あらすじ
兄の部屋を偏執的にアサる弟と、執拗に監視・報復する兄。出口を失い暴走する憎悪の「黒冷水」。兄弟間の果てしない確執に終わりはあるのか? 当時史上最年少十七歳・第四十回文藝賞受賞作!
(河出書房新社より)
感想・レビュー
第40回文藝賞受賞作
当時文藝賞を17歳で受賞した羽田さんのデビュー作です。
という事はそれ以前の歳に書いた可能性が高く、小説と年齢は、あまり関係ない事だが、それは創作側のメンタリティであって、やはり若くて書けるというのは、それだけで立派。
しかし本作は、立派なんて言葉に収めるには大変失礼な話で、これは恐るべき才能の持ち主であり、個人的にも最年少が書いた小説を読んだことになるでしょう。
その内容が兄弟喧嘩
ひたすらにエスカレートしていく喧嘩過程は、リアルさとスリリングを兼ね備えていて、捲る頁が止まらない。
エスカレートした喧嘩は、軽い犯罪の応酬まで発展し、もう目も当てられない展開になってしまうけれど、それが面白すぎて、何度も「マジかよ…」と苦笑いしてしまいました。
それくらい兄弟感の互いにしか感じ取れない繊細で醜い感情を汲み取っていて、大変感心しました。
歳の近い兄弟がいない人からすると、そんなやりすぎな、少々エンタメが過ぎるなと思うかもしれない。
ですがこれは、何かの歯車がこの兄弟みたいに狂えば、あり得た未来になる可能性を残していて、それが途轍もないスリリングを描くことにも成功していて、その力量に脱帽したほどです。
個人的にさらに評価したいポイントがありまして、最後の現実に巻き戻した勇気と、弟が死んだら自分の受賞経歴に傷がつく事を心配して、その為だけに、弟が助かる事を祈っていた。
という場面があるんですけど、ここは筆を止めるタイミングとして、一歩間違えればかなり難しい評価になっていたであろう事は間違いない。
勇気の一歩を踏み出したのは若さ故か、それとも天性のモノなのか、それは本作のデビュー作後の羽田さんが物語っていて、プロの世界で書き続けている一つの指標ともなっているのかもしれない、と個人的に思いました。
余談ですが、私にも兄弟がいるので、それあるわぁと独り言ちりながら、楽しんでました。笑
著者の才能は、この一作を読むだけでも十分に伝わってきますね。
素直に凄いな、と感じたエネルギーのある力作です。