あらすじ
僕の可愛いナオミちゃん お前を崇拝しているのだよ。
将来美人確実の家出娘に一目惚れし、同居生活にもちこんだ僕、譲治。洋服、食事、習い事。欲しがるものは何でも与え、一流の女に育てようとしたが…‥。
いつしか、あいつは僕を完全に支配下に置いていた。
独自の悪魔主義的作風が一気に頂点へきわまった傑作!
(新潮社より)
感想・レビュー
谷崎潤一郎は「細雪」以来ということで、かなりご無沙汰ですね。
細雪が内容、文章共々すごく良かったので、早く他の作品も読みたいなと思っていたのですが、中々機会がに恵まれず、ようやく手を出すことができました。
あらすじからして、何やらヤバそうな雰囲気がしてはいましたが、読んでみても概ねやばかったですね。笑
田山花袋の「蒲団」のような、というよりもっと長編なので深い闇を見たような、そんな気持ちです。
さてまず本作を読んだ所感としては、やはり谷崎潤一郎の作品は面白い、そしてキモい、という感じでしょうか。笑
まず本作の舞台は、西洋文化を強く取り入れはじめた大正時代という感じでしょうか。
主人公の河合譲治は、電気会社に勤める独身の青年。
会社では「君子」と呼ばれる程生真面目なサラリーマンであったが、ある日カフェで「ナオミ」という15歳の少女に惹かれ、色々とあって彼女を引き取ることに。
この当時のナオミは陰鬱さがありましたが、譲治には将来的に必ず美しく育つから是非とも自分の手でいい女に育て上げ、自分の女にしようという確信的な思いがありました。
もうこの時点で変な感じもするのですが、時代背景的に考えても今ほど変ではないかなと思いますけど、しいていうなら女中として雇ってないのが変かなと。
譲治は生真面目ですが、元々当時の結婚模様の面倒さに疑問を抱いており、ハイカラな西洋的思考を持ち合わせていて、この令和時代の思考に近いものを持っていました。
そしてナオミとの共同生活が始まり、序盤はとても平和な感じで、父と娘のような、友達のような関係性で、譲治が常にナオミを甘やかすような生活をしておりました。
ナオミも家庭の環境で女学校にも行けずでしたが、譲治のお陰で英語とピアノを習うことになります。
もう既にこの頃からナオミの裏の顔は出来上がりつつあったことが、後々わかりますが、まだ二人の関係は至って平和でした。
やがて二人の関係は、友達から夫婦となっていきます。この辺りからナオミは、益々女として美しくなり、更に西洋文化に惹かれ、譲治に目に余るような出来事が増えてきました。
というよりも読者はもうこの時点で、どんなけ甘やかすねん譲治ってなってるのですが、まぁほんとに絵にかいたような甘やかしっぷりで、ナオミは家のことも何一つできない我儘で横柄なお嬢様に育ちました。
こうして何度かの大事件を経て、ついに譲治はナオミと縁を切りますが、そのあとに譲治には大きな悲しみが襲いかかり、眠っていた内面が覚醒しマゾが極大化します。
最終的に譲治は、ナオミのほぼ奴隷といっても過言ではない状態で支配され、終わるのです。
という感じで、本作は男の内に眠る、ロリとエロと極限までのマゾを描いた作品でした。
いやなんていうか、私は呆れて笑ってしまうような感じだったのですが、ドキッとするような方も極稀にいそうな作品でしたね。
序盤の書き出しでは、このような文章から始まります。
私はこれから、あまり世間に類例がないだろうと思われる私達夫婦の間柄に就いて、出来るだけ正直に、ざっくばらんに、有りのままの事実を書いて見ようと思います。
(痴人の愛より)
そして最後にはこのような文章で終わります。
これを読んで、馬鹿ヶヶしいと思う人は笑って下さい。教訓になると思う人は、良い見せしめにして下さい。私自身は、ナオミに惚れているのですから、どう思われても仕方がありません。
(痴人の愛より)
流石にここまで支配されて喜びを感じられる男は、中々いないでしょうけど、大正時代ですらこれですから、やはりロリやマゾの類は、普遍的なモノだったということが現代において見ても証明されているような、改めて谷崎潤一郎のすごさを痛感しましたね。
いやそれにしても譲治が情けなすぎて、おいおいってなるんですけど、生真面目な人程何かに強く依存してしまうのは、本当なのでしょうね。
今思い返してみても、ナオミの「悪女」っぷりは相当なモノなのですが、どうしてこのように育ってしまったのか、もちろん甘やかしが原因の一端だとは思うのですが、あのカフェで出会った頃から内面ではもうそうだったのでしょうか。
ナオミの育った環境は「銘酒屋」といって正式に届けを出していない売春宿だったと、後半に判明するのですが、確かに作中でも両親や兄妹のナオミに対しての関心のなさ、というのもあったのかもしれません。
まぁそれでも本作の面白いなと思ったところは、普通これだけのことがあったら悲劇的な終わりような感じになると思うのですけど、最後は譲治本人が支配を受け容れて、開き直っていますから、ほな好きにしなはれ、という感じでしょうか。笑
未来的なことを考えるとやはり悲惨なような気もしますが、譲治はそうなればそうなる程覚醒するということも判明しましたので、ほっとくしかないですね。笑
一体母の死は、どこにいったのかしら。
それでは今日はこの辺で、さようなら。