あらすじ
森野夜が拾った一冊の手帳。そこには女性がさらわれ、山奥で切り刻まれていく過程が克明に記されていた。これは、最近騒がれている連続殺人犯の日記ではないのか。
もしも本物だとすれば、最新の犠牲者はまだ警察に発見されぬまま、犯行現場に立ちすくんでいるはずだ。
「彼女に会いにいかない?」と森野は「僕」を誘う…。
人間の残酷な面を覗きたがる悪趣味な若者たち―“GOTH”を描き第三回本格ミステリ大賞に輝いた、乙一の跳躍点というべき作品。
「夜」に焦点をあわせた短編三作を収録。
(KADOKAWAより)
感想・レビュー
第3回本格ミステリ大賞受賞、このミステリーがすごい!《2003年》第二位ノミネート
乙一さんは初読みになります。
そもそも本作は、著者のあとがき曰く、本格ミステリとは縁遠いライトノベルの雑誌に掲載されていたとか。
そこから本格ミステリ大賞まで受賞してしまう、というのはもちろん凄いことなのですが、確かに私も内容的に頷けるものでありました。
特に二章の「犬」は完全にやられましたね。読み返して、多少無理もあるような気もしましたが、それでもやっぱり良い仕掛けだったなぁと、楽しめました。
まず本作は「GOTH リストカット事件」で単行本化されたものを、上下巻でわけたものらしく、今巻は、「暗黒系」「犬」「記憶」の全3章でした。
どれも短編で連作式。一人称、たまに視点変更。
さて物語は、ちょっと変わった高校生たちの物語。
主人公の「僕」と森野夜は人の暗黒面に興味があり、感情が人より欠落している。
なので二人は必然的にわかり合える関係になり、高校生らしい仲良くという感じではないが、互いにありのままの会話が出来る。
第一章では二人が猟奇殺人に巻き込まれる。犯人までの道のりも論理的ではあるが、そこそこな感じでレベルが高いとはいえない。
第二章がすごかった。犬と小学生低学年くらい?の女の子の暮らしを使った猟奇的な叙述トリックだったのですが、最後の最後で久しぶりに「うわぁ」とつい声が出てしまいました。笑
最初は「犬」?の一人称かぁ。まぁいいかとおそらく読者は読み進めると思うのですが、行動も全部犬っぽいし、でも実は少女側だったというのは、鳥肌が立ちました。
確かに面白かったし、仕掛け方、発想の使い方も素晴らしいもので、ただ冒頭でも書いたのですが、所謂「犬」だと思っていた一人称が少女だったわけですが、少女は不登校らしく、明らかに一人称の「私」として文章の進め方が賢すぎるような感じもしたのです。
読み返してみて、なるほど、ここはこういう風に表現して錯覚させてるのか、やっぱり面白いなぁと思う反面、いやここは少し感情が年取り過ぎてないか?と多少疑問もありましたが、まぁ面白かったので全然オッケーですかね、私的には。
妹の桜ちゃんも健気さが可愛かったですね。この暗い作品だからこそ光る華になっていました。
第三章は森野夜の過去話を主人公が聞き、いつの間にか森野夜の本当の正体まで暴くというまた違った展開で、これはこれで、いい味出していて楽しめたと思います。
まさかの正体が妹の夕だった、という結末には驚きましたが。
全体的に所々で目を瞑りたくなるような話が多いのですが、まさに暗黒面、暗黒系といいますか、怖いものほどみたくなる人間の心理をついた話で、でも元来のラノベ調が敷居をいい感じに下げてくれているので、怖いシーンや残酷な、グロいシーンなんかもわりかし読めたかと思います。
確かにラノベだなぁと思えるキャラクターの作りをしていますが、トリックや世界観などは現実ベースなので、今ならギリライト文芸かな、という感じでしょうか。
乙一さんは、当時23歳で書いたらしく、本格ミステリという意図で書いたわけではないらしいですが。笑
逆に立派な才能だなぁと思いました。
サクッと読める点も、若い子にもオススメですね。怖いものが苦手な方を除いてですが。
それでは今日はこの辺で、お読みいただきありがとうございました。
合わせて読みたい
【歴代・全年度版】ミステリ界の頂点を決めろ!このミステリーがすごい!国内編最新ランキングまとめ