あらすじ
謎の作家フリアン・カラックスの過去が明らかになるにつれて、ダニエルの身に危険が迫る。
一方、彼は作家の生涯と自分の現在との不思議な照応に気づいていくのだが…。
ガウディ、ミロ、ダリなど幾多の天才児たちを産んだカタルーニャの首都バルセロナの魂の奥深くを巡る冒険の行方には、思いがけない結末が待っている。文学と読書愛好家への熱いオマージュを捧げる本格ミステリーロマン。
(集英社より)
感想・レビュー
上下巻の(下)になります。
まず読了後の所感としては、素直に面白かったですね。
初めて味わうような独特な読後感で、それくらい色々なジャンルが交錯していた内容でもあったと思います。
特に『風の影』の著者・フリアン・カラックスの過去編が後半の大部分を占めるんですけど、それがすごく面白かった。
ここが結構、個人的には大きなポイントになったかなと思います。
物語は親友トマスの妹・ベアトリスと恋仲になったダニエルですが、それと並行して幸せな展開が待っている訳ではありませんでした。
むしろフリアンや友のフェルミンには、とり過激な展開が襲いかかります。
それでも『風の影』を刑事のフメロに対して、決して手放さないダニエルは、最後に一度死にかけます(その後、急死に一生を得る。笑)。
よくよく考えたら中盤辺りで、ダニエルは「自分はあと七日後に死ぬ」と唐突に独白しており、一人称でこれはちょっとずるい。笑
その後、ヌリア・モンフォルトの手記で、フリアンたちの暗い真実、過去が明かされていきます。
一部の展開的結末には、どこか既視感はありましたが(実は血の繋がった妹だった…など)、それをひっくるめてもかなり計算された人物関係の構図で、ピースがハマっていく過程に何度も「なるほど」と頷けました。
その中でも、刑事のフメロも入っており、面白いんですけど、彼の成り上がり方って可能なんですかね?
ばしばし人を殺していましたけど、時代背景的には可能だったのでしょうか?
次々と起きる展開の裏にはしっかりとした「動機」が組み込まれており、その辺りも抜かりなかったかなと思います。
多少、医学的な面でみると火傷後のフリアンには無理も感じましたが。笑
ただ一つ、「忘れられた本の墓場」というのは結局何だったのか?ということですよね。
本作はシリーズものなので、個人的にはもっと詳細に明かして欲しかったんですが、仕方ありません。それくらい魅力のある設定でした。
一応注記しておきますが、物語はしっかりと畳まれているのでご安心下さい。
あと終わり方も、各キャラクターたちのその後が描かれており、ハッピーエンド?とは言いにくいような気もしますが、気持ちよく読了は出来ると思います。
作中では幾つか名言、名シーンとも呼べる箇所があり、何度もハッとさせられました。
少し長くなるので引用は控えますが、ヌリアの手記に「戦争は、忘れることをえさにして大きくなっていく」という言葉があり、とても胸に響きました。
一冊の小説を巡る冒険譚が、ミステリー的なホワイダニットと歴史的な背景を描くことで、ここまでの物語になるのかと、改めて盛り沢山な一冊だったなと思います。
それに読書好きにはたまらない一冊にもなるのではないでしょうか。
それでは今日はここまで。ありがとうございました。