
あらすじ
電話の主はマグロかスーパージェッターか? 時間と空間がとめどなく歪み崩れていく「海芝浦」への旅が始まった。芥川賞受賞の表題作他、「下落合の向こう」「シビレル夢の水」を収録。
(文藝春秋より)
感想・レビュー
第111回芥川賞受賞作
他二編が収録されています。
ではまず表題作の「タイムスリップ・コンビナート」から。
芥川賞を読み始めて二十五作品くらいか。何となく法則性みたいなものが掴めてきましたが、必ず数年にこういう著者みたいな脳内系の感情を文章化する作家が現れる。
特に笙野頼子さん以降の女性作家に多く、男性作家にもいるが、フェミニズムを軸とした世界への、文学への、アンチテーゼとでも云うのか。
本作はまさにそれだった。
正直、話の意味はよく分からない。まぁぼんやりと上京した視点から見る東京とか、故郷三重を通しての感性を表現しているのだろうと勝手に思っていますけど。
マグロに恋をしたとか、変な夢とか、海とか東芝とか、幻想チックとかは全く意味不明でしたが。笑
送り出した言葉がまた違う場所で融合する文章にははっとさせられますから、典型的な純文の人だなぁとは思いました。
物語の筋は解らなくて良い物だと思っていますけど、文章や会話が興味深く読めたので読み終えたあとは何だかんだ面白い作家さんだなぁとは思いました。
次は「下落合の向こう」。
十数頁の短い掌編みたいな感じです。これまた電車が出てきます。その電車と人を切り取った表現というか乖離感というか……よく理解出来なかったですね。
最後に「シビレル夢ノ水」。
この作品はまだわかり易くて良かったですよ。
序盤は家に迷い猫がやって来て猫を飼う話は純粋に面白かったです。まぁこれが本題へのフリなんですけど。
迷い猫の本当の飼い主に猫を引き渡したあとに、無気力になった「私」が、家事も掃除も何もしなくなって蚕まみれにの部屋になるという地獄絵図。
そして蚕は「私」の血を通して異常に繁殖し、変身し、まぁ恐怖というか、気持ち悪いというか。
結局何を伝えたかったのかは明確には伝わって来なかったけど、人間というか、世界か何かの一端を描いているのかしら、と勝手に解釈しています。
これが所謂ポストモダン文学というやつなのか、私にはまだ完全に理解は出来ておりませんが。