あらすじ
「娘の小学校受験が終わったら離婚する」。
そう約束していた播磨和昌と薫子に突然の悲報が届く。娘がプールで溺れた――。
病院で彼等を待っていたのは、〝おそらく脳死〟という残酷な現実。
一旦は受け入れた二人だったが、娘との別れの直前に翻意。
医師も驚く方法で娘との生活を続けることを決意する。狂気とも言える薫子の愛に周囲は翻弄されていく。
(幻冬舎より)
感想・レビュー
少し久しぶりの東野さん。
当然ですが、今回も面白さはもちろんのこと、色々と考えさせられる作品だったなと。
全体的にはサスペンスのような感じで、少しだけミステリー要素もある。
ただこの作品は、序盤の時に正解がないタイプの作品だという事がわかってしまうので、
「最終的にどこを目指しているんだろう?」というエンタメ系の小説には、あまり向いてない疑問があるまま、物語が進んでいくのです。
しかしそれを最後まで引っ張るだけの力量というか、テクニックが素晴らしいなと改めて東野圭吾さん凄さが身に沁みましたね。
題材が題材だけに、胸が痛くもなりますし、ごく普通の親子だったら何となくで過ごしてしまうような「親にとって子供とは?」という所が、滲み出るような作品でもありましたし、
日本人ならではの感性がもたらす物語でもあったかなと。
脳は未知数なことがまだまだある。特に子供の場合。
人は何をもって人の死とするのか。
全身が腐敗しなければ意識はなくても死体と言わないのか。
そもそも誰かの臓器を誰かに移植する、という行為は、本来、罰当たりな外道だっただろう。
しかしそれにより、命を長らえる人もいる。同時にそれは、生きた人の臓器が一つなくなったという事でもある。
さて、物語は離婚寸前の別居している夫婦の6歳になる娘が、プールで溺れた為、脳死状態になった所から物語は動き出していきます。
個人的にはこれだけでもう結構悲しい気持ちになるのですが、まぁそれは一旦置いときまして、両親は当然、絶望の淵に立たされたような気持ちになります。
すかさず病院側から娘の「臓器提供の意思」を問われますが、最終的に娘の身体動いたと夫婦は感じ「まだ娘は生きている」と、臓器提供を拒否。
そこから娘の為の在宅介護を母と祖母が覚えたり、他にも新人工呼吸システムや筋肉を動かすハイテク機器が出てきて、娘が奇跡的な肉体的成長をしたりもしますが、娘が目を覚ますことだけはありません。
あと日本と海外の臓器移植、その法律や問題、考え方の違いだったりも描かれていきます。
道中、間延びを防ぐ為の恋愛要素や、バトミントンや野球などの小道具も扱われ、相変わらず東野圭吾作品だなぁと思える部分もあります。
こういう些細な労力というか、テクニックが東野圭吾作品が売れ続ける一番の理由なのかもしれないなぁと。
脳が死んでいる娘に対して、母親が日々、色々な服を着させたり、髪型を変えてあげたり、散歩に連れて行ったり、確かに外からみれば狂っているとも見れるかもしれない。
実際そういうホラーチックな書かれ方もしていました。
しかし、この母親が臓器移植運動に変装してまで参加し続け、自分の現在と真逆の行動と言動を行い、臓器移植が間に合わなかった子供の葬式で嗚咽を漏らして泣いている、ということがこの母親だと分かった時は、不覚にも涙が止まりませんでした。
この仕掛けは、本当に素晴らしいなぁと思ってしまいましたね。個人的にこういう「互いの気持ちを知る」という仕掛けが、他の作品でも好きだということもあるかもしれませんが。
だから最初に書きましたが、この作品に正解はないでしょうし、本当に他人が口出し出来ない領域ではありますからね。
まぁそれが日本の臓器移植問題になっているのも正直な所で……それを法律で変えてあげるのも優しさなのか、残酷なのか、それともただただ政治家の怠慢なのか、そういった所も描かれはいましたが。
そして物語は母がどんどんヒステリックになっていき、娘の生死を問うシーンもありつつ、終盤で娘とお別れを告げ、臓器提供までいくのですが、この辺りも素直に捲る頁が止まりませんでした。
エピローグでは、プロローグとの繋がりを見せたりもして、臓器提供された後の余韻として、一抹の寂しさと、新たな希望という形で描かれ、物語は幕を閉じました。
最後の家が空き家になっている感じから、この夫婦は結局離婚したんでょうか。まぁしたのかな。
でも息子もいるし、離婚したとしても、娘との繋がりは切れませんから、そういった意味で二人の繋がりは完全には消えないのかもしれませんね。
ということで、色々と省きながら振り返ってきましたが、うーん、でもこの作品は東野圭吾の作品の中でも個人的にかなり上位にいく作品かなと思います。
おそらく全体的な完成度としては、そこまで高くないと思うのですよ。少し幻想的な部分で埋めていた所もあると思うので。
本作は「親と子」「脳死」「愛と狂」などがメインのテーマになってはくると思うのですが、
個人的には「脳死」を題材に、あの中盤の仕掛けが描けたというのが、すごく意味のある、大事なシーンだったかなと思います。
それでは今日はここまで。最後までお読みいただきありがとうございました。
では、また。