
あらすじ
52ヘルツのクジラとは―他の鯨が聞き取れない高い周波数で鳴く、世界で一頭だけのクジラ。たくさんの仲間がいるはずなのに何も届かない、何も届けられない。
そのため、世界で一番孤独だと言われている。
自分の人生を家族に搾取されてきた女性・貴瑚と、母に虐待され「ムシ」と呼ばれていた少年。孤独ゆえ愛を欲し、裏切られてきた彼らが出会い、新たな魂の物語が生まれる―。
(中央公論新社より)
感想・レビュー
第十八回(2021)本屋大賞第一位
まず読了後の所感としては、評価するのが難しいというのが、正直なところです。良いところもあるのですが、同時に都合の良すぎる面が、目についてしまいました。
物語は、虐待を過去に受けていた主人公のキコが大人になり、大分の田舎で、怠惰な暮らしをはじめるところから始まる。
慣れない集落的な閉鎖環境に戸惑いつつ、徐々に過去の物語、どうしてここにいるのかなどが明かされていきます。
そんな中で、もう一人、虐待を受けている子供と出会います。キコはこの子を52と名付けました。
52をきっかけに、キコの心は少しずつ快復していき、52も良い未来へと向かっていく……と大雑把にまとめるとこんな感じ。
構成自体は、現代小説の王道的なやり方で、わかりやすく、流れも過去に戻ることによって、逆に現実が気になってくる。とても良い流れだったと思います。
52の母親がキコに裏の顔を見せたり、そんな娘を溺愛した馬鹿な父親が、崩れていくシーンなどは、とても楽しみながら読めました。
ただ主人公のキコが、大人の割に、精神性が子供なんですよね。
それが虐待故なんだと解釈するしかないのですが、普通に友達が出来たり、恋愛するスキルはあるので、ただ受動的な人間に見えてくる。
これこそが愛の不足であり、キコの人生を体現化しているのかもしれませんが、こういう人間って別に普通にいるくないかとも思ってしまい、虐待は本当に必要だったのかと感じてしまいました。
仮にキコが虐待のせいで、コミュニケーションスキルが不足していて、52のように喋られない、友達もできない、恋愛もできない、というような感じなのだったら、二人が出会った意味として、それが普通の人には聞こえない52ヘルツの鳴き声として、本当の意味で共鳴できたんだな、と思えるのかもしれません。
でもキコはそうじゃない。普通の女として生きられてる。仲のいい同僚も、友人もいるし、恋人もいる。たとえそれがめちゃくちゃな男でも、そんな男に引っ掛かる女なんていくらでもいる。
だがキコがそうなれたのも、見晴とアンさんと呼ばれる人の存在があったから。だからこそ、アンさんの言葉を聞き流し、男を優先し、肉欲に溺れた罪は、かなり重い。
何を学んだのか、アンさんへの感謝は嘘だったのか。
虐待を受けた傷は、人との信頼よりも、肉欲にすがることが一番いい特効薬になるとでもいうのだろうか。
加えて作中では、ALSやジェンダー、田舎の嫌な人たちも、同じく虐待を受けた「愛」を「52」と囚人のように呼ぶ神経も、全てがキコの不遇な過去にする為の道具(お涙頂戴)に見えてくる。
だからこそ最後の方で、52が焦るように声を上げ言葉を喋りだし、田舎の悪い人たちがみんな良い人たちだった、お婆ちゃんも幸せだったんだね、みたいな急なハッピーエンドも、やはりどう考えても帳尻を合わせにきたような、都合が良すぎるのではないか、と思えてしまいました。
もし虐待を受けた人間が読んだら、感動を覚え目に涙を浮かべるのか、それともとても良い物語だったと鼻で笑うのか。私にはわからない。
タイトルやその意味合いはすごく良かったと思います。でもそのロマンに引っ張られすぎたかな、と個人的には思えてしまいました。
ただ本屋大賞第1位という実績は揺るぎませんので、そちらの評価が真実なのだと思います。
それでは今日はここまで。
最後までお読み頂きありがとうございました。
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