一九八四年【あらすじネタバレ感想】真実が書き換えられるディストピア

あらすじ

“ビッグ・ブラザー”率いる党が支配する全体主義的近未来。

ウィンストン・スミスは真理省記録局に勤務する党員で、歴史の改竄が仕事だった。

彼は、完璧な屈従を強いる体制に以前より不満を抱いていた。

ある時、奔放な美女ジュリアと恋に落ちたことを契機に、彼は伝説的な裏切り者が組織したと噂される反政府地下活動に惹かれるようになるが…。

二十世紀世界文学の最高傑作が新訳版で登場。解説/トマス・ピンチョン。

(早川書房より)

感想・レビュー

怖いなぁ、本当に怖い小説でした。笑

ジョージ・オーウェルの『一九八四年』というのは、世界的な文学でもあり、ディストピア的な警鐘を鳴らすSF的な小説としてよくネットなどで耳にしていたのですが、機会があってようやく読めました。

簡単に本作を要約すると、個は集団(国家)の為に全てを捧げるべし!〉という超監視社会(全体主義国家)が描かれていました。

ではさっそくいつもの所感としては、物語的な展開で魅せる面白さは普通ですかね。

ただ世界観の構築が恐ろしいので、それで物語を引っ張っていきつつ、『個』と『集団』という国家を描くことに成功しているのかな、というのが正直なところです。

私も読み終えてから2日経ったいま感想を書き始めたのですが、読んだ直後より、読み終えて時間が経てば経つほど、この世界観の恐ろしさをより体感してしまうような小説でした。

ではざっくりと振り返っていきます。

本作はまず三部構成で描かれていました。

主人公の「ウィンストン・スミス」はこの全体主義国家オセアニアの《ビッグブラザー党》で働く党員。

ですがウィンストンは、この支配体制に不満を持ち続けており、その恐ろしい日常の生活が、第一部で描かれていました。

誰だってこんな支配世界は嫌に決まってる、というような世界なのですが、政治がこうなってしまった以上、そう考えることそのものが「思考犯罪」にもなります。

国民はいまの日本が全てホワイト会社に見えてしまうくらい、鬼のように働かされます。

また個でいることを許されず、部屋の中も常に監視され、労働基準法やプライバシーの侵害なんて言葉はありません。笑

他にも【ビッグブラザー(支配者)】【ニュースピーク(新言語)】【二重思考(2+2は5であると信じること)】や、世界観的にも【オセアニア、イースタシア、ユーラシアの三大国が分割統治し争いを続けている】といった序盤からオリジナル世界を学ぶ必要があるので、そこは少し苦労しましたが、読んでいるうちに慣れてくるので大丈夫です。

ですが、読んでいると色々と既視感を覚える世界観だなと思いはじめます。そうです、20世紀頃の旧ソ連とか、中国の共産世界なんですよね。

ビッグブラザーもどこかスターリンを想起させるような感じでしたけど、笑

あとは【二分間憎悪】という、国民の忠誠心を高める習慣もありました。

ビッグブラザーに牙を剥いた裏切り者、反政府組織のリーダーである「ゴールドスタイン」という男がいかに悪者であるかを伝える映像をひたすら見せられます。

一つ面白いところがありまして、この世界にはビッグブラザーもゴールドスタインも本当に実在するのか、最初から最後までわからないままなんですよね。

つまり、人を洗脳状態にすることにおいて神と同じく、意思の力よりも、想像力を利用することが大事なのだ、ということ。努力逆転の法則に近いような感じでもありますよね。

話し戻しまして、ここで【プロール】という最下層のスラム街で生きるような人間が、描かれはじめるですが、これがとてつもなく恐ろしいんですよね。

まずこの世界は【上層】【中層(ウィンストン)】【下層(プロール)】の3つに分けられます。

では何が恐ろしいのか、この世界の監視社会は【中層】にのみ働いているのですよね

上層は権力者ですから自由であるとして、下層も貧困ながら自由にはやってるんですよね。

つまりこの作品が何が言いたいのかと言いますと、それはいつの時代も下層からの国家転覆はなく、中層さえ操作できれば権力者有利な国家が成り立つ、という恐ろしい国家構造の事実を描いているんですよね。

こうしてウィンストンの精神崩壊寸前の日常生活と、恐ろしい国家体制が描かれていくなか、物語は「第二部」になって動き出します。

ウィンストンは若い娘・ジュリアに「あなたが好きです」という告白を受け、二人は恋仲になります。

一応書いておきますが、ウィンストンは既婚者ですが妻の行方は不明です。捕まったのか死んだのかも分からない状態です。ですから離婚も許されない恋になります。

二人は監視が弱まる野原で精神的、肉体的にも結びつき、逢瀬を重ねていきます。

ついに監視を逃れる愛の巣を持ち、絶対に手に入らない様々な嗜好品を闇市で仕入れたりもしていました。

これは不倫ではなく、個の欲望を優先してしまった国家反逆的な大罪となります。

ウィンストンとジュリアは、自分たちもいつかは捕まってしまうのだろうなと感じつつも、愛を深めていきます。

この頃、ウィンストンのもとに「オブライエン」という反政府組織の人間が接触してきます。

反政府組織といえば、二分間憎悪の時にも出てきましたゴールドスタイン率いる組織です。

そこでウィンストンには「例のあの本」と呼ばれるゴールドスタインが書いた反政府的な書物を読み始めます。

作中にもわりとしっかりとした文量で、全体主義国家の悪いところが描かれていました。

本当の歴史の流れとしても、とても興味深い視点で思考が描かれていて、個人的にはすごく楽しめる思考犯罪だったかなと。笑

ですが、実はオブライエンは党員の人間で、反乱分子を炙り出す為の接触だった…という、ここはまぁよくある展開ですが、ウィンストンとジュリアはついに捕まります。

そして「第三部」で悪夢のような拷問、尋問がはじまります。

その相手はオブライエンです。ここの拷問内容は本当に読んでいて辛いのと、それでも是非読んで欲しいので省きますが、感じたことだけ書いておきます。

この拷問では、『個』という人間が極限状態のなかで、国家に抗うのがいかにして限界があり、不可能なものなのかというものが描かれていました。

ウィンストンは抵抗を続けますが、最終的に全てを裏切り、オブライエンの言う『更生』された人間として社会に再復帰して、物語は幕を下ろします。

そして戦いの終わったウィンストンは、涙を流しながら『心からビッグブラザーを愛していた…』となんともバッドエンドな展開ですね。

拷問過程を見ていると、ウィンストンは最後の最後に、愛するジュリアを裏切るのですが、それはジュリアも同じだったようで、この結末をどう捉えるかは、難しいところ。

ですが本作の巻末には、附録として《ニュースピークの諸原理》という、エッセイがあります。

そこでニュースピークの基本を『過去形』として書かれており、つまりビッグブラザー党が敗北したとみてとれるような内容が書かれてもいるんですよね。

わざわざ物語とは別に、この附録を挿入した意味はいったい何なのでしょうか。

この物語を通して思ったのは、この行き過ぎた監視社会もよく考えると、どの国にも何かしら当て嵌まるものなのかもしれないなと思いました。

政治の一党独裁も、SNSでの通報社会も、個人管理番号も、平等と謳う社会保障も、改ざんされる過去も、思考停止状態のまま社会で働かせ続ける構造も、何がこのオセアニア全体主義国家と違うのだろうか。

それが国家を統治するということなのか。

はい、という感じで、やはり恐ろしい小説であったかなと。

本作はオーウェルが書いた最後の物語らしいのですが、他にも読んでみたい小説がありますので、いつか機会があればまた読んでみたいと思います。

最後までお読み頂きありがとうございました。

それでは、また。

戦争は平和なり 自由は隷従なり 無知は力なり

(『一九八四年』より)

紹介した本

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