あらすじ
私には五人の父と母がいる。その全員を大好きだ。
森宮優子、十七歳。継父継母が変われば名字も変わる。だけどいつでも両親を愛し、愛されていた。この著者にしか描けない優しい物語。
(文藝春秋より)
感想・レビュー
第十六回本屋大賞”大賞“受賞作品
瀬尾まいこさん初読み作家です。
両親が何度も変わる女子高生の森宮優子が高校生になって進路相談で、みたいな入り口でこの物語がはじまる。
優子自身も絵に描いたようないい子なので序盤は若干の苦手意識を感じたものの、間々で優子がどういう風に人生を歩んできたかの過去が見えてくる構成。
小さい子が悲しい思いをしているのは、他の小説でもそうだが胸が痛くなる。
だけどこの作品はここから少し変わっていて、出てくる親たちが皆いい人たちばかりというもの。
まぁそれでも本当のお父さんとの別れは胸が痛んだが。
この親がいい人たちばかりだった、というのがかなりポイントかもしれない。大抵の場合は、両親が変わることはマイナスのイメージで描かれるものだが、連続で良い親というこのパターンは、改めて斬新だと思いました。
確かに親が変わるというのは、良いことばかりじゃない。実際に辛い思いをしている子もいる。現にそういう小説は巷に溢れていて、でも逆に親が変わらないことによって辛い思いをしている子もいる。
だけど親が変わったことによって、良い環境に恵まれ、感謝している子もいる。養子縁組とは元来そういう為のものであるし、著者さんはある意味誰も拾おうとしなかった前向きな部分を巧みに拾い、そういったある種のアンチテーゼの消化したように私は感じました。
そして新たに親になる人たちもまた個性豊かというか、魅力的に描かれているので面白い。
過去と並行して現実の優子の話も進んでいく。高校生描写が如何にも女性が書かれたような特有の雰囲気でそこに新鮮さは感じなかった。
だが最後の親である森宮さんとのシーンはほっこりして読めました。料理描写も好きなんだろうなぁというが伝わってきます。
ただ一つ思ったのは、展開を見せたいがばかりに親たちの動きに若干の不自然さも感じました。
本当のお父さんは、流石に無理にでも会いに来ることは出来たのではないのだろうか。色々な葛藤や想いがあるとは思うが、やはり一方的に手紙を送り続けるというのはちょっと。
流石に日本にも帰ってきていますしね。何らかのコンタクトがあっても全然不思議じゃないし、そうじゃないことによって、先の物語を意識したような違和感を私は覚えてしまいました。
あとピアノのシーンが幾つか出てくるが、どのシーンも自分は魅力的に感じました。
二章になって優子が社会人になり、自分が親になるところまできて、最後は思わず感動してうるっとくるものがあります。
著者の巧みな話運びというか思惑がしっかりと成功していて読後感がとても良かったです。
それでは今日はここまで。最後までお読みいただきありがとうございました。
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