あらすじ
汐留駅でトランク詰めの男の腐乱死体が発見され、荷物の送り主が溺死体となって見つかり、事件は呆気なく解決したかに思われた。だが、かつて思いを寄せた人からの依頼で九州へ駆けつけた鬼貫の前に青ずくめの男が出没し、アリバイの鉄の壁が立ち塞がる……。作者の事実上のデビューであり、戦後本格の出発点ともなった里程標的名作!
(東京創元社より)
感想・レビュー
鮎川哲也賞、本格ミステリといえば何かとこの鮎川哲也という名や、この「黒いトランク」をよく聞くなぁと思い、ついに読んでみました。
ちなみに鮎川哲也さんの実質的なデビュー作になるそうです。
なるほど、確かに本格だし、現代の本格と理詰めの仕方が一緒だ、というよりも元祖に近いのはこの作品のほうか。
ただですね、これは他の方の感想などでもよく書かれていたのですが、いかんせんトリックの時代感が、現代とは少し掛け離れていて(特に交通網などが)、何とか想像したりするのですが、線路の話は正直私のような二十代の人たちには完全受け身にならざる負えない。
まぁ単純に私が昭和の交通網に勉強不足な感じもあるですが。
だからこれは仕方ないのでしょうけど、読んでいて面白いけど、ミステリ的没入感がどうしても削がれる感じがして、完全にのめり込めない感じはありましたね。
ZトランクXトランクのくだりが非常にややこしい。笑
とはいえ、本作は現代でいう警察小説の形を作っているので、構成もよみやすく、話も面白かったです。
物語が二転三転していくところなんかも良いところ、というかよく考えられてる、いや考え過ぎなくらいですか。笑
あと医学生の日記もめっちゃ笑いましたね。それに個人的に最後のホームズ的な終わり方もかっこいいなぁ。
本文庫は長編以外にも、「書下ろし長編探偵小説全集(第十三巻当選作選考過程について)」という当時の新人賞的な選表が収録されていました。
その時の選考委員は「江戸川乱歩」「大下宇陀児」「木々高太郎」「角田喜久雄」「横溝正史」と名だたる作家たちです。
他にも鮎川哲也さんの「創作ノート」という今で言うあとがきのような随筆もあり、これも面白く読ませていただきました。
最後に解説鼎談「戦後本格の出発点」がありました。鼎談されたのは、有栖川有栖さん、北村薫さん、戸川安宣さんというこれまた名だたるメンバーたちです。
ただただオタクたちの会話で面白かったです。笑
どんな人におすすめ?
そうですね、推理小説、探偵小説しかり本格ミステリが好きな人や興味のある人は、もう既に読んでいるかもしれませんが、まだの人は是非一度ばかり通読してみても良いのではないかと思いました。
では本日はこの辺で終わりたいと思います。
最後に江戸川乱歩は、このように本作を推しているのでそのお言葉を引用させて頂き、本作を読む際の参考になればと思います。
お読みいただきありがとうございました。
本書は棺桶の移動がクロフツの「樽」を思い出させるが、しかし決して「樽」の焼き直しではない。むしろクロフツ派のプロットをもってクロフツその人に挑戦する意気ごみで書かれた力作である。
細部の計算がよく行き届いていて、論理に破綻がない。こういう綿密な論理の小説にこの上ない愛着を覚える読者も多い。クロフツ好きの人々は必ずこの作を歓迎するであろう。
(江戸川乱歩より)