恩讐の彼方に【感想】(青空文庫・菊池 寛)

感想・レビュー

菊池寛は初読みですが、これは良き作品でした。

主君の妾と密通しそれがバレて主君を殺した市九郎が江戸から逃げるように妾と盗賊となり、人を殺し続ける生活を送る。

いつものように市九郎は若い夫婦を殺したが、女の頭についていた貴重な物を取り忘れ、それを知った妾が驚き、自分で取りに行くその様を見て、忘れかけていた良心の呵責が溢れ出し、妾からも逃亡。

市九郎は今までの罪を懺悔し死ぬ覚悟だったが、出家する。

そしてある日、何人も命を奪った鎖渡しを知り、取り憑かれたようにトンネルを掘り穿ち出す市九郎。

街の皆は気狂ったと嘲笑し、やがて存在すら忘れさられたり、されなかったりと21年。

あともう少しで貫通し、街の皆も市九郎を認め崇め出した頃、主君の息子が復讐に来る……と。

物語の構造がとてもシンプルで、分かり易く、文章も読みやすいので物語に入り込めました。

これが恩讐の彼方に、か。

最後の結末は思いの外あっさりとハッピーエンド的な感じでしたが、読後感は良いです。

まぁ親父や親族は怒ってるでしょうけど。

確かに息子にとっては、敵の顔も知らず、そもそも親父のことすら小さくて殆ど何も覚えていないだろうし、全てが後知りの家系的虚構の憎悪だから、案外こんなものかもしれない。