あらすじ
逃避でも依存でもない、推しは私の背骨だ。アイドル上野真幸を”解釈”することに心血を注ぐあかり。ある日突然、推しが炎上し――。デビュー作『かか』が第33回三島賞受賞。21歳、圧巻の第二作。
(河出書房新社より)
感想・レビュー
第164回芥川賞受賞作。第十八回本屋大賞9位ノミネート。
宇佐美さん初読みになります。とても若いですね。
大学生で文藝賞から次作で芥川賞のルートっていうのは綿矢りささんや、その世代を想起させますが、才能は間違いないです。
そして前回の遠野遥さんに続き、二十代の連続受賞は本当に新時代の始まりなのかもしれません。
さっそく書き出しの「推しが燃えた。ファンを殴ったらしい」という一文はすごく印象的。
前半はどうかなという感じもしたけど、気づけば笑っていました。
推しに人生を重ねる女子高生がついに中退し、やがてアルバイトも辞め、家族にも見放されかける。
そして最後は推しが芸能活動すら辞めるというオタクにとって一番考えたくもない恐ろしい結末になるのだが、この流れが古典的でかつ現代的なものに落とし込まれていて新時代を思わせます。
最後の綿棒を床に叩きつけて、拾う終わり方は推しの遺骨的な比喩表現か。この圧倒的な虚無感の表現は素晴らしいものを書いているなと思えましたね。
もしそこまで計算されているのなら、いやきっとされているからの受賞なのでしょう。
本作は題材とは裏腹に、むしろ題材全体をミスリードに使った、計算されたとても完成度の高い作品かなと個人的には高く評価しました。
もしかしたら若者ではない方には、おそらく時代背景が違い過ぎてこの推しに依存しすぎる虚無感というのは、全く共感、理解できない新たな感覚なんでしょうけど、まぁ若い方には大なり小なりこの感覚は理解できるのではないでしょうか。
今回は題材がアイドルでしたが、別にこれがゲームとかもっと他のモノでも良いんですよね。
選考委員の方々は、この作品を選べたという点に関しては、将来的な純文学の感性として良い傾向なのではないかと思います。
やはり古い感性が悪いとはいいませんが、進展がないままでは純文学がただの年寄だけ娯楽になってしまいますからね。
また作中の背骨だったり、インスタ待機、父親おっさんドルオタSNSなど文章から著者の色が見えて楽しめました。
是非とも今後も頑張って欲しい作家さんですね。
今日はこの辺でおわります。
お読み頂きありがとうございました。