さよならドビュッシー【あらすじネタバレ感想】全身に火傷を負った少女は、ピアノと共に強く生きようとする…が。

あらすじ

ピアニストからも絶賛!ドビュッシーの調べにのせて贈る、音楽ミステリー

ピアニストを目指す遙、16歳。祖父と従姉妹とともに火事に遭い、ひとりだけ生き残ったものの、全身大火傷の大怪我を負う。それでもピアニストになることを固く誓い、コンクール優勝を目指して猛レッスンに励む。ところが周囲で不吉な出来事が次々と起こり、やがて殺人事件まで発生する―。

第8回『このミス』大賞受賞作品

(宝島社より)

感想・レビュー

第8回『このミステリーがすごい!』大賞受賞作

原題:「バイバイ、ドビュッシー」

中山七里さんは初めてですね。

著者の「連続殺人鬼カエル男(原題:厄災の季節)」が本作と同時に最終選考までいったとかでどっちも読みたいのですけど、まず受賞作の方から読んでみました。

ここからネタバレがありますのでご注意!

まず読了後の所感としては、評価は少し難しいところですが、叙述にまんまとやられて上手い!という感じでしょうか。

読了後に振り返ってみて、確かに気になる所や、色々と稚拙な点もあるにはあるのですが、その中でも特に「酢豚」の伏線の貼り方が絶妙に上手かったです。

本作はタイトルに出てくるドビュッシーの名の通り、クラッシック音楽のピアノが題材になったミステリになります。

ピアニストを目指す主人公の「遥」は、ある日全身に大火傷を負います。

そこでスマトラ沖地震で両親を失った従姉妹でもあり、友人でもある片桐ルシアとおじいちゃんを失い、自分だけが生き残りました。

だけどそこから這い上がろうとする、所謂スポ根系なストーリー運びになります。

その道中で自分に向けられた、障害者としての悪意であったり、肉体的な辛さも味わい、さらに身内の悪意がミステリ度を加速させます。

そこから母親も何者かに殺され、それでも遥は、天才ピアニストの岬にピアノを習い、精神と技術を高めて、コンクールに打ち込む日々で物語は進みます。

道中、刑事が出てきて、これは単なる事故ではなく、第三者の悪意が確実にあるという風にもなっていき、読者としては、スポ根エンタメを楽しみたいけど、ミステリとしての結末も早く気になる感じで、個人的にはピアノコンクールのシーンが邪魔とまでは言いませんが、少し長いなと感じたのも正直な所ではあります。

それでも最後のピアノを弾くシーンは、迫力があって感動しましたし、終盤のどんでん返しには「うわぁ、確かに豚の描写あったわぁ」となりました。笑

思い返せば色々とおかしな点もあったんです。本作は遥の一人称なのですが、亡きルシアについての言及するような独白などが事件後、全くないという所など…

ですが、岬や介護士のみち子さん、漫画家志望の研三叔父さんなどを使った巧みなミスリードがどんでん返しを眩ませていました。

そして遥は、実は死んだはずの片桐ルシアだったという驚愕の真実が岬の口から告げられます

ただみち子さんについては、結構わかりやすいかったので、過去が露呈して、実は、、のパターンかなとは思っていました。

でもルシアという伏線を見破れていなかったので、結局私は何も当てられていないのですが。笑

いやぁ、それでもルシアのイスラム教の洗礼を受けたという設定は上手かったです。

遥は死亡前に、みち子さんの「酢豚」絶品だと褒めちぎっていますが、事後の遥は確かに、苦手な豚料理と言っています。

ここからは個人的に読み返してあんまりフェアではないなという点も幾つかあげていきます。

  1. まず首振りの癖が鏡で逆という原理、わからなくもないですが、凡ミス過ぎないか?というところ。
  2. あと火事の日のパジャマと部屋入れ替えの理由は、あまり納得出来ない、当てつけな感じもしました。
  3. ルシアの母親殺しのシーンも、それなりに会話などは納得出来ます。母親の直感というもの新人賞作ということで多少大目に見るとして、ですがそもそも読者は神社と自宅の距離感、地理があんまりよくわかってないので、足が不自由で雨という主人公の環境を含めて、その辺が雑だったかな、と。まぁ一度だけ部屋を出た、と書いてはいるので、難しいですが。
  4. あと医療的にも、火傷の中でも一番酷い火傷を全身に負って、経った二ヶ月で退院。果たして本当にあそこまで機能回復するものなのか。
  5. そしてルシアの言語問題に関して、事後の結果、あまり喋らないという点を差し引いても、あそこまで内面でも日本語を巧みに語れるだろうか。そして喋れば、いくら喉が焼けた濁声であっても、習得してまだ二ヶ月程度だったので、第二言語らしいアクセントの癖がもっと出て周囲は異変を感じるのではないだろうか。
  6. そして最後の頁で、ルシアは日本の少年法で裁かれる、という雰囲気になっているのですが、そもそもルシアはまだインドネシア国籍なのではなかったか?

という感じで、今書きながらも変な点は思ったより多かったかな、という印象ですね。

新人賞作ということなので、著者が明らかに語りすぎてしまうような場面や、少女にしては不自然なほど知的な言葉を使用する内面だったり、やたらと四字熟語が連発するところもありました。

ただこれら細部の詰めの甘さを凌駕するのは、やはり「酢豚」の伏線と、それを気にさせない物語の走らせ方、引きの強さが受賞の全てだったかな、とも思えました。

スポ根的に見ると「遥だったと思っていたあの感動の演奏を返してくれ」という結末にはなるので、この辺もここまで熱くする必要があったのかとも思えなくもありません。笑

おそらくこの発想を思いついた時に、これをしてしまうと、どうして物語自体の意味合いが変わってしまい、後味が変わってきます。そしてそれは良い方向ではない。笑

でも分かっていても止めることは出来なかったのでしょう。

だけどこれは新人賞作にあるべき姿勢の一つのようにも思えました。おそらくプロだったら、一旦躊躇してしまうのではないでしょうか。

個人的には、ルシアの火事明けの悲劇のような展開、理由は良かったと思います。さよなら、ドビュッシーという末文も。

まだ選評や、他の方の評価を見ていないので勝手なことを書きますが、おそらくスポ根とミステリのバランス感覚が、常に行ったり来たりとする構成なので、賛否が分かれるような気もします。

人によってはやりたい事が中途半端だと評価する可能性もあり、また別の人によってはこの絶妙なアンバランスさを楽しめたという感じになるのではないでしょうか。

私はそれこそ新人賞らしい才能、エネルギーだと思ったので、是非ともカエル男の方や、他の作品も読んでみたくなりました。

それでは今日はこの辺で、終わりたいと思います。

最後までお読み頂きまして、ありがとうございました。お疲れ様です。

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