ストーリーが世界を滅ぼす――物語があなたの脳を操作する【感想レビュー】

あらすじ

なぜ私たちはあの人の論破にだまされるのか。
事実と物語は混ぜるな危険!
陰謀論とフェイクが溢れる世界で生き抜く「武器としての思考法」。

文明を築くのに一役を買ったストーリーテリング。その伝統あるストーリーテリングが近い将来文明を破壊するかもしれない。
ストーリーテリングアニマルである私たち人間の文明にとって、ストーリーは必要不可欠な道具であり、数え切れない書物がストーリーの長所を賛美する。
ところが本書の著者ジョナサン・ゴットシャルは、ストーリーテリングにはもはや無視できない悪しき側面があると主張する。
主人公と主人公に対立する存在、善と悪という対立を描きがちなストーリー。短絡な合理的思考を促しがちなストーリー。社会が成功するか失敗するかはそうしたストーリーの悪しき側面をどう扱うかにかかっている。
陰謀論、フェイクニュースなど、SNSのような新しいテクノロジーがストーリーを拡散させ、事実と作り話を区別することはほとんど不可能になった。人間にとって大切な財産であるストーリーが最大の脅威でもあるのはなぜなのか、著者は説得力をもって明らかにする。
「ストーリーで世界を変えるにはどうしたらいいか」という問いかけをやめ、「ストーリーから世界を救うにはどうしたらいいか」と問いかける書。

スティーブン・ピンカー、ダニエル・ピンク絶賛!

(東洋経済新報社より)

感想・レビュー

原題:『THE STORY PARADOX』

非常に有意義で、面白い一冊でした。

文字や言語、宗教や世界史を勉強していくうちにとある疑問が私の中でずっと在り続けました。

それは「どうしてこんなにも人間は物語を消費し続けるのだろうか」ということです。

物語(フィクション)といえば今はドラマや映画、漫画、小説、舞台などなど、パッと浮かびますが、それだけじゃないんですよね。

私は物語が好きな人間なので、日常的に物語を摂取しますが、物語があまり好きではない人でさえ、何かしらの物語はどこかのタイミングで摂取している。辞めればいいのに辞められない。

それは誰かのサクセスストーリーかもしれないし、スポーツの熱いドラマチックな物語だったり、SNSで繰り広げられる政治的物語かもしれないと著者は言います。

何年か前にたしか小川洋子さん?が誰か忘れましたが、友人や家族などに話をするのも創作した物語だ…的なことが書かれていてなるほどなぁ…と思ったことがありました。

そしていつの日にか、私の中で「物語と人類(ホモ・サピエンス)の因果関係」みたいなものは気になっていて、ようやくそのことが書かれている一冊に出会えたかなと思いました。

人は元来「物語を語る動物」だ、と言います。

常に誰かとコミュニケーションをとったり、テレビやネットで誰かが喋っている姿を見ている。一人になったらなったで、自分と会話している。

ストーリーテリングが学べる章では、ハイダーとジンメルのショートサイレン動画の実験があって、人間が無意識的に、反射的に物語を創作してしまうことが分かったり、正直これには本当に驚きました。

そしてそこに、人種差別や偏見などの根底の悪があり、ある意味ホモ・サピエンスの限界を見たような気もしました。

しかし冒頭で著者は「どうすれば物語で世界を救えるか」ではなく、「どうすれば物語から世界を救えるのか」だと言います。

人類が誕生して十数万年。ボディランゲージからコミュニケーションを取る言語が生まれ、洞窟に絵を残した。ここに物語の起源があるのかもしれない。

そしてその後に文字が生まれ、文字による創作がはじまった。それから5000〜6000年、長い人類史から見ると文字の歴史は短い。しかし文明の発展スピードは急激に進化していく。

先史時代まで多くの「神々」に寛容的だった時代には、神話がたくさん生まれた。

やがて一つの「神」しか許さない不寛容な物語(キリスト聖書)が登場し、有史時代が幕を開けた。20人程度の信者しかいなかった唯一神物語は、多くの者の心を訴えた。

その結果、信者は世界に爆発的に増え、違う神(物語)を信仰する者と命がけで争い合うようになった。

だから物語を抑制し、制御しようとした国が幾つもあったし、今も存在する。かつての日本もそうだった。しかし人類は物語の自由を訴え、音楽や美術など形を変えて物語を挿入しはじめた。

18〜19世紀までの十数万年の間、ホモ・サピエンス族は緩やかに増加し、約10億人近い世界総人口にまで達した。

しかし産業革命以降、経ったの200年程度で、80億人以上というとんでもない異常増加をしている。

このままいけばどうなるのか、ホモ・サピエンス族全体で考えても、本当にどうなるのか分からない。

「物語」の「創作と消費」をやめられないサピエンス族は、また大きな物語に導かれ、救われるのか破滅するのか、この答えは、いつか出るのか。

それともいつか本当に、物語から世界が救われる日が来るのだろうか……

著者はジョナサン・ゴットシャルさん、翻訳は月谷真紀さんです。

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