あらすじ
僕がマユに出会ったのは、代打で呼ばれた合コンの席。やがて僕らは恋に落ちて…。甘美で、ときにほろ苦い青春のひとときを瑞々しい筆致で描いた青春小説―と思いきや、最後から二行目(絶対に先に読まないで!)で、本書は全く違った物語に変貌する。「必ず二回読みたくなる」と絶賛された傑作ミステリー。
(文藝春秋より)
感想・レビュー
※一応ネタバレがありますので注意!
メフィスト賞作家の乾くるみさんの代表作ですね。
あらすじを読む限り、何か仕掛けてくるなぁというのが前提なので、疑いながら読み始めました。
一応この小説は一部、二部というように「side-A」「side-B」という形をとっていました。
ぱっと前半の「side-A」を読んだ限りは、うぶな大学生が初恋をする80年代後半の恋愛小説。
つまらないとまでは言いませんが、少し自分的には退屈、いやかなり退屈、というか生ぬるい。笑
そして後半の「side-B」。こちらも大学を卒業した主人公が社会人になって最悪の胸くそが悪い奴になっている恋愛小説。笑。
で、散々言われている問題の最後の二行を読む・・・・・・「は?」
ちょっと意味がわからないので、もう一度その二行を読み直すも・・・「は?」
あまり詳細は書かないようにしますが、明らかにおかしいのはわかるのです。ですがその意味というか、真意が掴めなくて混乱します。
色々と考えてみてもやっぱり、ロジックが解き明かせない。
仕方なく解説をネットで検索して読んで見る・・・・「うわぁあ」という感じでして、また「side-A」「side-B」の物語を色々と思い出してみる。
結論、めっちゃクソな恋愛?小説やけどなにこれ、うわぁでもすげぇとなりました。
つまりこれは叙述トリックを応用した小説なんです!
ただこれは、よくある人が入れ代わっている叙述トリックではないんです。いやそうなんですけど、なんて書けば良いのでしょうか。笑
「side-A」「side-B」というのが、カセットテープの原理らしいのですが、私のような平成生まれの人には、少し意味が分かりづらいのもこのトリックに騙されやすくなるのです。
是非とも読んで体感して欲しいんで、ぼんやりとしか書きませんが、この叙述トリックは時間軸が非常に重要なトリックなんです。
その意味に気がつけば、もしかしたらわかるかもしれません。
いやぁ、でもこれは80年代後半を生きてかつカセットテープの「side-A」「side-B」の意味を知っている人じゃないと初見では、気づきにくいのではないかなぁ。笑
勘違いしないで欲しいんですが、わかってしまえば、すごくフェアな小説なのです。ひとつ言えることは、確かに色んな意味でもただの恋愛小説ではないです。笑
なんか胸くそ悪いなぁと思ってこの小説は終わるですが、トリックの意味が分かると、その感情が全然ちがうベクトルに向きます。
一旦心が複雑に絡まりあって、でも色々と解けた頃には、腹立つけど、でもやっぱすげぇが勝ってくる感じですかね。
冷静になって振り返ってみると、物語の見方や景色が全然変わるのも面白いし、確かに恋愛小説の殻は被っているけど、理解してみるとトリック優先型の典型的なミステリだとわかります。
少なからずミステリで叙述トリックなどを読んできましたが、私はこのパターンの叙述トリックには出会ったことがありません。
うーん、この小説は著者さんの遊び心が満載ですね。
トリックに気づけば「side-A」には、初恋の甘酸っぱさが迫ってくるし、「side-B」のクソさも倍増するという、これはすごいなぁ、正直。笑ってしまうくらい。
二度読むこと間違いなしというのは、確かに頷ける。まぁ私は二度読みは殆どしないたちなので、頭の中で物語とトリックを繋ぎ合わせるだけで十分ですが、確かに凄いことは間違いないです。
どんな人におすすめ?
胸を張って恋愛小説好きにおすすめはできませんが、ミステリ好きにはおすすめできるのはないのでしょうか。
まさに小説にしかできない、小説の可能性という意味合いでもおすすめできます。まだ読んだことがない人は是非とも一度通読してみるのもありだと思います。
では本日はこの辺で終わりたいと思います。
いやぁ、それにしても、一杯食わされましたなぁ……。笑