風の影【あらすじネタバレ感想】スペインで小説を巡る、歴史冒険ミステリー

(上巻)あらすじ

1945年のバルセロナ。

霧深い夏の朝、ダニエル少年は父親に連れて行かれた「忘れられた本の墓場」で出遭った『風の影』に深く感動する。

謎の作家フリアン・カラックスの隠された過去の探求は、内戦に傷ついた都市の記憶を甦らせるとともに、愛と憎悪に満ちた物語の中で少年の精神を成長させる…。

17言語、37カ国で翻訳出版され、世界中の読者から熱い支持を得ている本格的歴史、恋愛、冒険ミステリー。

(集英社より)

(上巻)感想・レビュー

このミステリーがすごい!海外2007年:第4位

本作は「忘れられた本の墓場」シリーズの第一作目になるそうです。

まだ上下巻の(上)なので、評価を判断することは出来ませんが、今の所かなり面白いです。

時代背景が1945年頃のスペインなので、スペイン戦争後という感じでしょうか。

当時の疲弊したバルセロナの雰囲気も感じられて、そこだけ読んでいて興味深かかったですね。

混沌とした時代背景ですから、善悪が色濃く描かれており、黒いところはとことん黒い。

それでも人が持つ、力強いエネルギーのようなものが描かれています。

さて物語は、10歳の少年・ダニエルが、父に連れられ「忘れられた本の墓場」で一冊の本と出会います。

道中で間延びしたかな?と感じたような部分も、終盤で色々としっかり回収してくるので、これはかなり計算されて書かれているなぁと、こちらも気を引き締めなおしましたね。笑

話を戻して、ダニエルが出会った小説のタイトルが『風の影』、と本タイトルと同じ。

著者はフリアン・カラックスという、。

この一冊に魅了されたダニエルは、作家のフリアンに興味を抱き、調べることに。

調べていく過程で、フリアンの謎に包まれた不可解な経歴、過去が判明し、ダニエルは徐々に危険な道へと巻き込まれていく…とだいぶ大雑把な要約になりましたが、こんな感じ。

ファンタジー感は多少あるのですがアクションとかはなく、ミステリ的な話の展開で上手く構成されていました。

まずこの「忘れられた本の墓場」というファンタジーのような設定が、本好きにとってはたまらないです。笑

他にも盲目の年上少女・クララへの恋や、青年になったダニエルが、フリアン・カラックスを求めて彼の正体が徐々に明かされていく展開に目がはなせません。

その周囲にいるキャラクターも魅力的な者が多いです。

元ホームレスのフェルミンを、父と経営する書店に引き抜き、その愉快で道化のようなユーモアと機知に富んだ会話など、まるでシェイクスピアの作品に出てきそうなキャラクターでかなり良い。

フェルミンとダニエルが相棒のように仲良くなっていくのも面白いです。

あとはダニエルの親友・トマスの妹ベアトリスとの恋も最後の最後で結びつきましたけど、フリアンとの人生にも繋がってくるんですかね。

あとはフリアン周りの学生時代や暗い過去の家族、アルダヤ家との繋がりも夢中になって読めました。

一つだけ気になった部分もありましたので一応書いておきます。

何人かの過去を明かすシーンが幾つかあるんですけど、急に過去行きます、みたいなまんま設定をそのまま文章にしている感じがするので、笑)雑というか、まぁ面白いから良いんですけど。

もう少し物語の中で小道具を使うなり、自然な流れで明かせれば、技量的な評価も上がったかな、というのも正直なところですかね。

まぁまぁ、それはさておき、フリアンにどことなく似た人生を歩んでいるダニエルが、今後どうなっていくのか?

さっそく下巻に入りたいと思います。

最終的にどんな着地点になるのか、今の所全然予測できないのですが、楽しみですね。

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(下巻)あらすじ

謎の作家フリアン・カラックスの過去が明らかになるにつれて、ダニエルの身に危険が迫る。

一方、彼は作家の生涯と自分の現在との不思議な照応に気づいていくのだが…。

ガウディ、ミロ、ダリなど幾多の天才児たちを産んだカタルーニャの首都バルセロナの魂の奥深くを巡る冒険の行方には、思いがけない結末が待っている。文学と読書愛好家への熱いオマージュを捧げる本格ミステリーロマン。

(集英社より)

(下巻)感想・レビュー

下巻です。

まず読了後の所感としては、素直に面白かったですね。

初めて味わうような独特な読後感で、それくらい色々なジャンルが交錯していた内容でもあったと思います。

特に『風の影』の著者・フリアン・カラックスの過去編が後半の大部分を占めるんですけど、それがすごく面白かった。

ここが結構、個人的には大きなポイントになったかなと思います。

物語は親友トマスの妹・ベアトリスと恋仲になったダニエルですが、それと並行して幸せな展開が待っている訳ではありませんでした。

むしろフリアンや友のフェルミンには、過激な展開が襲いかかります。

それでも『風の影』を刑事のフメロに対して、決して手放さないダニエルは、最後に一度死にかけます(その後、急死に一生を得る。笑)。

よくよく考えたら中盤辺りで、ダニエルは「自分はあと七日後に死ぬ」と唐突に独白しており、一人称でこれはちょっとずるい。笑

その後、ヌリア・モンフォルトの手記で、フリアンたちの暗い真実、過去が明かされていきます。

一部の展開的結末には、どこか既視感はありましたが(実は血の繋がった妹だった…など)、それをひっくるめてもかなり計算された人物関係の構図で、ピースがハマっていく過程に何度も「なるほど」と頷けました。

その中でも、刑事のフメロも入っており、面白いんですけど、彼の成り上がり方って可能なんですかね?

ばしばし人を殺していましたけど、時代背景的にスペイン内戦時代だったので可能なのでしょうか?

次々と起きる展開の裏にはしっかりとした「動機」が組み込まれており、その辺りも抜かりなかったかなと思います。

多少、医学的な面でみると火傷後のフリアンには無理も感じましたが。笑

ただ一つ、「忘れられた本の墓場」というのは結局何だったのか?ということですよね。

本作はシリーズものなので、個人的にはもっと詳細に明かして欲しかったんですが、仕方ありません。それくらい魅力のある設定でした。

一応注記しておきますが、物語はしっかりと畳まれているのでご安心下さい。

あと終わり方も、各キャラクターたちのその後が描かれており、ハッピーエンド?とは言いにくいような気もしますが、気持ちよく読了は出来ると思います。

まとめ

作中では幾つか名言、名シーンとも呼べる箇所があり、何度もハッとさせられました。

少し長くなるので引用は控えますが、ヌリアの手記に「戦争は、忘れることをえさにして大きくなっていく」という文学的かつ詩的な言葉があり、とても胸に響きました。

一冊の小説を巡る冒険譚が、ミステリー的なホワイダニットと歴史的な背景を描くことで、ここまでの物語になるのかと。

改めて盛り沢山な一冊だったなと思います。

読書好きにはたまらない一冊にもなるのではないでしょうか。

それでは今日はここまで。ありがとうございました。

翻訳は木村裕美さんです。

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