レプリカだって、恋をする。【あらすじネタバレ感想】新たな切り口で掴んだ、第29回電撃大賞受賞作!

あらすじ

――応募総数4,128作品の頂点――
 第29回電撃小説大賞《大賞》受賞作

 具合が悪い日、面倒な日直の仕事がある日、定期テストの日……。彼女が学校に行くのが億劫な日に、私は呼び出される。
 愛川素直という少女の分身体、便利な身代わり、それが私。姿形は全く同じでも、性格はちょっと違うんだけど。
 自由に出歩くことはできない、明日の予定だって立てられない、オリジナルのために働くのが使命のレプリカ。
 だったはずなのに、恋をしてしまったんだ。
 好きになった彼に私のことを見分けてもらうために、髪型をハーフアップにした。
 学校をさぼって、内緒で二人きりの遠足をした。そして、明日も、明後日も、その先も会う約束をした。
 名前も、体も、ぜんぶ借り物で、空っぽだったはずの私だけど――この恋心は、私だけのもの。
 海沿いの街で巻き起こる、とっても純粋で、ちょっぴり不思議な“はじめて”の青春ラブストーリー。

(電撃文庫より)

感想・レビュー

第29回電撃小説大賞《大賞》受賞作 旧題『ドッペルゲンガーは恋をする』

今年も「電撃大賞の大賞作品だけは、なんとしても読むぞ」と思いながらも、すでに第30回が発表されてしまっているという…笑

皆さまこんにちは、こんばんは。彗星です。

ここ数年は、ライトノベルなのに、明らかにティーンズ向けではないだろう衝撃的でハイレベルな大賞作品が続いていたので、今年はどうなるのかなと思って楽しみに待っていました。

表紙とタイトルをみる限り、恋愛系かなぁと思いながらも、さすがに編集部的にもここ数年の帳尻を合わせてきたのかな、笑)と勝手に想像しつつ、とりあえず読んでみることに。

そもそも旧題も改題も良いタイトルですね。

さっそくいつものようにまず読後の所感としては、全体的に面白いとは思ったのですが、後半からは予定調和な感じで、個人的には少し物足りない気持ちもあったかな、というのが正直なところです。

これはどっちが上とかではないんですけど、お話の内容的にも、大賞というより、メディアワークス賞っぽいかなぁと個人的に思いましたが、まぁその辺りは、応募作の兼ね合いとか編集部の事情があるのかもしれません。

ただティーンズ向けとしては、あってるのかなと、近年が少し狂っていただけに。笑

では軽く振り返っていきましょう。

物語の舞台は静岡です。個人的にも昨年頃、たまたま静岡に足を運ぶ機会があり、数日間だけ過ごしましたが、海が見えて、緑が豊かで、すごくいい場所だったなぁという印象が残っています。

いきなり話がそれましたが、主人公は『女子高生・愛川素直』のレプリカである『セカンド・ナオ』。

ナオは、本体の素直と容姿が全く同じで、まさにレプリカです。ただ先に書いておきますが、二人の性格は全然違います。

素直は、何事にもそこまで熱中せず、友達付き合いもそこそこにしておいて、どこか冷めてる女子高生の印象。対してナオは優しくて、本が好きで、友達も大事にするような印象です。

主に素直が学校に行きたくない時とかに、ナオを都合よく呼び出し、代わりに学校に行ってもらうなど、まさに学生の夢のような話でもあります。

しかし素直は、ナオに冷たく扱い、個性を出すことを嫌っている印象。

確かに自分が素直と同じ立場だったら、レプリカに余計なことされると自分の私生活にも影響でますし、気持ちはわかるような、わからないような…まぁそんなら自分が頑張れやに帰ってくるんですけど、笑

序盤から設定的にも面白く、本作はそのセカンド・ナオの一人称で物語が進んでいきます。

まず文章、描写力がとても高いです。近年は特にそうですけど、もう大賞まであがってくる作品は、総じてまず文章レベルが新人とは思えないレベルです。

最後に書きますが、読んでいるときは、プロ作家さんだとは知らなかったので、近年の大賞は凄いなぁと勝手に感心しながら読んでいました。笑

ナオは本が好きなので文芸部に入部しており、素直は本が好きではないので、部活には行きません。

そして素直の一人称はないので、ナオが呼び出されたときだけ、物語が動いていきます。

文芸部には、素直の幼馴染である「りっちゃん」と後から入部してくる同じクラスの「真田くん」のみ。

この部室で物語が進むラノベって、何回読んでも良いものですね。笑

まぁそんなこんなで、ナオは定期的に呼び出され時だけ、レプリカとしての指名を果たすため学校に行きつつも、真田くんといい感じの関係になっていきます。

そもそもレプリカの設定には、疑問点が多く残るのですが、それはあとで書きますので、一旦まずそれを度外視して、読みながら徐々にレプリカに感情移入していけました。

その理由として、やっぱりこの「ドッペルゲンガー?レプリカ?」の新しい切り口ですよね。

やってることは「ただの青春」なのに、この新しい切り口によって、ナオがレプリカとして生きることの悲しさみたいなのが常時つきまとっていて、その効果もあり「ただの青春」がとても大事で大切な一ページになっていたかなと思います。

この仕組みの面白さには、思わず舌を巻きました。

ふと冷静に考えると、これに似た雰囲気や構造は、病気で寿命が残り少なくて…系の作品と同じなんだなと。

でも切り口が変わるだけで、こうも新鮮に見えるのも、まさに作中で出てくる文豪たちの作品に通ずるものですね。

そして中盤で、まさかの真田くんもレプリカだということが判明します。

この辺りの構成なども非常に良く、素直とナオの過去、真田くんの本体の過去も明かされていき、個人的にも捲る頁が止まりませんでした。

ただ一つ勿体ないなぁと思ったのが、中盤以降、ナオのレプリカとして生きていく悲しさが、真田くんも同じだったり、あと本体側である素直の理解も出てきて、弱くなってしまうのですよね。

ある意味これは、ナオがこの世界で生きることに許しが出たともとれるので、「ただの青春」が本当に「ただの青春」になってしまい、物語としてもゴールに達してしまったような気もしました。

ただこれは物語のバランス的にも一冊で表現しきらないといけない難しい問題なので、仕方なかったのかなとも思いました。

終盤、ナオが死ねないことが判明し、また余計にレプリカとしての悲しさがない状態で、あのクライマックスに向かってしまったので、(人魚姫のくだりはありましたけど)ナオが自ら死のうとしたシーンも、どこか予定調和に感じてしまいました。

中盤まで面白かっただけに勿体ないかなぁと思ってしまいました。

一応、物語はハッピーエンドということで、幕を閉じました。

まとめ

はい、ということで、物語の振り返りはここまで。

ざっくりとだけ書いたので、静岡の街や、あるあるネタなど、面白い部分や細かい部分などは、是非読んで体感してみてください。

簡単にまとめると、よくあることですが、本作は中盤以降に失速してしまったかなと。

その為かはわからないですが、策として、ナオが終盤で電車に飛び降りるなど、工夫は感じました。

しかしそれが逆に、クライマックスの緊張感みたいなものを阻害してしまって、邪魔をしてしまったような気もします。

では最後にレプリカ現象について気になったことを書いておきます。

そもそもの話、レプリカなのにここまで性格が違うのは、レプリカ現象と呼べるのか。この現象は、最後まで科学的には不明のままでした。

まぁそういう作品ではない?みたいなので、その辺りは許容したいと思います。

ですが素朴な疑問として、素直とレプリカの性格が違いすぎるので、学校や家族など、些細な会話の齟齬などからトラブルになってもおかしくなさそうなのに(特に家族)、その辺りは気になってしまいましたね。

その証拠に、近い存在の「りっちゃん」は、二人が違うことをとっくに見抜いていたのですから、もしかしたら、家族の話なんかが、今後シリーズとして明かされていくのかもしれませんね。もう続刊出ているみたいなので、もし書かれていたらすみません。

あとレプリカを消している期間は、肉体ごと消滅しているのだろうか?など、その辺りも気になりましたね。

その辺りの設定・世界観のルールとしてもっと描写されていたら、もう少し色々なことに納得できながら読めたかなと思います。

読み終わってから知ったのですが、そもそも著者さんは小説家になろう?カクヨム?の方で、すでに作家としてデビューしているみたいで、アマチュアではなかったのですね。

まぁプロとはいえ、それでも電撃大賞で《大賞》を受賞するというのは、本当にすごい確率ですから、おめでとうございます。

余談ですけど、作中にリゼロが出てきますが、そこは電撃作品じゃなくてよかったのですか?笑

それでは今日はここまで。だいぶ寒くなってきましたが、皆さま体調にお気を付けてください。

では、また来年の大賞作品を楽しみに待ちたいと思います。

最後までお読みいただきありがとうございました。

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