ジェノサイド【あらすじネタバレ感想】進化人類出現を圧倒的なスケールで描く傑作!

(上巻)あらすじ

イラクで戦うアメリカ人傭兵と、日本で薬学を専攻する大学院生。

まったく無関係だった二人の運命が交錯する時、全世界を舞台にした大冒険の幕が開く。

アメリカの情報機関が察知した人類絶滅の危機とは何か。

そして合衆国大統領が発動させた機密作戦の行方は―人類の未来を賭けた戦いを、緻密なリアリティと圧倒的なスケールで描き切り、その衝撃的なストーリーで出版界を震撼させた超弩級エンタテインメント、堂々の文庫化!

(KADOKAWAより)

(上巻)感想・レビュー

このミステリーがすごい!《2012年》国内編第一位、第2回山田風太郎賞受賞、第9回(2012年)本屋大賞第2位ノミネート、第65回日本推理作家協会賞受賞

ダーウィンの進化論には、一つ不可解な事があって、それは莫大な時間を要するせいか、進化のタイミングを中々お目にかかる事が出来ないからだ。

我々が現生人類になるまでに、幾つかのモデルチェンジをしてきたというのが、ここ数世紀の通説ですが、では、それを今やってみようではないか、という。

前に読んだ「星を継ぐもの」というSF作品では、別惑星からの襲来という展開で、進化論のミッシング・リンクを論理的に説得していましたが、本作はストレートに進化人類が現場で生誕しておりました。笑

さてそんな魅力的な本作の著者は、「13階段」で江戸川乱歩賞を受賞し、様々な賞を受賞した高野和明さんですが、私は初めて読みます。

まずいつもの所感としては「あぁ、これまた凄い領域に挑戦した作品で、そして面白いに決まってる」というような内容の物語でした。まだ前半戦だけですが。

上巻の物語は、第一部「ハイズマン・レポート」と第二部「ネメシス」で構成されており、主に複数の視点で動いていきます。

主な視点
  • 1.「不治の病の子を持つアメリカ人のイェーガー」
  • 2.「薬学を専攻する院生の日本人の古賀」
  • 3.「ネメシス計画代表のルーベンス」
  • 4.「バーンズ大統領」

主に1と2が主軸で動いていくのですが、まず本作を簡単に要約しますと、

「現生人類(ホモ・サピエンス)の進化人類が誕生したので、殺そう。じゃないと現生人類は支配されてしまう」

という感じですかね。

これはアメリカ国側の考えですが、1と2はその国家に対して、反する動きを見せる展開です。

アメリカ人軍人のイェーガーと、日本の大学院生の古賀研人は、全く関係のない生き方をしていましたが、この新人類の誕生をきっかけに、二人は徐々に徐々に近づいていきます。

まだ上巻で二人が会うことはありませんでしたが。

最後にイェーガーたちが、日本を目指す流れで終わったので、その辺りも楽しみに待ちたいと思います。

まず読みながら驚いたのは、著者の人類学や歴史学、その他の細かい学問の知識など、科学的根拠と非科学的見解をもとに物語を進めていくその造詣の深さと頭の柔軟さですよね。

それらの知識が作中で出てくる小道具にもなっていて、より一層魅力的な物語になっているなと感じました。

元々、そっちの方なのかなと思って高野和明さんのことをWikipediaで軽く参照しましたが、脚本家の方らしく、おそらく独学や取材かと。

文章を読んでいてその力量を肌で感じましたし、さらにSFチックなミステリ展開で捲る頁が止まりませんでした。

時代背景的にも0年代辺りのアメリカを意識、模倣したような感じですかね。

大統領もブッシュ大統領の模倣のような人物で、次の大統領はアフリカ系(オバマ)かもしれない、的なことが書かれており、つい笑ってしまいましたが。

第一部で組み立てられた「日本サイドの古賀の逃走劇や、死んだ父親が残した秘密」、「ガーディアン作戦の為に集められたイェーガーたち4人」、「新人類が生誕した狩猟採集民族たち」など、

これらの謎が、既に第二部で明かされていくのですが、その内容も構成力も素晴らしいですね。

第二部では新人類が出てきましたが、もうこの辺りも面白すぎますよ。

新人類という途轍もなく賢い、3歳児が今後、どうなっていくのか目が離せません。そもそもあの新人類は、本当に何なんだ。笑

あとは「どうして古賀の父親と息子が作ろうとしている新薬」と、「イェーガーの息子を助ける新薬が」、どのようにして新人類の抹殺などに繋がっていくのか?などわかっていない所も多いです。

そして作中では、度々目を惹かれる文章を書いており、色々と紹介したいのですが、きりがないので、一部引用させて頂きます。

この先、人類の歴史が永遠に続こうと、平和の希求はいつかは滞る。

世界のどこかに人間同士の闘争を抱えたまま、人類史は積み重ねられていく。

この蛮行を根絶しようとするなら、我々自身が絶滅するしかない。

次世代の人類にその後を託して。

(ジェノサイドより)

本作では、こういうハッとさせられるような文章が幾つもあるんですよね。

今現代にも起き続ける偽りの平和であったり、その平和を求めるフリをする国家たちには、永遠に当て嵌まる言葉なのかもしれません。

引き続き下巻に参りたいと思います。

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(下巻)あらすじ

研人に託された研究には、想像を絶する遠大な狙いが秘められていた。

一方、戦地からの脱出に転じたイエーガーを待ち受けていたのは、人間という生き物が作り出した、この世の地獄だった。

人類の命運を賭けた二人の戦いは、度重なる絶対絶命の危機を乗り越えて、いよいよクライマックスへ―

日本推理作家協会賞、山田風太郎賞、そして各種ランキングの首位に輝いた、現代エンタテインメント小説の最高峰。

(KADOKAWAより)

(下巻)感想・レビュー

いや凄すぎます。本当に凄すぎる小説でした。

まず読後の所感としては、この言葉がすぐに出てきましたね。

もうスケールから計り知れない壮大さと、圧倒的な力量というか熱量といいますか。

ただその熱量とは裏腹に、しっかりと「動と静」を書き分ける冷静さや、親と子へ受け継がれていくテーマ性も背後に確立されていて、傑作とはこの作品を指すのだなと。

私、個人としては、今まで人生で読んできた小説の中でもかなり上位に入るかもしれません(順位とかつけたことないので、わかりませんが。笑)。

さて、いつものように物語を軽く振り返っていきます。

まずイェーガーたちは、主にアフリカを脱出することを目標に動きます。

後半のイェーガー側たちの視点は、本当に過酷な展開が続きました。

脱出劇も激しい展開が何度も押し寄せます。

仲間のウォーレンが死に、イェーガーが仲間のミックを撃ち殺し、その後に葛藤があるのですが、その感情の描き方が本当に上手いなぁと。

最後は車の中で皆が泣いているのですが、本当に心にくるものがあるかと。

飛行劇の描写も本当にリアルに感じて本当に凄いなぁと。

さらにジェノサイド展開では付き物でもありますが、子供兵たちの突撃、過去回想は辛すぎます。ですがこれも現実の一端が描かれているのだなとも思えました。

南京大虐殺、関東大震災時の朝鮮人虐殺、ルワンダ、ゴンゴなどにもしっかりと触れられており、その辺りも関心しましたね。

進化人類のアキリが、現生人類(旧人類)の醜さを覚えていく過程で、自分を命がけで守ってくれている人たちのことをしっかりと目にとどめていることに、少し嬉しをを覚えましたね。

アキリはアキリで子供らしい一面もあるのですが、頭脳はもう現生人類では計り知れない領域です。

そんな彼がどんな風に人類を見ていたのか分かりませんが、ルーベンス視点で予測されているような感じが正解なんですかね。

いや、そういう現生人類の思考予測すら敵わないのがアキリたちなんですかね。

続いて古賀研人と正勲は、タイムリミットと戦いながら新薬開発を続けます。

まず結論から言うと、研人は正勲の助けを借りながら何とか10万人の命を救える特効薬の開発に成功しました。

研人サイドは、イェーガー視点に比べ、主に静の展開なのですが、それでも後半は、様々な大人たちに追われるなど、スリリングな展開も多かったですが、めちゃくちゃ面白かったです。

イェーガーの息子と日本人少女の寿命が近づく中、研人は父親の残した謎に巻き込まれ、科学者としての葛藤や、親子としての関係性などが徐々に変化、成長していく。

おそらく本作って、研人サイドだけでも一本のお話として成立するんですよね。それくらい魅力的な物語だったかなと。

謎の女・坂井友理がどんな人物なのか判明していく展開や科学的な描写も、無知でもそれなりに楽しめるようになっているかなと。

他にも正勲との熱い友情というか、大学生ならではの雰囲気なども楽しめました。

続いてルーベンスは、このネメシス作戦は、新生人類(ヌース)たちによってもう既に支配されていることに気づきますが、大統領はそれを認めない感じです。

ルーベンスの視点も本当に魅力的だったのではないでしょうか。

第一部でもタイトルになっている『ハイズマン・レポート』の著者、ハイズマン博士との会話シーンは本当に楽しめました。

人類の善悪や概念などを、人類史的な側面から議論するのですが、私個人的には、一番好みのシーンだったかと。

二人共とにかく賢いのは前提なんですが、人類の不完全さ、狂暴性をしっかりと踏まえて議論しているんですよね。

ただこの作品の面白い所は、しっかりと極小の善についての見解も述べてられている、というのもとても興味深く読まさせて頂きました。

あとはルーベンスが「アキリ」だけではなく、同じく新生人類の「エマ」の存在に気づく展開など、流石に都合が良いくらい賢すぎるかなとも思わないではないでいですが楽しめました。

アメリカ合衆国が新生人類に乗っ取られかけ、バーンズ大統領の愚かさを描く、たった一人の狂人の選択という、内面思考も面白かったです。

最後に結末を書いておこうかなと。

まず研人たちは、イェーガーの息子と日本人少女を何とか救い出しました。

そしてイェーガーたちは、天才的な「エマ」の導きによりアフリカ脱出に成功。その後、ピアースの破格の援助を聞いてどこか安心。

最後のエピローグで、イェーガーたちが日本の研人と正勲と合流し、父親の残した言葉の伏線回収にも成功します。

アキリとエマも新生人類姉弟として初めて合流し、感動しました。

まとめ

とにかく圧倒的なスケールの中に密度が高く、感想を書くのが本当に難しかったです。

もうこの作品は、読んで肌で体感してもらう方がいいのではないかと。

正直に言うと私の今の力量では、この作品を纏めるのが困難です。ただどの作品よりも面白いんです!

こんなにも魅力的な作品を書ける高野和明さんは、全体的には寡作です。

さらに「ジェノサイド」以降、新作小説の刊行はなかったとか。

そして2022年に約11年ぶりに新作「踏切の幽霊」を刊行されたらしいです。

解説を読みとても面白かったのですが、「最初は量産体制に入る予定」だったらしいのですが、やはり「ジェノサイド」程の作品を書き上げてしまうと中々難しいものがあるのでしょうね。

巻末の一部の参考文献や取材の努力なども伺えますから、本当に苦労したのかと。

本作の構想は、高野さんが20歳頃からあったらしく、そこから何度も挫折を経験し、長い年月をかけて上梓されたらしいです。

まだ読まれていない方は、ぜひ一度読んでみてはいかがでしょうか。オススメです。

それでは今日はここまで。

最後までお読み頂きありがとうございました。

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