
あらすじ(上巻)
1000年後の日本。豊かな自然に抱かれた集落、神栖66町には純粋無垢な子どもたちの歓声が響く。
周囲を注連縄で囲まれたこの町には、外から穢れが侵入することはない。
「神の力(念動力)」を得るに至った人類が手にした平和。
念動力(サイコキネシス)の技を磨く子どもたちは野心と希望に燃えていた……隠された先史文明の一端を知るまでは。
(講談社より)
感想・レビュー(上巻)
このミステリーがすごい!《2009年》第5位、第六回本屋大賞【2009年】第6位
貴志祐介さんは「クリムゾンの迷宮」以来で、個人的にはかなりお久しぶりです。
あらすじからとても興味の惹かれる感じではあるので、いつか読みたいと思っていました。
さて、まず上巻を読んだ所感としては、冒頭から中盤まで「第一章・若葉の季節」が結構退屈でどうかなと思っていたのですが「第二章・夏闇(前半)」から物語が動き出しいきそれなりに楽しめたかなと。
ただ、無駄に思える冗長な展開や描写が多いようにも感じました。
著者さんが多様な知識に明るいのは「クリムゾンの迷宮」でも感じていましたし、本作でも存分に発揮されているとは思うのですが、それにしても「その描写いるか」と思ってしまう程、頁数のわりに第一部での物語が中々動かないんですよね。笑
まだ物語が前半なので伏線回収含めて言い切ることが出来ませんが、もう少しシャープに出来なかったのかなとも感じました。
ですがまぁ、オリジナリティのある世界観設定なのと第二部での回収も含めて、ここはもう少し様子を見たいと思います。
物語は1000年後の日本という、壮大な世界観で物語は幕を開けます。
神栖66町の町民たちは、八丁標(はっちょうじめ)と呼ばれる注連縄に守られていた。町民たちは、その八丁標の外には絶対出ては行けないと言われている。
そんな神栖66町の一人である主人公の「渡辺早季」たちを含めた小学生は、ある日「サイコキネシス」に目覚めます。
サイコキネシスに目覚めた者から小学校を卒業し「全人学級」と呼ばれる能力を育成する学校に通います。
そこから早季たちは、八丁標の外に出ることがあり、外の世界を徐々に知っていき、命の危機が何度も訪れ…と大雑把にはこんな感じです。
とにかく世界観が細部までしっかりと作り込まれていて、奇妙さもあり、謎も深く、面白いです。
1000年後の日本では、あらゆる過去の歴史が謎にされていて、まだその理由や過程、歴史などは、はっきりと明かされてはいません。
ですが、途中で少しずつ分かっていく辺りのシーンは、捲る頁が止まりませんでした。
人類学の観点から語られ、それを物語に落とし込んでいたのも面白かったです。
出てくる動物も奇妙で、とにかく謎が解明されることを待ちたいと思います。
サイコキネシスに関しても、正直チート無双展開になってもおかしくない人間の能力なのですが、途中で主人公たちから取り上げたりと、緊張感が高まる展開の作り方など、流石だなぁと。
ただ、結局主人公たちの行動目的の終着点がまだ何も見えないので、その辺りが中巻以降どうなるのか気になるところです。
とても分厚い長編なので、ゆっくりと読み進めていこうかなと思います。
では引き続き中巻へ参ります。
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あらすじ(中巻)
町の外に出てはならない――禁を犯した子どもたちに倫理委員会の手が伸びる。
記憶を操り、危険な兆候を見せた子どもを排除することで実現した見せかけの安定。
外界で繁栄するグロテスクな生物の正体と、空恐ろしい伝説の真意が明らかにされるとき、「神の力」が孕む底なしの暗黒が暴れ狂いだそうとしていた。
(講談社より)
感想・レビュー(中巻)
中巻も読了。
「第二章・夏闇(後半)」「第三章・深秋」「第四章・冬の遠雷」と相変わらずボリュームのある本作。
まず読了後の所感としては、素直に面白かったです。
物語が常に動くような展開になっていき、次が気になり頁がスラスラとめくれたかなと。
ある程度、読者としてもこの特異な世界観にも慣れてきたところもあるかもしれませんが。
物語は、主人公の早季と覚がようやく仲間たちと合流します。
上巻で早季たちは、呪力を失い、覚だけ取り戻しましたが、ひとまず何とか神栖に生還し、のちに呪力を自力で取り戻しました。
生還してからまた日常の学生生活がはじまるのですが、なんと「瞬」が業魔化してしまい、いなくなってしまいます。
ここら辺りから、この八丁標の中の世界が、異様なものにより感じてきました。
物語の節々に「虫」が存在し、他にも不浄猫、バケネズミコロニーや八丁票の外の世界観など、より奇妙ではありますが、本当に不思議な世界観ですよね。
要らない生徒は、処分される。でもそれには1000年後の日本なりの理由があり、それらも少しずつ明かされてきました。
最後の章で守が処分から逃亡し、ついでに真理亜もともに消えてしまいました。そして覚と早季が結ばれる…というところで幕を下ろしました。
本作では早季がレズ行為をしたり、瞬を好きになったり、覚と性行為したり…と一見、随分ハレンチな感じもしますが、
「1000年後の日本」「書物、知識の管理化」そして「親と全人学級だけで育つ超閉鎖空間」という考え方でみると、普通なのかもしれませんね。
さらに全人学級一班のメンバーたちは、本来の洗脳教育に対してあえて緩めに設定されていた…という国家を守るプロジェクトでもあったことなども明かされました。
たしか上巻でも書かれていた「真理亜」のせいでみんながいなくなった…的なことも書かれていたような気もしますので、今後どうなるのか気になりますね。
といっても、気づけばもう覚と早季しかいませんが。笑
あとこれは上巻を読んだ時にも感じましたが、物語が最終的にどこに向かっているのか本当に分からないですね。
ひとまず分かっていることは、この物語は早季の一人称であり、回想であるということ。
そして中巻で、早季が今後、この神栖を指導していく立場になる可能性が高いということ。
ということで物語はどういう結末を迎えるのか気になりますので、さっそく最終巻を読みたいと思います。
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あらすじ(下巻)
夏祭りの夜に起きた大殺戮。
悲鳴と嗚咽に包まれた町を後にして、選ばれし者は目的の地へと急ぐ。
それが何よりも残酷であろうとも、真実に近付くために。
流血で塗り固められた大地の上でもなお、人類は生き抜かなければならない。
構想30年、想像力の限りを尽くして描かれた五感と魂を揺さぶる記念碑的大傑作!
PLAYBOYミステリー大賞2008年 第1位、ベストSF2008(国内篇)
(講談社より)
感想・レビュー(下巻)
ようやく下巻も読了しました。
まず読了後の所感としては、素直になるほどなぁ、と感心した気持ちが残りました。
何よりこのオリジナリティ感じるスケールが広がっていく世界観がそう思わせたのかもしれません。
最後まで面白さもそこそこ維持していたかと思います。
最終巻では「第五章・劫火」「第六章・闇に燃えし篝火は」の二部で物語が幕を閉じました。
さて前回は、瞬が悪鬼となりいなくなり、真理亜と守が八丁標の外から永遠に帰ってこないことがわかり、早季と覚だけが残って終わっていました。
おそらく中巻から10年後くらいの月日が流れているかと思われます。
早季は20歳で全人学級を卒業してから、その後就職してから6年目、26歳となっていることが語られます。
そこからついに前半でも書かれていた、地獄の夏が到来します。
悪鬼を連れたバケネズミたちが、人間に牙を剥いたのです。
村でも最強と謳われていた鏑木肆星などが殺されてしまい、この逆襲によって多くの村の人間が非業の死を遂げます。
その後早季と覚たちは、母に貰ったミノシロモドキと、バケネズミの奇狼丸にも力を借り、悪鬼を唯一倒せる兵器があるかもしれない東京へ行きます。
23区メトロの名残が残る東京では、とんでもない生態系をしており、読みながら本当に気持ち悪すぎました。笑
しかし、著者の動植物の知識の下敷きがあってこその進化系統動植物というのもあって、個人的にはオリジナリティがあってとても良いなとも思えました。
やがて早季たちは、仲間の死を乗り越えながらようやく兵器を見つけます。
その後、悪鬼とバケネズミたちから逃走劇がはじまり、絶体絶命の危機を何度も迎え、そして戦闘があり、クライマックスといった感じです。
最終的に悪鬼を攻略し、敵のバケネズミ大将を捕獲しました。
この辺りの「呪力」や「愧死機構」のメカニズムなど、設定がとても生きていて良かったです。
ここでついに悪鬼の正体が判明するのですが、どうやら早季によるとあの真理亜と守の子だとか。
二人はバケネズミたちに殺され、その子供はバケネズミに育てられ悪鬼へとなってしまった…
しかしその子供本人は、自分をバケネズミだと思っていたというのが分かるのですが、そもそもの話、早季はどうして悪鬼の正体は真理亜と守の子供だと断定できたのでしょうか。
確かに物語的には、接点があるキャラクターを使うのは分かるのですが、バケネズミに誘拐された子供は他にもいるみたいですし、その断定証拠はなく、この辺りは早季の決めつけにすぎず、ご都合とも感じてしまい少し残念ではありました。
最後にエピローグで、敵の大将が特例で裁判にかけられ「私たちは、人間だ!」と言い残すシーンがあるのですが、このシーンはすごく魅力的でした。
彼らバケネズミたちの祖先が、1000年前に生きていた旧人類(ホモ・サピエンス)と同じ遺伝子数であると分かったり、新人類たちのPK使いが遺伝子操作したことなど。
勝者であるPK使いの辿った歴史なども非常に面白かったです。
この悲しい事件を乗り越えて、早季は町を指導する立場になりました。
今まで典型的な鳥かごの中の鳥だった早季ですが、以前よりも善悪に疑問性を深く考えこむようになり、読者にも問いかけてくるような内容でもありました。
そして早季と覚は結婚し、子供も生まれます。早季は、男だったら「瞬、」女だったら「真理亜」にすると言っていましたが、友達の名前をつけるのはどうなのよとは思いましたが。笑
これからの神栖66町は、今までほとんど関わりのなかった全国にある9つの町とも連携をとり、復興していき…その事実を記した早季の手記を1000年持つといわれる紙(和紙?)をタイムカプセルに埋めて…という流れで物語が幕を閉じました。
ここまで世界観が確率されているのなら、ここから続編を作ることも可能な気もしますが、今のところはないようです。
そしてタイトルにある「新世界より」の意味は、ドヴォルザークの交響曲からきていることも判明しました。
作中では第2楽章である『家路』が描かれており、昭和のレトロさもありました。まぁ1000年後の日本ではありますが。笑
あとは作中でも結構、日本神話や仏教の用語が練り込まれた世界観であったり、動植物の進化体系、その知識の豊富さなど、本当に凄かったかなと思います。
ただ、分かっていたとはいえ、瞬と真理亜や守など、前半で描いた人物がもっと躍動している姿が見たかったのが本音でもありますけどね。笑
まとめ
はい、ということでいかがでしたでしょうか。
いま上巻の序盤の数ページをパラパラ読み返しているのですが、この洗脳された世界というのは、やはり異質だったなと。
全体通して、疑問を感じる部分も多少あるのですが、物語もそこそこ楽しめて、世界観がすごく魅力的だった本作かなと思いました。
物語の展開的には、手記というスタイルをとっているせいか、離脱を防ぐ為の作者の工夫かは分かりませんが、「このあと〇〇なことになるとは…」的な引きが何度もしつこいくらいあるのですが、
その引きのわりには、そんなにヤバい展開でもなく、肩透かしを食らう場面が多々あって、そこが少し勿体ないなぁとも感じました。普通に語ればいいのになぁと。
というよりも構想30年ってやばいですね…四百字詰め原稿用紙2000枚とかになるらしいのですが、そりゃ分厚いわけだ。笑
解説はいつもよくみかける大森望さんで、そこで書かれていてわかったのですが、やはり序盤の無駄な部分や話が中々進まない展開は、著者さんが意識的に書かれていたそうです。
昔のSFを意識したそうですが、本作は本当に世界の真実を知っていくSF、青春、ファンタジーからミステリーやホラーなど様々なジャンルが盛り込まれていたかなと。
まぁ構想30年ですから、これだけの世界観を創るのも、書き切るのも、とても難しかったとは思うのですが、その熱量は読んでいて感じ取れました。
それが作中のラスト一文に含まれていたような気もしますので、最後に引用させていただき終わりたいと思います。
長々と最後までお読みいただき、ありがとうございました。
想像力こそが、すべてを変える。
(新世界より)
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