世界でいちばん透きとおった物語【あらすじネタバレ感想】なぜ?電子書籍化絶対不可能な一冊!?

あらすじ

大御所ミステリ作家の宮内彰吾が、癌の闘病を経て61歳で死去した。 宮内は、妻帯者ながら多くの女性と交際し、そのうちの一人と子供までつくっていた。それが僕だ。 


「親父が『世界でいちばん透きとおった物語』という小説を死ぬ間際に書いたらしい。なにか知らないか」 

宮内の長男からの連絡をきっかけに始まった遺稿探し。編集者の霧子さんの助言をもとに調べるのだが――。

予測不能の結末が待つ、衝撃の物語。

(新潮社より)

感想・レビュー

このミステリーがすごい!《2024年》第8位ノミネート

※ネタバレ絶対絶対注意!未読の方は以後、責任を終えませんのでご注意ください!

いやぁ…なるほど……なるほどね、いやぁ…なるほど…なるほどなぁ…(何回言うねん、笑)

皆様こんにちは、彗星です。

何やらこの小説が「電子書籍化絶対不可能!?」と、現代小説ではまずあり得ないような言葉が帯に書かれていて、大変興味を惹かれて買ってみました。

まず現代の界隈では、電子書籍の収益が見込めないというのは、出版社的にもかなり難しいと思うのですが、その辺りもすごい挑戦的といいますか、すごく良い試みだと思いましたね。

しかし本作は紙だけでも徐々に売れ筋を伸ばしているらしく……実際にAmazonでも電子書籍はいまのところ(2024年2月現在)販売していません。

そもそもの話「電子書籍絶対不可能」って、何をどういう風に小説を書くとそうなるのか?

それが不思議で仕方なく、とても読む方としてはハードルが自然と上がってしまうのですが、見事に私の硬い頭を軽やかに超えてくれましたよ。笑

まず先に読了後の所感としては、序盤から最後まで気になる展開が続き、一気に読めるくらいに面白かったかなと。

それでは軽く振り返っていければなと思います。

主人公・藤阪燈真(ふじさかとうま)は、ベストセラー作家・宮内彰吾(ペンネーム)の不倫によって生まれた。

しかしその後、燈真は宮内を関わることなく、不倫によって捨てられた母・藤阪恵美(ふじさかめぐみ)と質素でありながらも、それなりに静かな暮らしをしていました。

母は本の虫でもあり、常に本を読んでいる人間でしたが、燈真はそこまで本の虫にはなりませんでした。

というのも10歳の頃に重い病気を患い、脳外科手術を受け『光線力学療法』を使った影響から、一時的な失明状態になります。

何とか両眼の視力も回復したが、本を読んでいるときに目がちかちかとして辛くなるようになってしまいました。

燈真の目の後遺症の状態
  • 本を読んでいると目がちかちかする
  • 眼鏡、目薬、マッサージ効果なし
  • 電子書籍はなぜか読める
  • 校正・校閲などのゲラは読める
  • 紙の教科書も読める

燈真は高校卒業後、大学にも入学せず、書店でアルバイトをはじめました。

そんな18歳の冬のある日、母を交通事故によって亡くすところから物語は、ゆっくりと動き出していきます。

女で一つで育ててくれた母を亡くし、実質的に燈真は、天涯孤独となります。しかし宮内の息子である長男からの連絡をきっかけに実の父である宮内彰吾の遺稿探しがはじまります。

宮内の長男は、血縁関係でいえば燈真の兄弟にもなりますが、父親同様、燈真は今まで面識は一度もありませんでした。

宮内長男はいかにもな嫌なヤツでした。遺稿探しをするにつれて、上には上がいるとでも言うかのように宮内彰吾は、女癖や性格の悪さや金遣いの粗さが突出していて、しかし作家としては、皆が口を揃えて褒めることを燈真は嫌悪感を覚えながらも知っていきます。

ついでに燈真は、小さい頃から母と繋がりがあり、家にも来る仲だった編集者の霧子さんともこれを機に再会し、遺稿探しとは別に淡い恋心のようなものも描かれていました。

遺稿についても本作と同じタイトルが使われていて『世界でいちばん透きとおった物語』ということが判明します。

いつも警察小説やハードボイルドなサスペンス劇を描いていた宮内彰吾作品には、似つかわしくない恋愛要素のようなタイトルで、ますます最後に書いた物語の内容が読めない展開へとなっていきます。

こうして宮内彰吾の遺稿探しを続ける燈真の心情や変化が一人称で描かれていく中、徐々に宮内彰吾という人物造が変化していきました。

遺稿探しも、詳細は省きますが、徐々に不気味で危険なものになっていきます

それでも燈真は、宮内彰吾に対しての嫌悪感は晴れることがなかったのですが、彼の晩年の姿を知っていく過程で、遺稿探しも徐々にクライマックスへ。

結局のところ、色々あって宮内彰吾の原稿は誰でにも読めない展開になってしまいましたが、彼が過去に一度、そして人生最後にも燈真の為に小説を書こうとしていたことが本作の華でもある霧子さんが、探偵役となって明かされました。

個人的にも、この時点で、細かいセリフの伏線回収が見事だったり、長くプロ作家をやっているだけあって技量も確かだなぁとは思うのですが、皆様それだけでは満足できませんよね?という感じ。笑

そしてここから、なぜ燈真は電子書籍などが読めて、紙の小説が読めなかったのか?

なぜ宮内彰吾が燈真の為に小説を書いていたのか?

そしてその驚くべき手法、仕掛けが明かされます!

動機は是非とも読んで欲しいので、すみませんが省きます。

ではまず「燈真がなぜ紙の小説が読めなかったのか?」についてですが、燈真は手術後、視覚がコントラストに対して過剰なまでに鋭敏に反応してしまうことによって、裏ページの文字までも追ってしまうからだということが判明したのです。

なるほど、確かに普通の人であっても、紙の小説を読んでいると薄っらと裏ページの文字が見えることはあります。しかしそこまで気にはならないのですよね、普通。

次に宮内彰吾が驚くべき手法を使って、燈真が紙でも小説が読めるようにしようとしていたのかですが、少し説明が難しいので、作中の霧子さんのセリフを一部抜粋させて頂きます。

空白の部分の裏、そして次のページ、ここに文字がなければいいわけですから、すべての見開きの文章レイアウトをまったく同じ左右非対称形にするんです。

重ねられたページのどの箇所でも、文字の裏には必ず文字が、空白の裏には必ず空白あるようにする。そうすれば透けて見えなくなります

(世界でいちばん透きとおった物語より)

これ実際に紙の本があれば簡単なのですけど、裏のページが薄っらと見えないようにするには表と裏の文字数を同じにしてかぶせ続ければいいだけのことなのです。

しかし、しかしですよ!これ全頁ですからね!そして本作もそのレイアウト方式をやってのけているのですよ!

くうぅぅっぅう!? なんて憎らしい小説なんだ!笑

私はその事実を確認した時「まさかなぁ…」とニヤニヤとしていたと思いますし、確かにこれならゲラなどの裏面に文字がない紙は、読めると理屈が通りますよね。

そもそも宮内彰吾は、燈真の目の後遺症を知っており、なぜ小説が読めないのかを知っていたこともそれなに判明して、最後は燈真自身が、父のタイトルを借りて、小説を書く。その結果が本作である……つまり作中内の作中という仕掛けも施されていた!ということで、これまたなんと憎らしい小説なのでしょうか!?笑

まぁ作中内の作品が実は…みたいなのは他でもありますから、いやそれでも、これだけの仕掛けと作中内の作品を掛け合わせて、それが物語の内容と見事にマッチするなんて、本当に奇跡というか、小説の神様が降りてきたとしか言いようのないクオリティですよね。

確かに燈真の病気がどれだけリアリティのあるものなのかや、それはそれで宮内彰吾のクズは変わらんけどなぁとか、宮内彰吾の元嫁一回も出でこんかったなぁとか、

細かく掘れば色々と出てはくるのですが、個人的には全体的な評価として、そこは許容範囲内になるくらい、仕掛けを見抜けなかった己の敗北をまず責めようかなと思います。笑

あと書き忘れていましたが、本作は京極夏彦がけっこう軸になっていたり、東野圭吾宮部みゆき?とか他にもいたような、忘れましたけど、現実のミステリ作家の名前も出てきたりしていました。

個人的には、宮内彰吾のモデルって誰か実際にいるんだろうなぁ、とか勝手に想像したりしていました。笑

そして何より書き手として本当に小説を、創作を楽しんでいるといいますか、そういうのも伝わってきて、やっぱり小説って良いなぁと思える一冊でしたね。

まとめ

はい、ということでいかがでしたか。

物語は終始ミステリ的な引っ張り方をするのですが、ただ、これはもしかしたら私のように頭がお硬めの方は、最後に爽快感というかミステリ的なカタルシスを期待して読み進めると思うのですけど、少しベクトルが違うんですよね

物語的カタルシスもあるにはあります。しかし、それ以上にこの小説には、本自体を使ったフォーマット(行数など)的な仕掛けが、この本に仕掛けられているというね。

しかもその仕掛けが結構凄まじい。しかしこれは書き手視点からみればそうなるのであって、読者からすればすごく地味といえば地味な仕掛けではあるのですよ、実際。

それでも書き手側や編集される側の作業量や、その仕掛けをどのように物語に落とし込めば、無理のないようにリンク出来るかが大事なのですが、それにしっかりと成功している、その事が純粋にすごかったです。

大袈裟でも何でもなく、私はこのような小説に人生で出会ったことがなかったので、著者である杉井さんには、心から敬意を払いたと思います。

そもそも著者である杉井光さんは、電撃小説大賞出身で、『さよならピアノソナタ』など、ライトノベル出身の方なので、個人的にも随分と久しぶりで、まさか新潮社の小説で再会するとは思いもしませんでした。

著者もかなり売れているようで、こういった挑戦的な作品が少しでも評価されていることはすごく業界にとっても良いことだと思います。

それでは今日はここまで。最後までお読みいただき、ありがとうございました。

なんか物語の面白さとは別に久しぶりにやばい変態小説だったなぁ……

確かにこの小説は、電子書籍化絶対不可能だ。

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