
あらすじ
昭和三十七年、ヤスさんは生涯最高の喜びに包まれていた。
愛妻の美佐子さんとのあいだに待望の長男アキラが誕生し、家族三人の幸せを噛みしめる日々。
しかしその団らんは、突然の悲劇によって奪われてしまう―。
アキラへの愛あまって、時に暴走し時に途方に暮れるヤスさん。我が子の幸せだけをひたむきに願い続けた不器用な父親の姿を通して、いつの世も変わることのない不滅の情を描く。
魂ふるえる、父と息子の物語。
(KADOKAWAより)
感想・レビュー
いやぁ泣いた…泣けました。笑
これはずるい、こんな「不器用父ちゃん物語」を読まされて泣かない人(特に男)の方が少ないでしょう。勝手な決めつけですが…笑
個人的には重松清さんは初めてだったのですが、昔ドラマでたしか著者の「流星ワゴン」を見てとても面白かった記憶が微かに残っています。
いま思えばあれも父子の話だったような気が、また小説の方で読んでみたいですね。
さて、まずいつもの所感としては、先に書いてしまいましたが、まず泣けるくらい面白かったです。そしてしっかりと構成がされていたなぁ、という印象ですかね。
作中では約50数年ぐらいの月日が描かれているのですが、昭和37年辺り〜平成元年辺りまでの時代の移り変わりと、家族の変化を飽きさせずに、バランス良く描かれていたかなと。
物語の舞台は広島の備後で、ヤスさんと妻の美佐子さんの間に子供(アキラ)が生まれる辺りから始まります。
ヤスさんは常にまっすぐで、そして誰よりも照れ屋で不器用な人。美佐子さんはおっとりとした慎ましい優しい人。
この二人の間に生まれたアキラと三人の幸せな物語が序盤は続きます。
しかし幸福は長くは続きませんでした。ある日、複数の不幸が重なり、美佐子さんはアキラを庇って事故で亡くなってしまいました。
悲しみに暮れるヤスさんでしたが、同級生のお坊さんである照雲と妻の幸恵さん、照雲の父親・海雲和尚、昔からよくヤスさんを世話をしてくれていた年上のたえ子さんらに助けられ、皆でアキラを育てます。
その過程は省きますが、本当になんか良いんですよね。
ヤスさんは典型的な昭和の父ちゃんで、一人だったら家事もままならいレベルの人なんですけど、アキラを育てるために必死に働きながら料理も覚えて、家事も覚えて、自分なりに男で一つで、そして皆に助けられてアキラが育っていくんですよ。
そして時々、それでも育児に詰まって、ヤスさんが美佐子さんのことを思い出すシーンなんかは涙が止まらなくなるんですよね。
徐々に徐々にアキラも大きくなって、小学校から思春期の中学生、高校生とアキラは不器用なヤスさんと共に一緒に生きていきます。
アキラは小さい頃から目に入れても痛くないような息子ではあるんですけど、それでも成長するに連れて、ずっと良い子ちゃんってだけではなく、悪いこともしました。
でもその度にヤスさんと何度もぶつかりあって、周りの人に支えられて乗り越えていくんです…あぁ書きながらまた泣けてきた。笑
そしてアキラは東京の大学生になって、社会人になって、7つ年上のバツイチ子持ちと結婚して、また新しい子供が出来て、ヤスさんは年老いて、最後は皆で笑いあってこの物語は終わっていきました。
省いていますが作中では、ほんとに細かい家族のネタ話や、アキラの野球の話、ヤスさんの会社の話や、照雲が酒で荒れたり、たえ子さんの過去が描かれていたり、しっかりと生きた人間が随所に描かれており、その力量が素直に凄いなと。
あとは作中の広島弁?も私が関西人で、方言の抑揚も似ているせいか、すんなり心地よく読めましたね。
それとヤスさんは本当に褒められた人間ではないんです。
すぐ人を殴るし誰かと喧嘩もするし、酒癖も悪いし、分かりやすいくらい不器用な人で、実際自分の父親だったら「めっちゃ面倒くさいだろうなぁ、笑」と思ってしまうんですけど、どこか温かい人なんですよね。
あとこれも書いておきたくて、ヤスさんは後輩と昔の仕事話をする時に「体はキツかったけど、心には余裕があった」的なことを言うのですが、これは本当に令和の今読んでもとても普遍的なことを言っているのだろうなぁと思いました。
時代が進むにつれて、あらゆることが便利になって、何故かその分だけ生きづらくなって、自分たちが進んでいる方向が本当に正しいのか分からなくなって、それでも前に進むというか、生きるしかなくて、そういう事を書いているのかなぁと勝手に感じてしまいました。
はい、という感じで何かもっと他のことが書きたかったのですが、今日はこの辺で終わりたいと思います。
ぜひ気になった方は、一度読んでみてはいかがでしょうか。
人によっては、慣れるまでヤスさんの不器用さに少し腹がたつかもしれませんが、個人的には物語の完成度など、総合的に考えてみてもオススメできるかなと、思います。
只今絶賛「父ちゃん」している方はハンカチかティッシュは必須です!とだけ言っておきます。笑
読みながら私も、父親と過ごした時間をつい思い返してしまうような、そんな物語でした。