あらすじ
娘を亡くした日も、妻を亡くした日も、男は駅に立ち続けた…。映画化され大ヒットした表題作「鉄道員」はじめ「ラブ・レター」「角筈にて」「うらぼんえ」「オリヲン座からの招待状」など、珠玉の短篇8作品を収録。日本中、150万人を感涙の渦に巻き込んだ空前のベストセラー作品集にあらたな「あとがき」を加えた。第117回直木賞を受賞。
(集英社より)
感想・レビュー
第117回直木三十五賞受賞作
浅田次郎さんは初読みになります。
まずは代表作とも言える一度は名を聞いたことがある鉄道員(ぽっぽや)から読んでみることにしました。
直木賞と映画化作品なので勝手に長編小説だと思っていたのですが、蓋を開けると短編集で少し驚きました。
おそらくぽっぽやが映画化された時代に私はまだ生まれていなかったので、高倉健さんが主役をやっていた……ぐらいの本当かどうかもわからないぎりぎりの知識しかありません。
ということで恒例の本作をまるっと読んだ直後の正直な所感を述べてたいと思います。
個人的に「鉄道員(ぽっぽや)」以外の短編集がなぜか全部面白かった!という謎の現象だったのですが、お世辞抜きに鉄道員以外、それぞれの味が用意されていて、かつ傑作と呼べる短編も多数見受けられましたね。
最後にうるっとくるものが多かったように思います。
本作に収録されている作品は以下になります。
「鉄道員(ぽっぽや)」「ラブ・レター」「悪魔」「角筈にて」「伽羅」「うらぼんえ」「ろくでなしのサンタ」「オリオン座からの招待状」
の8編とあとがき、解説という内容。さくっと一つずつ感想を書いていきます。
「鉄道員」「ラブ・レター」
個人的にまず鉄道員が捻りがなさ過ぎて少しつまらないような、最後のシーンをオチとして使うのは悪くないですし、ならもう少し長く書いて欲しかったかなぁという印象を受けました。
でも今思い返せば、まぁそれほど悪くもなく、うーん。でもやっぱり気になったのは、やりたいオチが浅田さんにあって、その気持ちが先行しすぎるあまり、筆の運び方に出過ぎたような気がしましたね。
とまぁこの先の短編集の期待度は下がっていたのですが次の「ラブ・レター」で衝撃を受けましたね。
この人はいったい何を書いているんだ?と高揚感が湧きましたね。
読書家と呼べるほど小説が読めている私ではないですが、それなりに様々な方の小説を読んできましたけど、また一つ、読んだことのない感覚を覚えましたね。
一度も会ったことのない妻(中国人女)の孤独さや寄る辺なき形を、ああいう形式を使って表現する手法に上手いなぁと関心しました。そしてそれに対する仮夫の心情も割れてしまった鏡のようで、面白く読めましたね。
ここで一気に浅田次郎さんの見方が私の中で百八十度変わったと思います。
「悪魔」
そこから「悪魔」も傑作。元々かなり前の作品なので、この作品と展開などが類似した作品を読んだことがあるような既視感もありましたが、それでも面白く読めました。
悪魔こと東大生家庭教師に呑み込まれていく富裕層家庭の崩壊。それを子供の一人称視点から見るという、とても恐ろしくスリリングな体験でした。
悪魔を際立たせる構成の流れもお見事でした。
「角筈にて」
幼馴染と結婚し、全てを手に入れたような一流商社マンがプロジェクト失敗の責任を自分だけ背負わされ、リオデジャネイロに出向し、人生の成功から逸れていく……という流れなのですが、ここからこの中年男の過去を掘り下げていく流れに。
実は幼少期に親に捨てられ、親戚の家で育つかなり寂しい一面もあったが、そのお陰で後に妻に幼馴染とも結婚できたりと、それなりに救いはあったかのように思えたが、未だに父親との和解というかわだかまりがここ残りだったようで。
そこから父親の幻覚を見て本当の理由を知るみたいな流れで最終的に前を向いて日本を離れる……FIN。
個人的にぼちぼち、まぁまぁといったところ。
ぽっぽやといい、この先の作品にも同じような幻覚、霊敵なものが出てきて会話出来たりする展開が数作品があるのですが、それがハマる作品と特にそこまでかなぁという作品があったような感じでしたね。
霊出すの好きだな浅田次郎さんと思いながら、そういえば昔母親の本棚に浅田さんの幽霊電車?みたいな本があったような。笑
「伽羅」
浅田次郎さんも長くファッション業界に身を置いていたという経験から生まれた作品。
これは個人的に良かったですね。これ嫌いな男性いないっすよねって感じの雰囲気がなんかとても自分にはハマった作品です。
簡単にまとめると取引先の美しい年上女性に惚れた会社でもトップクラスに優秀セールスマン(青二才)がその女性相手には持ち前の力を発揮できない、そして最後は女をライバルセールスマンに寝取られていて、自分はさり気なく関わりを終えて静かに終わる……とかなり要約しましたがだいたいこんな感じ。
当時のファッション業界を知らなくてもやろうとしていることがスッと理解できる流れで、他の題材にも使えそうな展開。
あとはキザというか男の虚しい感じと、年上女性をよりフォーカスする為の小道具の花や服、雰囲気作りが上手く書けているなぁと思いました。
「うらぼんえ」
これは泣けましたね。気の弱い医師と結婚した女性の三人称一視点。
医師である夫の不倫をし、更に相手は子供を産もうとしているところで、夫の実家(田舎)でお盆の行事で共に帰ることに。
空気はぎこちなく、これは完全に夫が悪いのだが、実家サイドは全部子供を作らない妻のせいにして、離婚を促してくるという言い方は悪いが胸クソみたいな展開に。
そこで明かされる妻の過去。両親に捨てられ、祖父祖母に大事に育てられたが、今はもういない。家族どころか親族がいないことがまた仇となって、夫側サイドから一方的に妻が悪い方に押しつぶされそうになっていたところに、救世主(まさかの死んだ祖父)が現れる!笑
これはお盆の幻のようなものだが、物語は続行、結果実家サイドは押すに押せず、不倫して子供を作らせた不義があるのはこっちなので、朝まで話し合い。
江戸っ子の祖父は勇ましくかっこいいが、へとへとになって帰っていく。のちに祖父がとった行動がまたかっこよく、ベタだが妻の幼少期の祖父との過去シーンがこれまたジーンと来て、最後は子供が生みたいと初めて熱が入り、離婚して終わる。
エンタメだけどそれに留まらない「生きる」自分の足で前に進むという一種の自覚を描いていたように思えて、短い中でもカタルシスもあって面白いなぁと思いましたね。
「ろくでなしのサンタ」「オリオン座からの招待状」
最後は2つ一気にいきます。まず「ろくでなしのサンタ」の方から。こちらもベタっちゃベタですが、嫌いな人もいないような、たまにはこういう作品があってもいいよねって感じでほぼ掌編に近くさくっと読めるところも良かったかしら。
それにあとがきでも書いて驚きましたが、主人公のろくでなしが浅田次郎さん本人自身にとても近いらしく笑ってしまいましたね。
そして最後の「オリオン座からの招待状」。これもつまんないかなぁと序盤は思っていたのですが、最後はまんまと感動しましたね。
また思い返せばベタなオチというか流れなのですが、うーんこれまた嫌いな奴いないっすよねって感じで、浅田次郎さん自身も名刺代わりの作品だとあとがきで書いていました。
まとめ
時代背景がザ昭和なので、私はとてもそういう作品は好きなので、街の雰囲気や作中に出てくる当時の時代を表した専門的な用語も興味深く読めましたね。
全体的に良作ばかりで、だからこそ「鉄道員」が一番惜しいと思ってしまいました。
まぁ映画化されて大ヒットなんですから、これもメディアミックス特有の歪みなんでしょうけど。
あとは同じような展開やベタが続くのが苦手な方は、少し評価は変わるかもしれないですね。
私はジャンル自体が面白かったし、これぐらいのベタ続きだったらまだ全然良いんじゃない、と思えたので楽しめましたね。
ちょっと疲れたので今日はこの辺で終わりたいと思います。
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