あらすじ
不治の病を患う息子に最期のときが訪れつつあるとき、宮本拓実は妻に、20年以上前に出会った少年との想い出を語りはじめる。
どうしようもない若者だった拓実は、「トキオ」と名乗る少年と共に、謎を残して消えた恋人・千鶴の行方を追った――。
過去、現在、未来が交錯するベストセラー作家の集大成作品。
(講談社より)
感想・レビュー
またまた東野圭吾。
珍しくSF設定を入れてきたミステリーではありましたが、やはり面白かった。
SF要素を大雑把に書くと「若かりし頃の自分の前に未来の息子がやってきた…」という感じでしたが、なるほど、東野圭吾が料理するとこういう味になるのか、と感心しました。
東野圭吾作品のうち、SF的要素を交えた作品を読んだのは『超・殺人事件―推理作家の苦悩』という短編集のとある一編でしたが、本作は長編。
それに私が読んだ文庫本の帯には、下記の様なことが書かれていてとても気になっていました。
宮本拓実、23歳。職ナシ、金ナシ。
「この主人公は俺 バカなところが俺 夢もバカなところが俺」 東野圭吾
(講談社より)
そしてその主人公がとんでもない「バカ」というか、めっちゃくちゃ子供なんですよね。笑
本当に著者自身なのか、その真偽は本人しかわかりませんが、ますますエッセイを読んでみたくなりましたね。
さて、物語はそんな「バカ」な主人公・宮本拓実とその妻の悲劇的なシーンからはじまります。
二人の息子である「時生(トキオ)」が、母型の呪われた遺伝的性質の影響で、まもなく死亡するとのこと。
そんな悲しみに打たれていた二人ではありましたが、夫の宮本拓実は、長年隠し続けてきたとある秘密を妻に打ちあけます。
「俺はずっと昔、トキオ(息子)に会っているんだ」云々……「はっ?」となる展開ですが、そこから若かりし頃の宮本拓実の話がはじまりました。
この時の彼とは全く別人のような、バカな奴がふてくされて生きているのですが、その前に予言通り、「トキオ」と名乗る人物が現れます。
ここから二人はとある事件に巻き込まれ、拓実の元彼女である「千鶴」を追い、東京から名古屋、大阪と場所広げ、事件に呑み込まれいきます。
紆余曲折を得て、結果的に拓実は、一人の人間として成長し、トキオはこの世から消える…という。
読後の所感としては、文章の読みやすさは言うまでもなく、相変わらず構成が巧みなことで、もう本当に上手い。これに尽きます。
主人公がバカすぎて、読んでいて多少腹が立ってくることもありましたが、それよりも事件の真相を早く知りたい、という構成が個人的には勝り、気にさせない。
著者の地元大阪(生野区)の描写は相変わらずな腕前ですが、人物像や当時の環境下などは80年代前ということで、私にとってこの時代は何度読んでも新鮮で面白い。
人によっては懐かしいとなるのかもしれませんが。
動機や真相も東野圭吾っぽいなぁと思いつつ、今や総務省、事業の一つになった郵政省など、時代性を感じるものもありました。
過去、現在、未来という時間軸の使い方も構成力で賄っており、ミステリ的解決、さらにプラスアルファのSF的展開でもって、物語をきっちりと閉じる。
流石としか言いようのない感じでしたね。多少、雑に見受けられる部分もあったように思えますが、全体の完成度がそれを超えてきたかな、と個人的には思えました。
それにしても、未来の息子に若かりし頃の自分を見られるって、変な気持ちですね。笑
特にこの主人公みたいに、ギャップの激しい成長を遂げている場合は特に。まぁ珍しいことでもない気もしますが。
息子のトキオの方が断然大人でしたね。
でもこの凸凹コンビといいますか、それが作品を面白くもしていました。あとは大阪の竹美と黒人のジェシー他、登場人物もみな魅力的でした。
では今日はこの辺りで終わます。お読みいただき、ありがとうございました。