
あらすじ
孤独な天才捜査官。初めての「壊れない」相棒は、ロボットだった。
★第27回電撃小説大賞《大賞》受賞作!!★
(電撃文庫より)
最強の凸凹バディが贈る、SFクライムドラマが堂々開幕!!
脳の縫い糸〈ユア・フォルマ〉――ウイルス性脳炎の流行から人々を救った医療技術は、日常に不可欠な情報端末へと進化をとげた。
縫い糸は全てを記録する。見たもの、聴いたこと、そして感情までも。そんな記録にダイブし、重大事件解決の糸口を探るのが、電索官・エチカの仕事だ。
電索能力が釣り合わない同僚の脳を焼き切っては、病院送りにしてばかりのエチカにあてがわれた新しい相棒ハロルドは、ヒト型ロボット〈アミクス〉だった。
過去のトラウマからアミクスを嫌うエチカと、構わず距離を詰めるハロルド。稀代の凸凹バディが、世界を襲う電子犯罪に挑む!
第27回電撃大賞《大賞》受賞のバディクライムドラマ、堂々開幕!!
感想・レビュー
第27回電撃小説大賞《大賞》受賞作
久しぶりの電撃大賞作品を読んでまず思ったのが、今まで読んできた電撃大賞の中でも描写力が断トツレベルで高かったです。
ロシアを主に、各国描写のレベルがたけぇと思いつつ、これ一般文芸やSFレーベルから出ていてもかなり上手い方かと。
これがまだデビューしていないアマチュアが書いたのかと思うとやはりそれだけでもプロレベルなのは間違いないです。
この描写は著者さんの経験によるものなのか、取材によるものなのか、単に想像力だけで書いたのかは分かりませんが読み心地も良く素晴らしかったです。
物語はSFドラマです。
「脳の縫い糸〈ユア・フォルマ〉」という人の記憶に潜れる設定に既視感を覚えつつも、未来的舞台や組織などのSF設定を上手く使ってオリジナリティを感じるように工夫されていました。
さらにその設定を上手く物語に落とし込んでいた所、これもかなりレベルの高い落とし込みだったのでもう新人のレベルを逸脱しています。
構成の起伏もうまく使って、中盤が面白く最後にまた裏切りがあるのも良かった。
伏線の回収も見事に拾いきっていたかと。
機械と人間という今やありふれたテーマではありますが、また違った切り口で、著者さん独自の世界観で書けていたのも良かったです…とさっきから良かったですしか言ってないのも自分で書いてて気持ち悪いのですが、本当に隙がない訳ではないんですけど殆どないんです。笑
いつも新人賞を読むときに心掛けているのですが、気持ち判定を緩めで読むくらいにしているんです。
でないと結構厳しい作品もあったりするのですが、この作品に至っては新人賞だから…みたいなミスどころか、普通のプロの作品として読んでいたのでもう何も言うことがないんです。
一つオリジナリティに関しても(既視感)とマイナス要素な書き方をしましたが、実はこれもかなり褒めているんです。
個人的にはこの(既視感)はかなり計算されていると睨んでいて、既視感を全く覚えない純度100%のオリジナリティ設定は(100%は不可能だが)かなり読者を選ぶので、マニアックな読者以外はついてこれないんです。特にSF。
その結果が「読んでいてあまり設定が入ってこなかった」=「面白くなかった」に繋がるのですが、既視感が程よくある作品は読者の想像力をサポートする役割を担っているので、後は独自の世界観を築くことに成功していれば(ドラマなど)間違いなく面白い作品になるのです。
色々と書きましたが、著者さんには是非ともSFまたは一般文芸に殴り込みして頂いて、また海外舞台のスタイリッシュ系かハードボイルド的な作品とかなら読んでみたいかもと思った次第であります。
あとこれも書き忘れましたが、時々繰り出される一文にも魅力がありましたので、その中でも特に印象に残った書き出しの一文を引用させて頂き今日はおわります。
時々突風が吹き抜けるように、こんな大人にはなりたくなかった、と思うことがある。
(ユア・フォルマより)
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