ視点で、他者が動かす物語に巻き込まれていくような感覚を味わえるということです。
そんなマイケルですが、アメリアという女の子に恋をしたりもします。途中、恋敵のジークといきなり殴り合いになるシーンがあるのですが、めっちゃ笑えました。
それが後のマイケルの心の支えであり、悪の道への切符にもなるのですが、マイケルはそもそも悪人ではないので、そこがタイトルもある【解錠師】ということなんですかね。
ピッキングシーンでの心情や、ゴーストから解錠技術を学ぶシーンなんかはとても魅力的です。
解錠師、彼らは「芸術家」や「金庫は女として扱え」など、面白い表現方法だなと思いました。
終盤付近ではマイケルの過去も判明します(下半身の件は、ちょっと男にはショッキングな内容でもありましたが、笑)。
マイケルは序盤に判明している通り、最後の最後で禁固刑10〜25年という重い罰を受けますが、どこか希望の光があるような終わり方になっていました。
一応裏切り者とかいてミステリ?っぽいような一面もあるのですが、個人的にはそこまで驚きというか、大きな謎が明かされた感はなかったですね。
ここからは少し気になった点を。
まず本作は一人称なのですが、序盤が少し読みにくいというか、マイケルの雰囲気と言葉遣いに、微かな乖離を感じてしまったんですよね。
それは中盤で改善されて、読みやすくなっていくのですが、
最初はミステリ的仕掛けかなんかがあるのかな?とも思ったのですが、単に訳者さんの波長が中盤でようやくマイケルと馴染んできた、という感じでしょうか。
翻訳の越前敏弥さんは「ダ・ヴィンチ・コード」なんかでも読んでいて、少年よりも賢い感じの大人の方が得意とかあるんですかね。
あとはシンプルに本作の見せたいものが何かわからなかった、ということですね。話としては面白いんですけど、どこか落とし所がモヤッとしたような感じでした。
アメリアとの漫画のくだりなんかは、作品のギミック回収としても良いんですけどね、何か、物足りなさを感じてしまったのも正直なところですかね。
マイケルの微細な心の変化はあるんですけど、解錠師になったからといって、結局悪い奴らに巻き込まれて捕まってしまっただけ、というオチを思うと、この辺りがそう思わせる要因かもしれません。
家庭環境からはじまる非行少年の風刺としても少し弱い気もするし、どちらかというとサスペンス感の方が強めな過去だっただけに、うーん…。
最後に構成に関して、この交互に時系列が動いていく構成も稀にみかけるスタイルですけど、そもそも確かな技量と精神力がないとかなり難しいのですが、本作は巧みでした。
2つの視点が合流していく過程は捲る頁が止まりませんでしたし、個人的に楽しめたので良かったです。
まだ他の方の感想を拝見していないので何ともいえませんが、この構成がヤキモキさせられる、人によっては読んでいる時にテンポが悪くなる、と感じられる方がいてもおかしくはないだろうなと推測しています。
なのでやはり本作はこの特殊な3重の構成が最後まで楽しめるか、そうでないかで少し評価が分かれそうですね。
まぁそれでも厚めの長編を読ませる力があるのは間違いない小説ですので、ピッキングとかに少し興味がある方や、青春小説としても少し読めるので、気になった方は是非とも読んでみてはいかがでしょうか。
それでは今日はこの辺で。ありがとうございました。
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