精霊の守り人【あらすじネタバレ感想】

あらすじ

老練な女用心棒バルサは、新ヨゴ皇国の二ノ妃から皇子チャグムを託される。

精霊の卵を宿した息子を疎み、父帝が差し向けてくる刺客や、異界の魔物から幼いチャグムを守るため、バルサは身体を張って戦い続ける。

建国神話の秘密、先住民の伝承など文化人類学者らしい緻密な世界構築が評判を呼び、数多くの受賞歴を誇るロングセラーがついに文庫化。痛快で新しい冒険シリーズが今始まる。

(新潮社より)

感想・レビュー

第34回野間児童文芸新人賞受賞

個人的に上橋菜穂子さんの作品は、「鹿の王」がとても気になっていたのですが、先に本作を読むことに。

まずいつもの所感としては、それなりに楽しめたかなぁとは思うのですが、少し勿体ないなと思う所も多々ありました。

ですが物語の世界観設定がすごく錬られていて、読んでいてそれがとても伝わってきました。

民族的な神話や、人種などもしっかりと作られていますし、それが物語を動かす鍵にもなっていて上手だなと。

30歳の女短槍使い「バルサ」が本作の主人公なのですが、彼女は幼き頃から武術を鍛えた化粧気のない戦闘狂。

そんなバルサは、ある日第二皇子の「チャグム」が川で溺れているのをたまたま救った所から運命が動き出す。

逃走劇がはじまり、緊張感が高まっていく中で、互いに信頼を深めていきます。

しかし途中で、チャグムの命が、世界観設定的に安全圏に入ってしまうのが、とても勿体ないなと読んでいて思いました。

そこで一気に緊張感がなくなってしまい、最後のクライマックスも流れで読んでしまった感じはありますね。

児童文学では仕方ないのか、ルール的に分かりませんが、そもそも小説にルールなんてあるかも分からないのですが、非常に勿体ないですね。

オリジナリティの高いファンタジーって、読者は設定を覚えるのが大変なんですよ、特に初刊は(ちなみに生涯でこの小説シリーズだけを読み続けるなら別です、とだけ書いておきます)。

だからこそ設定は後から覚えてくれていいから、緊張感や緩和などの構成を駆使して無理矢理にでも物語にのめり込んでもらい、魅力的だったその結果として、後から設定をもっと深く知りたくなる。

そして読者は次の物語を読みたくなるのだと、個人的には思うのですよね。

あまり覚えていませんが「十二国記」とかが、その辺りは上手かったかなと思いますね。

解読展開から神話など、個人的に好きな展開ではあるのですが、少し物語より設定の主張が強かったかなと。

もしかしたらそれはどこか緊張感がないせいで、設定があまり入ってこなかったというのも考えられますが。

そんなこんなで二人は色んな人の手を借り、様々な困難を乗り越えて、最後は一応ハッピーエンドで二人はお別れ。

設定がどうとか書きましたが、前半の逃走劇から絶体絶命の危機まで本当に面白いんですよ。

たのまれ屋のトーヤとサヤのシーンも面白いですし、〈狩人〉側の少しサスペンス的な追い詰め方をしていく展開も含めて。

中盤のバルサたちの生活や、ほっこりしたエピソード、チャグムの心情とその変化、バルサの過去が少し見えたりと、良い所が本当に多い作品なだけに、どこか勿体ないなぁと。

やはりラルンガ(卵食い)という未知の敵が想像しにくいだけに、どれだけ危険なのか分からなかったというのも大きいかもしれません。

星読みという役職は、まさに日本の史実でいうなら陰陽師という所でしょうか。時代背景もまさに平安時代辺りを匂わせるような雰囲気でした。

本作には、日本の史実を模倣したような世界観や歴史があり、勝者が都合の良いように歴史を塗り替えるなど、その歴史の在り方もとても魅力的でしたね。

今思いましたけど、「ユグとヤクー」とか「二百年前の話」とか「ニュン・ガ・ロ・イム、チャガ」とか、これだけ初刊から設定強い児童文学って、児童には難しすぎませんかね。笑

まぁシリーズとして長いので、色々な設定とか伏線回収があるのかもしれませんから、大人も楽しめるということでもあるのでしょう。

では児童文学とは何なのか?というのがますます分かりませんが、ジャンル分けの話は、商売の話になりますので今日はこの辺で。

解説には恩田陸さんが書かれていて、相変わらず面白いです。

お読み頂きありがとうございました。

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