流【あらすじネタバレ感想】二十年に一度の傑作!第153回直木賞受賞作

あらすじ

一九七五年、台北。内戦で敗れ、台湾 に渡った不死身の祖父は殺された。誰に、どんな理由で? 無軌道に過ごす十七歳の葉秋生は、自らのルーツをたどる旅に出る。台湾から日本、そしてすべての答えが待つ大陸へ。激動の歴史に刻まれた一家の流浪と決断の軌跡をダイナミックに描く一大青春小説。選考委員満場一致、「二十年に一度の傑作」(選考委員の北方謙三氏)に言わしめた直木賞受賞作。

(講談社より)

感想・レビュー

第153回直木賞受賞作、第十三回本屋大賞8位ノミネート、このミステリーがすごい!《2016》第五位ノミネート

東山彰良さんは初読みになります。

さて、直木三十五賞を受賞した本作ですが、選考委員も満場一致で「二十年に一度の傑作」と言わせたというのでかなり期待して読み始めました。

簡潔に、確かにこれは……ダイナミックな傑作だった。確かに今思い返しても、人生というか、生命の血がこの小説には流れていたように思います。

堕落、喧嘩、勉強、受験失敗、神様、恋、失恋、徴兵、家族、殺人、罪と罰、友情、時代などなど他にも色々が詰め込まれた青春小説という括りに収まらない物語でしたね。

物語は70年代の台北(たいぺい)が舞台。

そんな激動のうねりを受けた時代で、ある日祖父が無惨に殺されたことにより、17歳の主人公・葉 秋生(イエ チョウシェン)が自分のルーツを探しに旅に出るという。

途中途中で先の展開が一人称によってわかる回顧スタイル。

だが本作は、まず秋生の人生を濃密に描いていく。

真面目だった秋生が、やがて悪友ともよべる友を見つけ、喧嘩三昧の日々、初恋と失恋、徴兵など他にも様々な経験を得て、行く中で当時の台湾の世界に飛び込んだように錯覚させられる。

というのも、当時の台湾の空気の匂いを知らない自分でもまるでその世界を知っていたように、それほどまでによく書けているなぁという印象。

街並み、個性的な家族だが普遍的でもある「人」、匂い全部が体中に染み込んでくるような。

それだけでも良い読書体験なのですが、本作の根底はずっと「祖父の死」にあります。

少しずつ大人になっていく秋生は、悪友を救うべくヤクザを揉め事をお越したことをきっかけに祖父の影にまた近づき、大学を入学、卒業し、通訳の仕事も真面目にこなしたりとやがて大人になっていき、ついに大陸(中国)に足を踏み入れる。

またこの間に日本とも交流が盛んになり、当時の日本はバブル期です。お話の根幹としてこの日本はそこまで重要ではありません。

「恋」という関係性として重要なところではありましたが。まぁ最後の締めにも繋がりますしね。

また当時の中国と台湾の関係性は、国民党と共産党の二部に分割されていて、安易に踏み込める場所ではなかったとのこと。

そして最後の最後で祖父の死の謎が解けますが、この辺りも夢中で頁をめくるように読んでいきました。

まとめ

重厚ではありますが、重すぎず、軽すぎることもない、けれど読み応えのある作品でしたね。

作中の逸話やユーモア的なセンスも面白く、笑えるような場面も多数あります。

あの封建的なお婆ちゃんや、パワフルな女性陣たちは現実にいたら嫌悪しそうですけど、小説としてはめっちゃ面白かったなぁと。

秋生が母親にムチでしばかれるシーンとゴキブリの時の無敵の婆ちゃんは今でも笑えます。

エンタメとしての要素が本当に全部詰め込まれていて、逆にここまで真っ直ぐ詰め込まれていると嫌になる人も出てくるかもしれませんが、個人的には、最後の犯人と秋生の対峙するシーンがとても良かったので評価はかなり高い作品になりましたね。

何の罪もない人達を生き埋めにした祖父も、母親に縋りつきながら土に埋められていく妹を木の上から見つめるしかなかった復讐者も、誰が悪かったのか。

これは完全に国という母体が悪いのですが、その辺の時代のうねりを描くという意味でも秀逸でしたね。確かに傑作だ。

終わり方の結婚エンドはまるでアメリカ映画のような感じもあって、読者はその後の離婚も知っており、それ故に人生譚でもありましたね。綺麗に畳んだなぁという印象。

この作品のマイナス要素を敷いていうならば、人物名称がとにかく覚えられないので、そこくらいですかね。まぁ翻訳ものとかによくあることなのでその辺は仕方ないですが。

個人的な翻訳小説や外国人が主役の小説を読む時のコツ

個人的に外国産の小説の読み方のコツとしては、人物名称をぼんやりとしか覚えず、むしろ覚えないでとにかく読んでいくのが物語に没入するときのポイントかと思います。

例えば本作の主人公(葉 秋生)は(イエ チョウシェン)と読むのですが、私は本作を読んでいる時は、(秋生)という書体の全体的にフォントの雰囲気で覚えます。

この際に(「ちょうふぇん……」とか「あきふぇ……」w)くらいあやふやな呼び名で読み進めたり、もはや呼び名すら頭に浮かべずにいきます。

時々、ルビがあったりもしますし、物語の中盤くらいまでいけば、登場人物の全体像が自然と把握できる段階に達しているので、その辺りで、もう一度登場人物一覧を見直し脳内整理をします。

大抵、翻訳小説や人物名称が多くでてくる作品が苦手な人に共通するのは、登場人物一覧の人物表を一番最初の読む前に全部把握しようとする癖があるのではないかと思います。

この物語を完璧に没入したいのが理由だと思うのですが、私も完璧主義傾向は多少ありますので、大変気持ちがわかるのですが、実はこのやり方は没入感を高めるうえで真逆のような気がします。

なので読む前の段階からかなりハードルが高くなり、没入感を妨げになっているのではないかと。

なので最初にも書きましたがとにかくまず最初は、名前はぼんやり覚える程度に留めて、とにかく読んでいくのが物語に没入するときのポイント。

まぁ本作は日本の小説なのですが…それでは今日はこの辺で終わりたいと思います。

ここまでお読みいただきありがとうございました。

最後に著者さんの経歴を載せておきます。ではまた。

東山 彰良(ひがしやま あきら)

1968年台湾生まれ。5歳の時に日本に移る。福岡県在住。2002年「タード・オン・ザ・ラン」で第1回『このミステリーがすごい!』大賞銀賞・読者賞を受賞。

’03年、同作を改題した『逃亡作法 TURDONTHERUN』で作家デビュー。2009年『路傍』で第11回大藪春彦賞、’15年に本書で第153回直木賞を受賞。

2016年『罪の終わり』で第11回中央公論文芸賞を受賞した。

(東山彰良プロフィールより)

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