あらすじ
おまえが死ぬのを見たい―男はそう言ってアレックスを監禁した。
檻に幽閉され、衰弱した彼女は、死を目前に脱出を図るが…しかし、ここまでは序章にすぎない。孤独な女アレックスの壮絶なる秘密が明かされるや、物語は大逆転を繰り返し、最後に待ち受ける慟哭と驚愕へと突進するのだ。イギリス推理作家協会賞受賞作。
(文藝春秋より)
感想・レビュー
このミステリーがすごい!海外《2015年》第一位、イギリス推理作家協会賞受賞作
まず読み終えてから知ったのですが、本作は4部作(1.『悲しみのイレーヌ』2.『その女アレックス』3.『我が母なるロージー』4.『傷だらけのカミーユ』)のシリーズものらしく、その第2巻にあたるそうです。
ですがそんなこと全然知らずに読んでもとても楽しめました。
ですが第1巻『悲しみのイレーヌ』のネタバレは完全にくらってしまいますので、もしまだ未読の方は第1巻から読んでみるのもいいかもしれませんね。
ということで、さっそく読んでみたのですが、まぁ凄かったですね。
ミステリ、サスペンスというか、その手のジャンルを読んでいる方にはより効く作品だったのではないのかなと思います。
とにかく構成の組み立て方が半端ではなく、これを頭で整理し、実行するのにどれだけの集中力と神経を使ったのか、想像するのも嫌になるほど巧みでした。
本作は三部で構成されているのですが、一部毎に作品の見え方が全く違う方向に向かっていくので、感情がジェットコースターとはこの事を指すのかと思わされました。
簡単に三部を分けると、第一部で「女が誘拐、拉致監禁された」と思わせ、第二部で「女被害者がまさかの殺人鬼」、第三部で「関係の無かった殺人鬼の兄が黒幕&盛大な復讐劇」という感じ。
本当に意味の分からないような展開なんですけど、全部の行動が論理的に説明できるようになっており、ホワイダニットもほぼ完璧になっていて、悲劇的かつ痛快劇にもなっているんですよね。
何なんだこの小説…と久しぶりにこのような感情になりました。
ではいつものように軽くに振り返っていきたいと思います。
「第一部」
まず物語の舞台はフランス。
30歳独身女性の「アレックス」は、容姿にも優れ、派遣看護師をしており、いかにも独身ライフを満喫しているような一日から物語は幕を開けます。
そんなアレックスは、ある日見知らぬ男に誘拐され、拉致監禁されてしまいます。
拷問の詳細は省きますが、ここでのアレックスが受けた暴力や扱いは、本当に辛いもので、もはや人間扱いとは言えないほどに酷かった。
アレックスはもういつ死んでもおかしくない状態でまで追い込まれてしまいます。
そしてもう一つ視点で、警察の「カミーユ」を軸に物語が動いていきます。
カミーユは第1巻で、妻を失い、精神的に酷く疲弊していたが、何とか復帰し、その一発目の事件が上記の「誘拐事件」となります。
結果を先に書きますが、カミーユたちは頑張って捜査しますが、解決することはできませんでした。
アレックスを監禁した容疑者は、あと一歩の所で自殺され、謎は深まります。
この時、誘拐事件が起こっている場所も分からず、アレックスが「女」であるという情報しか分からない状態でした。
しかし地道な捜査により、何とか場所が判明。現地に向かいます。ですが驚くことに監禁場所から被害者の「女」は消えていました。
もうここで異常ですよね。誘拐事件は時間がかかればかかるほど生還率はさがります。
ですが一週間ちかく監禁され、生死も危ういほど疲弊していた「女」が警察に逃げ込むこともなく、ぱったりと姿を消したんですよ。笑
「第二部」
何とか生還したアレックスの生活が描かれていきます。
無事だったのは何よりなのですが、やはり読者としては「なぜ警察に行かないのか?」というのが気になって仕方ありません。
カミーユたちは「女」の情報があまりにもないため、自殺した容疑者の方から情報を洗っていきました。
そうすると何やら容疑者の息子も姿を消しており、それが「女」と関係していた判明。つまり容疑者は、息子の消息不明の復讐としてアレックスを監禁していたのです。
この時、アレックスは偽名を使っていました。
わずかですがようやく女の情報を掴んだので、カミーユたちはその糸を辿り、結果、容疑者の息子も死体となって発見されます。
息子は無惨にも【硫酸】で殺されていました。
視点をアレックスに戻しまして、ここからアレックスが殺人鬼としての顔をみせていきます。
アレックスは必ず名前を変え、容姿も変え、何人も(過去含め6人)の人たちを次々と殺していきます。
殺された人の中には、とても良い人もいて、アレックスはなんでこんな恐ろしい殺人鬼になってしまったんだ?と疑問がとまりません。
もう私としてはこの辺りから感情がぐちゃぐちゃで、笑)意味が分からないのですが、アレックスは手慣れたように殺人を実行し、その手口に例の【硫酸】を使いこなします。
この時点で読者は、第一部でムカついていた容疑者のパパに、少し同情しはじめるんですよね。笑
それくらいアレックスもやばい殺人鬼なんですよ。
こうしてアレックスが犯した殺人が次々と発見され、カミーユたちはその影をどんどん追っていく形になります。
省いていますが、ちゃんとカミーユ側の視点も丁寧に書かれています。
それでもなぜかアレックスを見ていると、とても孤独で、悲しい人に見えてきます。
そして逃亡生活の末、アレックスは自殺してしまいました…
「第三部」
ここからもっとすごいです、、
アレックスの死体が発見されたことにより、カミーユたちはこの事件に完全敗北してしまいます。
しかし、アレックスが自殺直前に捨てた【遺物】を見つけたのを皮切りに、展開は大きく変わっていきます。
まずアレックスの兄が、カミーユたちに尋問を受けます。この兄はアレックス視点でとても厳しいが、社会的にもすごく成功している風な描き方がされていました。
ですが、この兄がとんでもない【狂人】だったことがわかっていきます。
まず兄は、当時10歳のアレックスをレイプしていました。次にアレックスを何人もの男に売春を斡旋し、つまり売っていたのです。
その他にも、アレックスは生殖器を【硫酸】で破壊されていたことも判明していきます。
しかしそれを逆手にアレックスは兄を金で強請っていたのです。でもこれも全て最後の為の作戦だと思うと…なんとも言えない悲劇だ。
そしてアレックスが殺した6人全てが兄と繋がっており、アレックスの凌辱などに関わっていました……
つまりアレックスが犯した殺人は、盛大な復讐劇だったのです!
ここでの急激な伏線回収も凄まじく、私も読みながら、本当にここの尋問シーンは、めくる頁が止まりませんでした。
更に、アレックスは、兄が自分を殺したように見せるために自殺したことが、最後の最後で判明します。
この展開に「え」となってしまったのは私だけではないでしょう。笑
なぜならこれにより、アレックスの行動全てを読者たちは考えなおさなくてはならないからです。
アレックスの最大の復讐、自分の命を掛けて、殺人罪の罪を兄へ着せる……やばいですよね。笑
正直は凄すぎて笑ってしまうような展開でした。
確かに、第二部で描かれたアレックスの自然で、しかし謎のような行動の伏線も回収されますし、第一部でアレックスがなぜ誘拐されてしまったのかも分かるので、本当に恐ろしい構成力でした。
まとめ
はい、という感じで簡単に振り返っていきましたがいかがでしたでしょうか。
個人的に気になった所(殺され者たちは、変装したとはいえ多少なりともアレックスに気づかなかったのだろうか?)などありましたが、総合的にみるとやはり素晴らしかったのではないかなと思います。
少しカミーユ側のことがあまり書けていなかったのでここで補足しておきます。
アレックス側の視点がかなり強烈でしたが、カミーユ班の面々もかなり魅力的に描かれていました。
低身長でハゲで傷だらけのカミーユを筆頭に、お坊ちゃまだけどしっかりもののルイ、超ケチだけど良いやつのアルマン、カミーユと一番付き合いの長い上司のル・グエンなど、それぞれの特徴が生かされた会話や行動など、読んでいてとても楽しかったです。
第三部の尋問などは、緊張感もありつつ、同時に緩和もあるので、吹き出してしまうようなユーモアの効いた会話もありました。いつの間にか三人のチームワークも好きになっていってる自分がいるんですよね。
だからこそ最後の短いエピローグも、すごく良かったかなと。
今回カミーユは、母との呪縛のようなものと、妻を亡くした悲しみにも向き合っていましたが、シリーズものなので今後どのようになっていくのか気になりますね。
個人的にもネタバレくらっていますけど、『悲しみのイレーヌ』から読んでみたくもなりました。
分厚めの長編なのですが、その理由の一つに、描写がわりと細部まで丁寧に書き込まれています。
人によっては骨太っぽくて苦手に感じるかもしれません。
しかし三部作の中にある章間が短く、視点変更の切り替わりが多いので、それが展開のスピーディーさに繋がっており、その辺りも上手く計算されているのか?分かりませんが読みやすかったです。
他にもまだ書き忘れているような感じもするのですが、今日はぼちぼちこの辺で。
最後までお読み頂き、ありがとうございました。
ぜひ未読で気になった方は読んでみてください。ミステリ、サスペンスが好きな方は特にオススメできます。
翻訳は橘明美さんです。
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