あらすじ
田舎の県立高校。バレー部の頼れるキャプテン・桐島が、理由も告げずに突然部活をやめた。そこから、周囲の高校生たちの学校生活に小さな波紋が広がっていく。バレー部の補欠・風助、ブラスバンド部・亜矢、映画部・涼也、ソフト部・実果、野球部ユーレイ部員・宏樹。部活も校内での立場も全く違う5人それぞれに起こった変化とは…?瑞々しい筆致で描かれる、17歳のリアルな青春群像。第22回小説すばる新人賞受賞作。
(集英社より)
感想・レビュー
第22回小説すばる新人賞受賞作
朝井リョウさんデビュー作です。当時は19歳だったとか。
デビュー作にしてヒット作品になりましたが、タイトルも現代的で、その内容もまさに現代的な高校を描いていました。
2012年初版発売なので、多分、私が学生時代とかで、クラスの雰囲気とかはすごくリンクするものがありました。
どんな人におすすめ?
基本的に誰にでも勧められるような気がしています。
学生時代は誰にでもありますし、現代の学生にも読んで欲しいし、逆に年配の人が読んだらそれはそれで新鮮さや、もどかしさもあるかなと思います。
思春期の男女って普遍的なところも必ずあるので、そういった意味でも誰でも読める内容かと思います。敷いていうならば「青春もの」とか「学生・高校生」の話が読みたいと思っている人にピッタリですね。
さて内容は6つの短編と解説、文庫本化につき+1短編が収録されていました。
連作短編という形で繰り広げられる田舎の高校を舞台にして物語。
「菊池宏樹」「小泉風助」「沢島亜矢」「前田涼也」「宮部実果」「菊池宏樹」+「東原かすみ〜14歳」という流れ。
サクッと一つ一つの短編を振り返っていきます。
「菊池宏樹」
この冒頭は数ページだけで、野球部をサボり続ける男子高校生の独白。後の短編でまたやってきます。初見では正直意味は不明というか、雰囲気で読み進めましたが、後にシーンと合致するので理解できるようになります。
「小泉風助」
実質的な物語第一部。バレー部補欠である小泉風助はリベロを守る一人。突如、キャプテンの桐島が部活を辞めたことによって試合に出れるようになりますが、その嬉しさと、その裏に隠されたチーム事情が実に青春的な歪みを抱えていました。
風助の自己の葛藤も面白いんですけど、一つびっくりしたのが、その例の「桐島」が一度も出てこないんですよ。もう先に言っておくと後の短編でも「桐島」の名は出てくるんですが、彼は一度も出てきません。
この切り口というか「桐島」がバレー部を辞めたことによって、全体の物語に微妙に、間接的に変化していくスタイルが「ははぁ」と思わされましたね。
まぁ話を戻すと、風助はそれでも自己の現実と向き合い、前を向く流れでおわります。葛藤のする理由も、悩める高校生ならではの純真な心というか、見ていて眩しさすらありました。
「沢島亜矢」
これも女子高生の一人称。ブラスバンド部の部長さんが、クラスの「上」グループの男に恋する話。またこれもよく描かれていて、ずっと遠くから見ているだけの甘酸っぱさすら感じる。
この恋は相手が彼女いるとかで、成就することはありませんが、女子高生が読んだらどんな捉え方をするのか気になりましたね。まぁ人それぞれってことが伺えますが。
結果的に、この時系列に出てくる他の生徒の行動などが他の話とリンクするので後になるほどとなります。
「前田涼也」
ここも面白かった。現代の言葉ならザ「陰キャ」。作中なら「下」の男子高校生の話。
映画部の彼はある日自分たちで自作した映画甲子園で特別賞をとることから物語が始まるます。
「上」との距離感や自分との違いを独白で描き、だが映画が大好きな少年とでもいうのか。
彼には同じ「下」であり、部メンバーの「武文」がいる。
彼にとって映画は生きる血みたいなもので、それが全身の支えなのですが、それもまた高校生。学生ならではの悩みを抱えている。
それが独白のなかで何度も出てくる「かすみ」という女子生徒。彼女との関わりは、中学生時代であり、かつて映画好きの仲良しで恋した女子。
現在は疎遠状態というか「かすみ」は多分「上」の人間?なのかしら。独白によると。
結局「かすみ」にもう一度話しかけようと前向きな流れで終わります。
この「かすみ」が前田のフィルターを通した一人称なので、すごく魅力的に見えるし、是非とも彼女の話を読みたいなぁと思ってしまいましら文庫版で特別収録されていました。笑
「宮部実果」
これも毛色が違って面白かったなぁ。ソフトボール部の女子生徒、実果を描く。メインは彼女の実家にありますが、その義理の母親は娘の実果を「カオリ」と呼ぶ。
なんか怖いなぁと思いつつ、その謎が徐々に明かされ、その過程で実果の精神の揺らぎや、乱れがすごく読まされる。
終わってみたらエンタメ的なベタな話だったかしらとも感じましたが、終盤なんかは少しうるっときましたね。
この辺ですでに色々な短編とリンクしているので、関心します。
「菊池宏樹」
では本来の新人賞のトリですね。
冒頭の独白から帰ってきた野球部ユーレイ部員の「宏樹」は、自分や社会にふつふつとした怒りを覚えていた。
宏樹は完全に「上(陽キャ)」の人間で、一見、どこでも器用さをもって生きられるタイプ見えるし、実際生きられるものなのですが、実はこういうタイプが一番内面の不器用さを持っている。
すごく現代的な感じもしましたし、個人的に一番私とリンクしたかなぁ。別に似ている訳ではありませんが。笑
彼にとっては「上」も「下」も本当のところ多分どうでもいいのだと思います。でも彼は「上」に酔っているというか「上」の素質があるからそれに分類されるし、それに適応できてしまう。
だが彼は学生特有の表面的な「上」「下」にさほどの意味がないことを知っているせいか、その自分の内面の空っぽさに怒りを覚えている。
それ故に「下」の前田涼也に「光」という眩しさを感じていて、まぁ詳細は少し省きますが、最後は野球部に戻るということを示唆した終わり方で幕が閉じる。
これはすごく面白いなぁと思いましたね。解説でも似たようなことが書かれていましたが、こういう感性って普通、ある程度大人になって冷静に振り返ってからじゃないと書けない感情だと思うのですよ。
でも朝井さんこれ18歳とかそこらで書いてるんすよね?笑
いやぁ、達観といいますか、周囲を見通す目が恐ろしく鋭いし、素直にすごいですね。
「東原かすみ〜14歳」
おぉ、あの「かすみ」が読めるんだと思いつつ、文庫版特別収録の短編。
前田涼也との話というより、かすみのバトミントン部の話だったり、女子の思春期ならではの面倒くさいところを切り取った話。
これもよく書けているなぁと思いましたね。
自己が社会に飲まれるタイプの「美紀」に自己を大事にできる「友未」。
いじめられている友未を見捨てる美紀は最低に見えるが、彼女みたいな例は世の中湧いていると思う。
これは菊池宏樹のところでも書いてましたが、美紀みたいな人間はきっと大人になってそのままの価値観で生きていくのだろうと思う。
でも私はそれだけじゃないような気もしています。
もしかしたらどこかでちょっとしたきっかけで何かが彼女のような人間を変える、自己をかえりみるきっかけがあるかもしれない。
まぁ根底がそういう人間はずっと弱い可能性も高いので、防衛に必死でかえりみる余裕なんてないのかもしれませんが。
話を戻して最後にかすみが友未を見捨てなかったところは、ベタだけど感動しましたし、その流れで前田涼也と繋がる終わり方。
そこから高校では互いに疎遠状態になるのですが、本当にどうなるんだろう彼ら彼女らの未来はと思わされる所が多いですね。
まとめ
結局、タイトルの「桐島」くんは一度も出てきませんでしたが、彼はどういういった人物なのか、なぜ一度も出てこなかったのか。
非常に興味がありますが、小説にもこんなやり方まだあるのだなぁと思い知らされた次第であります。
余談なのですが、この作品を読んでいてずっと懐かしさを感じていました。
それが多分ライトノベルの「やはり俺の青春ラブコメはまちがっている。」とすごく切り取られる内容というか青春的な感情が似ているんですよね。
こういう青春的なものを上手く書ける人は、ホントとことん上手いなぁと思いましたね。
長々と感想を書いてしまいましたが、それだけ魅力のある作品でした。
今日はこの辺で終わりたいと思います。お疲れ様でした。