あらすじ
鋭敏な頭脳を持つ引退した名優ドルリー・レーンは、ブルーノ地方検事とサム警視からニューヨークの路面電車で起きた殺人事件への捜査協力を依頼される。
毒針を植えつけたコルク球という前代未聞の凶器を用いた大胆な犯行、容疑者は多数。
名探偵レーンは犯人xを特定できるのか。巨匠クイーンがロス名義で発表した、不滅の本格ミステリたるレーン四部作、その開幕を飾る大傑作!
(創元社より)
感想・レビュー
アメリカの推理小説で避けては通れないエラリー・クイーン。
いつかは読めたらと思い、この度はじめて読んでみました。
まず読了後の所感としては、なるほど、確かに推理の過程と伏線の張り方、その謎だった意味合いが非常に面白い、というかよく練られている、という感じでしょうか。
本作は三人称で進み、三幕という形で構成されています。
事件が何層にも重なっていくので、今回は事件の詳細は程々に省きますが、どの章にも次に繋がる導線が最後の解決まで張られています。
第一の殺人、第二、第三の殺人事件と、今でこそミステリの王道ともいえるような作りになっておりました。
さて物語の主人公は、引退した名俳優〈ドルリー・レーン氏〉という60歳のお爺さん。
このお爺さんが疑似安楽椅子探偵のようなスタイルで、事件を解決していく。
あとは変装が得意で、メーキャップ係を雇っており、持ち前の演技力を行使し、かの有名なシャーロック・ホームズのリアル版みたいなこともします。笑
ですがドルリー・レーンは耳が聞こません。
いわゆる主人公が持つ特有の弱点ですが、彼は読唇術を駆使し、会話を成立させることによって弱点をカバーします。
彼にはもう一つ特徴がありまして、彼はシェイクスピアに深い信仰心があり、作中でもよく彼の作品やその登場人物たちの科白などが出てきました。
そして彼は、とある事件の解決法を書いた手紙を警察に送り、見事その推理が的中しました。
この神がかり的な推理を受けて、警察側の方からまた別の事件の解決依頼がレーン氏に舞い込んできます。
それが第一の殺人なのですが、その過程を一度私たち読者は、三人称で読まされる形になるのですが、この時点で登場人物の把握も安易になりました。
この時点で犯人の断定、勘づく人がいてもおかしくないと読了後のいまなら思えますが、当時は全然わかりませんでした。
【毒針が刺さったコルク】という凶器。思えばこの単純な凶器の仕組みをちゃんと考えておけばこんなにも簡単に犯人が絞られるのになぁ、と少し悔しかったです。笑
でもやっぱり満員のバスとはいえ、本人にバレずコルクをポケットに入れることなんて可能なのか?とは思いますけどね。笑
その後の起きる第二の殺人、裁判などを挟み、第三の殺人など、その裏に隠れる悲劇のホワイダニットを(私は全く見抜けませんでしたが)知ってしまえばなるほど、面白いなぁとシンプルに楽しめました。
まさにシェイクスピアのような悲劇といいますか、この作品は一つの事象に複数の意味が掛かっている、若しくはそう捉えることが出来る、というところも面白い要素の一つでした。
あともう一つ気になったのは、第三の殺人事件で、走行中の電車で拳銃撃ったのに誰も音に気づかないことなんであり得るのか?なども気になりましたけど、当時の電車の構造上とか関係しているのか。
サイレンサーなどの描写も特になかったと思うので、その辺りはどうなんでしょう。走行中の電車の音に掻き消されたと思うしかないのか…わかりませんが。笑
時代設定が1930年代くらいのアメリカ社会なので、切符の仕組みなども何となくで理解していきましたが、もしかしたら想像不足なところはあるかもしれません。
ただ物語を楽しむ上でそこまで支障がないので、いつ読んでも基本的に誰でもフェアで楽しめると思います。
ここが現代でも名作と言われ続けている理由なんだなと改めて体感しました。
エラリー・クイーンは、岡嶋二人のような共作スタイルなので、他にも有名なシリーズがありますし、このドルリー・レーン氏シリーズも四部作らしいので、また機会があれば読んでみたいなと思います。
では今日はこの辺で、終わりたいと思います。
お疲れ様でした。
追記:書き忘れていましたが、翻訳は中村有希さんです。読みやすく、時代感に寄り添った文章でした。