あらすじ
平安時代。闇が闇として残り、人も、鬼も、もののけも、同じ都の暗がりの中に、時には同じ屋根の下に、息をひそめて一緒に住んでいた。
安倍清明は従四位下、大内裏の陰陽寮に属する陰陽師。死霊や生霊、鬼などの妖しのもの相手に、親友の源博雅と力を合わせ、この世ならぬ不可思議な難事件にいどみ、あざやかに解決する。
(文藝春秋より)
感想・レビュー
正月に実家で母親の本棚から頂いた一冊。
思い返せば子供の頃よく母親の本棚で「夢枕獏作品」も確かによく見かけたなぁ、と。当時はすごく難しそうなイメージを勝手に抱いておりましたが。笑
そんな懐かしい気持ちで読み始めました。
まず本作は「安倍晴明/陰陽師」大人気シリーズの第一巻ということで、いつもの所感としては、いやぁ面白い。素直に面白かったです。
母親曰く「めっちゃ面白い」と言っており、正直な話そこまで期待してなかったのですが、笑)予想以上に雰囲気が良く、物語も楽しめたかなと。
そして「玄象(げんじやう)といふ琵琶鬼(びはおに)のために盗らるること」「梔子の女(くちなしのひと)」「黒川主(くろかわぬし)」「蟇(ひき)」「鬼のみちゆき」「白比丘尼(しらびくに)」の短編六編が連作で収録されていました。
安倍晴明が主役ですので、時代背景は平安時代になります。
安倍晴明の名や逸話を知らない者は、日本では中々いないかもしれませんが、本作でもその片鱗が随所で描かれておりました。
そして相方となるのが源博雅(みなもとのひろまさ)という武士です。
本作を簡単に要約すると「鬼祓いミステリ」のような感じです。ミステリといっても事件や対象が幻想なので、軽い感じの現代で言うならライトミステリ?くらいです。
もう少しわかりやすく説明すると、安倍晴明がホームズで、源博雅がワトソンという役回りで物語が進行していきます。
基本的に一話毎に話が区切られており、どれも程々に面白いので優劣つけがたいのですが、強いて言うならば「黒川主」と「鬼のみちゆき」「白比丘尼」が良かったですかね。
どの短編にも何かしらの鬼や妖、霊が出てくるのですが、その原因だったり、それを晴明が解決していく手段が魅力的です。
相方の博雅との友情関係も読んでいて「なんか良いな」と思える関係性です。
二人は「ゆこう」「ゆこう」のようによく同じ言葉を繰り返すのですが、この感じも何ともいえない良さでしたね。こういう描き方というか、リズム感もいいですね。
安倍晴明の神秘的でかつ中性的な雰囲気と、源博雅の脳筋武士漢の感じがとてもいい具合にマッチしていました。
二人の晩酌シーンもすごく良く、晴明の式神や術を行使している所もこの時代の雰囲気にしか出せないものだったと思います。
基本的に天気が雨か雪で、鬼が出る時間なので夜がメインです。
あと文体は現代のネット小説くらい改行しており、初版発行時期は昭和なので、とても驚きました。
その情景描写もわかりやすいくらい情緒的なのですが、素直に上手かったと思います。
難しい文字を使わず、あえて自分の中で読みやすいを優先した句読点の打ち方なども伝わってきて、個人的に好感が持てる作家さんですね。昭和という時代背景を鑑みても。
まぁ会話文は平安時代というより、昭和小説のキャラクター感が強かったですが。笑
短編によって違いますが、今昔物語から物語を引っ張ってきたりもしていました。
後々、蘆屋道満なども出てくるらしいので、とても気になりますが、続編読めるかは今の所未定ですね。読みたい作品の一つであることは間違いありませんが。
ここからは余談ですが、あとがきもすごく面白くて、最後まで楽しめました。読んでいてニヤッとしてしまうような、文才です。エッセイとかあるのかしら。
個人的には夢枕獏作品はいつか機会があれば読みたい作家さんの一人だったので、今回改めて読めて良かったです。
なんか別の作品も読みたくなってしまう作家さんですね。
それでは今日はここまで。ありがとうございました。