ひと【あらすじネタバレ感想】人の優しさとは何なのか

あらすじ

女手ひとつで僕を東京の私大に進ませてくれた母が、急死した。
僕、柏木聖輔は二十歳の秋、たった独りになった。大学は中退を選び、就職先のあてもない。
そんなある日、空腹に負けて吸い寄せられた砂町銀座商店街の惣菜屋で、最後に残った五十円のコロッケを見知らぬお婆さんに譲ったことから、不思議な縁が生まれていく。
本屋大賞から生まれたベストセラー、待望の文庫化。

(祥伝社より)

感想・レビュー

第十六回(2019)本屋大賞第二位ノミネート

小野寺史宜さんは初読みになります。

まず本作を読んだ所感としては、普通に良い話でしたけど、思うところもあるかなっていう感じでしょうか。

日常的なドラマで見せるような感じで、読んでいて全体から「健全」という言葉が作品から滲み出るような、好きな人は好きなんだろうなぁと思いながら読んでいました。

言い方悪いんですけど、現代のBPOを気にしすぎたテレビみたいな、虚しさも同時に感じてしまったんですよね。

これは主人公の生真面目さがそうさせているんでしょうけど、そこが嫌に臭いなぁと思いました。

私的には、判断が難しいんですけど、やはり本作はそれ以上でもそれ以下でもない、という感じでしょうか。

孤独だからこそ、人の愛を知る、というのを描きたい気持ちも伝わってきましたし、リアルな日常も伝わってきました。

私が良いなと思ったのは、それを引き立てる一人称の文体だと思います。主人公の気弱な性格とすごく調和しているように感じました。

ですが、読み終えてから全体像を俯瞰的に見た時にまず思ったのは、果たしてこの「天涯孤独」というこの強力なギミックが本当に必要だったのかしら?とは思いましたね。

確かに、この天涯孤独がなければ、物語の全てが崩れてしまう。それほどまでに物語に結びついてはいたんですが、それがかえって気になってしまう部分を生んでしまったような気もするんですよね。

また最後辺りにその理由を書きます。

さて主人公は、20歳で天涯孤独の身になったところから始まります。

お金も気力も失っていた主人公は、大学を辞め、ふらふらと立ち寄った商店街の惣菜屋さんで店主にコロッケをまけてもらったところから、そこで働くことに。

ここから物語が動きだし、主人公の友人や職場の物語、料理人だった父親のルーツを辿る物語など魅力的な部分も多かったです。

ただ、ヒール役の金をせびってくる叔父さんが、物語の起伏をつけたいんでしょうけど、私的には少々わざとらしいなぁ、と少し物語世界から逸れてしまうような印象を受けました。

せっかく美しい自然があったのに、急にビルが入ってきたような、おそらく二人の「会話」の仕方だと思ってるんですけど、妙に焦りのような不自然さを感じました。

著者さんは、おそらく日常を切り取る能力がすごく高いので、悪を描くのはまた違った才能が求められますから、得意不得意ありますし、仕方無いのかなと思います。

あと一番気になったのは、主人公に関わる人たちの優しさの裏には、必ずといって両親を失くした自分より可哀想な子、という同情がある。

これも現実的にみても仕方無いですし、誰だってそうなると思います。ですがそれを人間の優しさとして描きたかったのか、とも感じてしまった自分もいます。

もちろん主人公は絵に書いたような良い人だということもわかるので、それなりに生きていけるだろう、と思います。ですが物語が良い方向に進むときの背景をよくよく考えてみたら、必ずといってほど両親の死への同情、哀れみが関わり補助しているんですよね。

そして本作のタイトルは「ひと」。

本当にこれで良かったのか、物語はそこそこ読ませる力があるのに、そこが私の本作の判断を鈍らせました。

ただやっぱり著者さんの一人称が、独特のリズム感を持っていて、それがすごい良かったんですよね。

ずっと失礼なことばっかり書いて申し訳ないんですけど、純文学とかで柔らかい文体に、鋭いお話とか書けたら、すごいいい感じになりそうな気もしました。

それでは、今日はこの辺で終わります。お疲れ様でした。

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