あらすじ
灰と混沌の迷宮都市『灰色の隣人(グレイ・ネイバー)』。
数多のモンスターと財宝を孕むダンジョンの鮮烈な灯りの影には、必ず害虫が潜む。そんな掃き溜めに咲く汚れなき深紅の花が姫騎士・アルウィン。王国再興を志し秘宝を求めるダンジョン攻略の急先鋒――そして彼女に集る元冒険者・マシューは、この街に数いる害虫の一人だ。
仕事もせず喧嘩も弱い腰抜け、もらった小遣いを酒と博打で浪費するクズ、そう人は罵る。――しかし、彼の本当の姿を知る者はこの街にはいない。
「お前は俺の飼い主(おひめさま)の害になる――だから殺す」
「おい、てめぇ! ただの腰抜けじゃ……ッ!」
「内緒にしてくれよ。俺たちみたいな害虫が何をしているかなんて、彼女は知らなくていいんだ」――彼は自らの手を汚すことを厭わない。
「マシュー、お前は私にとって大切な命綱だ」
「君が必要とする限り、俺はこの手を離さない。言っただろ。俺は君の『ヒモ』だって」――全ては姫騎士様のために。
選考会騒然! エンタメノベルの新境地をこじ開ける、衝撃の異世界ノワール!
(電撃文庫より)
感想・レビュー
第28回電撃小説大賞《大賞》受賞作
今年も電撃大賞読むぞ…って思ったらもう第29回が発表されてしまったという…
購入してから長らく積読していましたが、ようやく読了致しました。
まず読後の所感としては、いやぁ正直びっくりしました。そしてかなり面白かった。これは電撃大賞の新時代到来ですよ。
まさに衝撃の異世界ノワールなんですけど、これはやばいっすね。笑
近年は「大賞」以外あまり読めていませんが、それなりに過去の電撃大賞作を読んできました。その中でも一番と言っても過言ではないくらいえげつない世界観だったと思います。
何が一番やばいかって、作風やタイトルからヤバさが滲み出る「今からやばいのいくよ〜」って作品とかは稀にあるんですけど、本作はタイトル的にも全然そうじゃないんですよ。笑
本当にしれっと主人公が生生しく人を殺したり、ヒロインが薬物中毒者だったり、ほんとにふわっとした感じから急にヤバさが発動するんですよ。笑
でその内容がもうティーンズ対象ではないヤバさなんですよね。笑
そういった緩急を作り出す雰囲気は、それもこれも主人公の「減らず口」の一人称がそうさせているんでしょうけど、この軽快な一人称も作風のバランス感覚を保たせるのにとてもハマっていますし、上手いなと思いました。
大まかな異世界設定などもそれなりに練られていますし、個人的には太陽信仰を扱ったインカ帝国のような宗教体制や、現代のような麻薬関連を扱ったりするのがとても良かったですね。
主人公がハンデを背負った最強系で、王道かと思いきや、まるで違うという。全てはこの世界観にあるのかなと。
まさに【現実世界を舞台にしたノワール劇の異世界版】です。
あと個人的には、異世界ものでは絶対に死なないであろう立ち位置にいる美人ギルド職員・ヴァネッサを終盤で、しかも主人公が殺した時は本当に腰抜かしましたね。
まじか…って声出ました。笑)そしてその理由がまた凄まじくラノベじゃないんですよ。笑
二十代半ばとかの私は「なになに、今年の電撃大賞も良いやん、良いやん」とテンション上がりながら読んでいたんですけど、本当にこれライトノベルとしては大丈夫なんですか?笑
間違いなくレベルは高いんですけど、よく本作を「大賞」まで推し上げたな、と少し驚いています。編集部事情的にめっちゃくちゃ揉めたんじゃないですかね。笑)
おそらく数年前の電撃大賞なら、カテゴリーエラーとかで良いところまでいくけど、最終的に弾かれていてもおかしくないと思います。
そう思えば電撃大賞も変わってきてるのかもしれませんね。確かに、SAO世代で急激に増えたであろう私のような読者が、もう大人になっているのも事実だと思います。
あとこれだけは確かだと本作で実感したんですけど、間違いなくここ数年の電撃大賞の大賞受賞作のレベルが段違いに上がっていると思います。
去年の大賞受賞作の「ユア・フォルマ」といい、びっくりしてます。本作も胸を張ってオススメできすね。
まだ未読の方は、是非一度読んでみてはいかがでしょうか。ただし、未成年の方(ラノベ本来のターゲット層)は、少し覚悟して読んだ方がいいかもしれないと、忠告しておきます。笑
それでは今日はここまで。ありがとうございました。
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