
あらすじ
二周目の人生は、十歳のクリスマスから始まった。全てをやり直す機会を与えられた僕だったけど、いくら考えても、やり直したいことなんて、何一つなかった。僕の望みは、
(メディアワークス文庫より)
「一周目の人生を、そっくりそのまま再現すること」だったんだ。
しかし、どんなに正確を期したつもりでも、物事は徐々にずれていく。幸せ過ぎた一周目の付けを払わされるかのように、僕は急速に落ちぶれていく。――そして十八歳の春、僕は「代役」と出会うんだ。変わり果てた二周目の僕の代わりに、一周目の僕を忠実に再現している「代役」と。
感想・レビュー
かなりお久しぶりの三秋さん。
今回読むのは、三秋さんのデビュー作ですね。
二周目の人生を十歳からやり直す「僕」。
そんな僕の一周目は、絵に描いたような幸せな人生を歩んでいたが、二周目はその真逆と言ってもいい人生を歩んでいく……という後の三秋さんの世界観にも通づるような感じの作品でした。
私は基本的に恋愛が絡む作品は、物語の筋が単調になりやすいのですが、この方の作品なら一枚も二枚も上の次元に連れて行ってくれるので、全然構わないと思ってしまうくらいの感性です。
この作品はある意味、世界の真理を描いているんですよね。
よく言われていることかと思いますが、人は出会い方(タイミング)や環境(場所)がもしも今と違っていたら、仲の良い奴は嫌いになっていたかもしれないし、嫌いな奴を好きになっていたかもしれない。
私たちは生まれる時間、場所が違えば、誰にだってなってしまう。
あの歴史の善人にも、悪人にも。その者と同じような環境で育てばそうなってしまう。
そもそも善人、悪人なんているのか?、という問いかけを見事に物語へと消化されていて、本当に素晴らしい作品だったと思います。
それは自分にも当てはまるし、作中ではそれを見事に体現していましたね。
ということでまず読んで改めて思ったのは、才能の塊。
本当に一作一作いい意味で展開を裏切ってくれて、そして面白さを裏切らない貴重な作家さんだなぁと改めて感じました。
今まで三秋作品を数作読んできて、この方の小説には、毎回感性を吐き出して物語(エンタメ)に融合させる力量が凄まじいなぁとは思っていましたが、やはり現代作家の中でも少し桁違いです。
もちろん、努力や技術などもあるのだと思いますが、本作で確信に変わりました。
間違いなくこの人にしか書けない作品を書いています。
今でも売れている作家さんなんでしょうけど、正直、もっともっと売れていい小説家の一人ではないでしょうか。
褒めすぎるのもあれなのですが、いい作品はとことん褒めるのが私のスタイルなので書かせてもらいますと、この方は現代の文学と言ってもいい感性の捉え方ができる作家さんですね。
構成もシンプルだけど綺麗に纏まっていて、とても良いタイミングで伏線が回収ができる、そのリズム感も素晴らしい。
作中の雰囲気も、もし村上春樹がエンタメ全盛期の出版業界の平成に生まれていたらこんな感じだったのかなぁなんて思わせてくれる独特の雰囲気を纏まっていますね。笑
また別作品も機会があれば読んでみたいですね。
それでは今日はこの辺で、お疲れ様でした。