ワイルド・ソウル(上・下)【あらすじネタバレ感想】ブラジルと日本を駆け巡る復讐劇!

あらすじ(上巻)

その地に着いた時から、地獄が始まった――。

1961年、日本政府の募集でブラジルに渡った衛藤。だが入植地は密林で、移民らは病で次々と命を落とした。絶望と貧困の長い放浪生活の末、身を立てた衛藤はかつての入植地に戻る。

そこには仲間の幼い息子、ケイが一人残されていた。そして現代の東京。

ケイと仲間たちは、政府の裏切りへの復讐計画を実行に移す! 歴史の闇を暴く傑作小説。

(新潮社より)

感想・レビュー(上巻)

第6回大藪春彦賞受賞、このミステリーがすごい!2004第十位ノミネート、第25回吉川英治文学新人賞受賞、第57回日本推理作家協会賞受賞

名だたる賞を受賞した本作。個人的にも垣根涼介さんの作品は、いつか読んでみたいと思っていたので、この機会に読めて良かったです。

まず読了後の所感としては、面白いです、まだ上巻ですが。それもすごい気になる所で終わったので、早く下巻を読みたいです。

日本で起きたブラジルへの移民政策】が本作の軸になっており、この機会に色々調べてみました。

史実ではあるのですが、ブラジル移民政策と言っても色々長い歴史があるらしく、その過程で本作がどこまでフィクションでノンフィクションなのかは、よく分かりませんでした。

そもそも日本人がブラジルに上陸したのは、確認できる記録としては1803年頃の江戸時代が初めてらしいです。

そこから戦前まで現地に学校が出来たり、ブラジルに移民する日本人はいたのですが、二次大戦の関係で一度中止になり、その後、国交が断絶。

戦後を経て、1953年に移民受け入れを再開。

そして本作は、その再開された「戦後の移民政策」が発端の話で、舞台は南米大陸のアマゾン流域から幕を開けます。

ブラジル、コロンビア、アマゾンなどを駆け巡るので、個人的には読んでいてわくわくするのですが、その内容は反して過酷なものでした。

「ブラジル未開の土地を開墾すれば豊かになれる」という国家、外務省の宣伝により、当時4万人以上の日本人が、現地に渡りました。

果たしてこれは、戦後貧しい国民を前に、はなから棄民するつもりで甘い蜜を垂らした国家が悪いのか、それともそんな謳い文句に騙された民が悪いのか。

これは陰湿な4万人の大虐殺とも言えるかもしれません。いや、実際そうなのでしょう。

そして被害者で、主役の「衛藤」という男も、そのアマゾン牢人の一人であった。

だが、実際に行きついた先は、荒れ果てた土地で、天候も農作に向いておらず、開墾して豊かになるなど、夢のまた夢とも思えるような場所だった。

そして衛藤たちは、外務省が行った非道な企みに気づきはじめる。

それは戦後、食糧難にあった日本の人口を減らすための、国家による「棄民政策」だった

衛藤たちは、外務省の人間に会おうとしたが、そんな人間はこの広大なジャングルにはどこにもおらず。

いるのは現地人と、現地語を話せない騙された数世帯の純日本人家族だけだった…

私もここは読みながら、なんて恐ろしい環境なんだ…と本当に怖くなりました。

それでも衛藤たちは開墾を試みる。だがアマゾンの気候と土は、無情にもその結果に応えてくれず、絶望する衛藤たち。

もうここでの生活は、奴隷と同等、いやそれよりも酷い劣悪な環境で、何よりポルトガル語もろくに使えないというので、余計に酷い。

やがてジャングルの中で餓死や病死する者が増え、また逃げ出してしまう者も。

逃げた者の末路は、売春婦、そのヒモ、ホームレスなど、当時は日本大使館などもなく、とにかく日本の力は全く使えない。

まさにそこは「豊かになる」とは真逆の「地獄」だった。

そして衛藤も、妻と弟を亡くし、この土地から去ることを決意する。

浮浪者のように各地に流れ着き、様々な現地人と出会い、衛藤の人生は、生き地獄そのものだった。

それでも衛藤の人生は、日本人としてではなく、ブラジル人として少しずつ前向きな方向に変わっていく。

この辺りの、ブラジル人の陽気さと小さいことを気にしない寛大さ。対して今はどうか分かりませんが、ゴミをどこにでも捨てたり、適当な所作など、日本とは真逆だなぁと。

ここから衛藤以外の移民一世、二世の生き残りなどに視点は移り、日本へ復讐するような内容へと物語は変貌していきます。

移民政策から時が経ち、20代だった衛藤も老人になり、日本が舞台となって、仲間たちが、復讐の為に動き出し、報道側の人間も描いて、さぁ復讐だ!という所で上巻終了……

ちょっと流石に気になりすぎますって…笑

しかも山本さん、あれだけ入念に保険証とか処分したあとに空港で倒れるとか最悪やろ…笑)というちょっと笑ってしまいましたけど、ここからどういう展開になっていくのか本当に楽しみです。

あとは霞が関が改修工事中?らしく、一時的に芝公園に移転された外務省の賃貸物件ビルにどんな仕掛けを施したのかや、

他にも富士の樹海には何を仕掛けたかなど、何もまた詳細には分かっていないので、そこが早く読みたいです。

あと少し気になったのは、報道側の貴子とケイの部分は、利用するのが最初から分かっていただけに、やたら復讐前に引き伸ばすなぁと少しもどかしい気持ちになりました。

ですが下巻の動き方次第で、ここの部分の評価が変わるかなと思います。

果たしてブラジル移民政策で死んでいった多くの命は、この復讐により、どのような結果を見せるのか。

引き続き下巻に参ります。

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あらすじ(下巻)

俺たちの呪われた運命に、ケリをつけてやる――。

日本政府に対するケイたちの痛快な復讐劇が始まった!

外務省襲撃を目撃した記者、貴子は、報道者としてのモラルと、彼らの計画への共感との板ばさみに苦悩。

一方ケイと松尾は、移民政策の当時の責任者を人質にし、政府にある要求をつきつける。痛恨の歴史を、スピード感と熱気溢れる極上のドラマに昇華させた、史上初三冠受賞の名作。

(新潮社より)

感想・レビュー(下巻)

下巻も読了いたしました。

まず所感としては、素直に面白かったです。

全体通して、原稿用紙1300枚超えの分厚い長編ですが、常に先を読み進めたくなるような作品で、結末がどうなるのか最後まで気になって仕方ありませんでした。

後半戦の物語はケイ、松尾たちの復讐劇から幕を開けます。緊張感がすごいあり、どのような復讐劇になるのかワクワクもしながら待っていました。

高速道路から外務省ビルを銃でめった打ちにし、死人は一人も出しませんでした。

垂れ幕を使用し、過去の移民政策の闇を知らせ、貴子たちメディアを利用し、即座に政府、国民にその事実を白日の下に晒す。

その後、のんびりと老後を生きている外務省及び、移民政策に関与した者を誘拐し、樹海へ。

彼らをかつてのアマゾンと似た環境で、生存の可能性を残し、逃がす。

大雑把に書きましたが、これら全ての仕掛けが衛藤の人生を物語っていると言いますか、らしい復讐劇だったかなと。

絶望の果てで、愛を知り、それでも亡くなった者たちの意思を残す方法の中で、最善のやり方にも思えるようなやり方でした。

その他、松尾、山本の最後、貴子の視点、報道側の視点、警察側の視点、操作シーン、そしてケイと貴子のエピローグまで、本当に全部魅力的だったような気がします。

前半気になっていたの貴子とケイの絡みも、終わってしまえばある意味二人の物語でもあり、物語の締め方も、この世代の作家さんらしい終わり方でもあったかなと。笑

この作品は、衛藤からこの物語がはじまるので、全体を考えはじめた時は、少しズレたかなとも思いましたが、まぁここの辺りは解釈の仕方にもよるかもしれません。

純粋に最後は動ける若さが必要だったのと(ドラマ的にも)、あとは移民政策の二世と日本人を掛け合わせるコンセプトというか、つまりこの歴史(命)は続いていく…的な組み合わせでもあったのかなと。

衛藤も移民政策という長い歴史の中で考えれば、一世の一人にしか過ぎず、ある意味今回の復讐劇は、二世たちの躍動でケリがついたので、全体的に考えると、綺麗な終幕ではあったのではないかなと。

それもこれもまずは、著者さんのこれだけのスケールと密度で書き切る熱量というか、しぶとさみたいなものは、読んでいてとても感じましたし、素直に凄かったなぁと思います。

山本に関しても、彼の背景を考えると、落とし所としても良かったのかなと。しっかりと緊張感要素の役割も最後まで引っ張っていましたし、今思えば役としては満点だったなぁ。笑

松尾にも幸あれ、って感じですね。笑

あとはブラジルの良いところ悪いところもしっかり書かれており、それでもエピローグにもある弱者に手を差し出す精神というか「人間愛」のような所もしっかり伝わってきたかなと。

まとめ

はい、という感じですかね。

物語の中で、個人的には、貴子が一番の成長を果たしたような気がしますし、終わってみれば報道側として出てきた意味が一番理解出来たようなキャラクターだったかなと思います。

最後に貴子は、「巨悪の芽は、常に大きな社会のうねりの中にある」ということに気がつくのですが、まさに著者さんが書きたいことの一つでもあったのではないかなと。

戦後の急激な人口増加と食糧難による「移民政策」という名の「棄民政策」が、日本で起きたという事実は、本当に悲しいですが、移民政策の裏の顔は、日本に限らずだとも思います。

作中のように日本国家がそれを認めたという形跡は、ありませんから、おそらくこの小説が出来上がったのでしょう。

調べたところ、衛藤のように日系移民として成功している人もいるようなので、著者さんは本作を書く前にブラジルに何度も足を運んだらしく、そこで何を見て、聞いたのか、とても気になります。

著者あとがきもとても面白かったですね。笑

垣根さんの他作品がとても読んでみたくなりました。

今回はたまたま食糧難でしたが、どこの国、主義にもあるように、改めて、多くの犠牲なしに、今の私たちの生活が維持できないと思うと、なんともいえない気持ちになりますね。

やはり我々ホモ・サピエンスは、難解な生き物だ。

最後までお読みいただきありがとうございました。

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