風が強く吹いている【あらすじネタバレ感想】素人集団が箱根駅伝に挑む!?

あらすじ

箱根駅伝を走りたい――そんな灰二の想いが、天才ランナー走と出会って動き出す。

「駅伝」って何? 走るってどういうことなんだ?

十人の個性あふれるメンバーが、長距離を走ること(=生きること)に夢中で突き進む。自分の限界に挑戦し、ゴールを目指して襷を繋ぐことで、仲間と繋がっていく……風を感じて、走れ!

「速く」ではなく「強く」――純度100パーセントの疾走青春小説。

(新潮社より)

感想・レビュー

第四回(2007)本屋大賞第三位ノミネート

個人的に三浦しをんさんは「舟を編む」以来でかなりお久しぶりです。

まず読後の卒直な所感としては、大変面白かったです。

本書は文庫本で660頁とボリュームのある内容で、中盤辺りで中弛みを懸念しましたが、無用の長物で、読み終えた今としては、内容的に必要なボリュームだったかなとも感じています。

スポ根王道展開になるのは、読み始めてすぐに誰もが理解する内容なんですが、やっぱりちゃんと描ききった王道物語は普遍的な面白さだな、と改めて思わされましたね。

そして『箱根駅伝』というジャンル自体も私にとっては初でしたし、とても新鮮な気持ちで読めたのもこの王道路線の物語が易しく誘導してくれたのかなとも感じました。

さて、物語は今にも壊れそうな【竹青荘】というボロい寮に住む、10人大学生が唐突に箱根駅伝を目指しはじめます。

そのメンバーが「清瀬ハイジ、ユキ、走、ニコチャン、ジョージ、ジョータ、キング、ムサ、王子、神童

という感じで序盤から10人以上の登場人物が出てきて流石に困惑しかけるのですが、何とか個性を名前と結びつけて、あとは読んでいくとちょっとずつ分かってきます。

その個性もヘビースモーカー留年生、双子、クイズ番組ガチ勢、漫画オタク、勉学黒人留学生、司法試験合格した者などなど、様々な粒ぞろいのメンバーです。

これが貧乏大学生の日常コメディとかだったら、それなりに想像出来るんですが、これはスポーツ小説です。笑

ですが彼らの中には陸上経験者は清瀬と走、ニコチャンの3人しかいません。

序盤は大学入学前の走が、コンビニで万引きして逃げている所を清瀬が目撃して、自転車で追いかけるシーンで二人は出会います。笑

色々とあって走は、清瀬に竹青荘に連れられ、住むことに。

このシーンも今思えば別に万引きじゃなくても何か他の展開で良かったのでは?と思いましたが、まぁこの点は気になる人は気になるかもしれませんね。

私は面白さが最終的に勝ったので許容しましたが。

話戻しまして、そんな彼らの食事の世話などをする清瀬がある日「このメンバーで箱根駅伝を目指す」と言い出します。

駅伝どころか、殆どの人間が陸上未経験者ですから、今まで縁もゆかりもないことをするぞと言われ、困惑するメンバーたちでしたが、色々あってとにかく練習からはじめることに。

ここから彼らの猛特訓の日々、挫折など、青春の一年間を追いかけて、最後は箱根駅伝…という感じなんですが、私は駅伝について殆ど無知で、そんな私でもまぁ現実的には色々と難しい所があるのかもしれません。

ちょっとまだ他の方の感想を見れていないので、わかりませんが、この物語の奥底に眠る力強さの前には多くの方がそんなことあまり気にしないのかな?とも思える内容でした。

正直な話、駅伝のシーンまでは個人的にそこまで評価は高くないというか、三浦しをんさんっぽいコメディ感だなぁくらいでした。

ですが一番肝心の駅伝シーンがめっちゃくちゃ面白かった。ここが大きなポイントだったと思います。

この辺も初心者だからより楽しめたのかもしれませんが。

街や自然の情景描写もわかり易く、やはり売れている作家さんはこの辺りの筆力は流石です。

あとはシンプルにスポ根らしく熱い、熱かった!

孤独な天才の走、足に爆弾を背負った清瀬の走り、各メンバーの駅伝を走る内面描写はこの為のボリュームなんだなと納得しましたし、最後まで一気読みでした。

個人的に下り坂を走るユキが感じた走の疑似世界の表現も面白かったですし、走の走るとは何なのかを見つけていく過程から区間新記録まで、最後の清瀬の走りは、読んでいて捲る頁がとまりませんでした。

本当に王道な激強高校がいたり、嫌な他校の奴がいたり、マネージャー代わりのヒロインが出てきたり、最後は主将が死ぬ気で頑張ります。

何度も言って申し訳ないんですが、本当に王道なんです。笑

でも箱根駅伝という野球やサッカーのような多くのスポ根で扱われているジャンルではないのが個人的にまた嬉しかったです。

確かに、野球とか大人数スポーツって小説に向いてないから、個人や主要人物にスポットあて、掘っていくしかないんですけど、駅伝ってはじまったら個人で走るから、案外小説に向いてるんだなぁと思えました。

あとは少しだけ気になった点も。

本書は三人称一視点で描かれておりますが、走がメインでありつつ、他メンバーも一人称部分があり、多少の違和感は正直あります。

特に走に関しては、言語化が苦手の割に詩的な内面一人称描写が出てくるのは明らかに違和感です。

あとたぶんこれは女性作家さんなので、男独特の言葉の微妙な選択だったり、ニュアンスだったりがたまに女性らしく感じることもありますが、ほぼほぼ上手くやっていたかなと思います。

ただ著者の若さ(執筆当時)と、熱い気持ちが入るあまり、所々で詩的表現が多く、ハマっている所とそうでない所なども散見されました。

ですが解説によると、本作を三浦さんはデビュー時から並行して6年くらい執筆にかかったとのことで、面白さや熱量も含めるとこれも私的には許容範囲内かなとも思えました。

他作と並行してっていうのはたまに他作家さんの話でも聞きますけど、相変わらず小説家の方はすごいですね。笑

個人的な話をすると著者さんの「舟を編む」を読んですごく面白かったですし、技術的にも上手かったと思いますが、私は小説として粗さもあるけど、本作の方が圧倒的に好きかもしれません。

速くではなく、強く走る――のように本作のキャラクターたちではありませんが、この小説にはまさに上手くではなく、強く書く――のようなものを感じました。

個人的にはいつも正月にTVで垂れ流しているだけの箱根駅伝を、来年はちゃんと見てみたくなりました。

こういう新しい世界を見せくれるのも小説の良いところですね。

それでは今日はここまで。ありがとうございました。

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