
あらすじ
(上巻)人気作家チヨダ・コーキの小説で人が死んだ――あの事件から十年。
アパート「スロウハイツ」ではオーナーである脚本家の赤羽環とコーキ、そして友人たちが共同生活を送っていた。夢を語り、物語を作る。好きなことに没頭し、刺激し合っていた6人。
空室だった201号室に、新たな住人がやってくるまでは
(下巻)莉々亜が新たな居住者として加わり、コーキに急接近を始める。
少しずつ変わっていく「スロウハイツ」の人間関係。
そんな中、あの事件の直後に128通もの手紙で、潰れそうだったコーキを救った1人の少女に注目が集まる。彼女は誰なのか。
そして環が受け取った1つの荷物が彼らの時間を動かし始める。
(講談社より)
感想レビュー
辻村深月さんの作品を読むのはもう何年ぶりなるのか、かなりお久しぶりです。
他にもデビュー作も読みたかったのですが、ひとまず本作から。
まず読了後の所感としては、すごく楽しめて読めたかなと思います。
最終章は不覚にも涙が止まりませんでした。
これは本当に不覚中の不覚といいますか、全く泣く予定も、泣きそうな雰囲気とかも作中そこまでなくて、不意打ちのように、あれ、なんで自分こんなに泣けてるんだ、疲れてるのか、笑
本当のことをいいますと、本作には最終章に明かされる秘密があるんですけど、
これを知るまで私は、どちらかというと主人公・環の行動などに対して、後半は無理を感じていて、物語的に無理やり波を作っている感じがして、少し残念だなと思ってたくらいなんですよ。
それがね、真実を知った私は情けないくらい泣いてたんですよね。笑
いやあのですね(急に言い訳)、私もどうしてこんなに泣けたんだって読了後に少し考えてみたんですよ。
そこで一つ分かったんですけど、何年か前に読んだ海外作品に『チャイルド44』って作品がありまして、この時も最後の最後でボロ泣きしたんですよ(よく泣くな)。
この作品と本作は、題材も内容も全然違うんですけど、その共通点が一つありまして、
姉妹が不遇の人生を受けていて、最後に少しだけ報われる形になるんですよ。
私もこのロジックに気づいた時、これだぁああと思いまして、笑)それにチャイルド44に関しては、姉妹が主役でもなんでもないんですよ。
ほとんど会話するシーンすらなく、どちらかと言うと脇役だったと思います。
おそらく不遇な人生を歩む健気な姉妹を見ていると、悲しくなってきて、もう二十代後半なんですけど、おじさんになってきたのかな。笑
はい、おじさん化しはじめた奴のどうでもいい話はおいておいて、こここから切り替えて少しだけお話にも触れておきます。
ひとつ屋根の下で創作者(クリエイター)たちが生活をともにする。
結局のところ、ただそれだけのことなんですけど、ただその日常の中で起きるあれやこれや……といった感じが、ついつい読んでしまうといいますか。
でも多分これは、純粋に辻村さんの魅せ方、切り取り方がすごく上手いのかなと思いました。
逆に今思えば、よくこの設定、舞台でここまで色々と書くことが出来たなと、強いエネルギーのようなものを感じました。
仕掛けとしましても、死んでもメフィスト賞作家といいますか、ミステリ的な要素も含まれていてとても良かったのではないかなと思います。
あとは個性的な登場人物たち、好き嫌いは各々読んだ人にあると思うんですけど、個人的にはエンヤの尖っていた時代の、言葉に表しようもない、でも人間味がとてもある行動がすごく好きでしたね。
その為、出番は少なめでしたが。
文章力はあるようなないような、というのが正直なところではありましたが、でもそれを凌駕する仕掛けや熱量を感じれましたので、結果的に楽しめた、泣けたのかなと思います。
あと、文庫本に収録されている辻村さんにとってはメフィスト賞の先輩作家にあたる、西尾維新さんの解説もすごく面白かったです。
本作を短い文章で、表現すると、まさにこれなのではと思えるのが、流石だなぁと思いました。
それでは今日はここまで。
最後までお読みいただきありがとうございました。