同志少女よ、敵を撃て【あらすじネタバレ感想】村と母を焼かれた少女は、復讐の為に立ち上がる。

あらすじ

独ソ戦が激化する1942年、モスクワ近郊の農村に暮らす少女セラフィマの日常は、突如として奪われた。急襲したドイツ軍によって、母親のエカチェリーナほか村人たちが惨殺されたのだ。自らも射殺される寸前、セラフィマは赤軍の女性兵士イリーナに救われる。

「戦いたいか、死にたいか」――そう問われた彼女は、イリーナが教官を務める訓練学校で一流の狙撃兵になることを決意する。母を撃ったドイツ人狙撃手と、母の遺体を焼き払ったイリーナに復讐するために。同じ境遇で家族を喪い、戦うことを選んだ女性狙撃兵たちとともに訓練を重ねたセラフィマは、やがて独ソ戦の決定的な転換点となるスターリングラードの前線へと向かう。

おびただしい死の果てに、彼女が目にした“真の敵”とは?

(早川書房より)

感想・レビュー

【AmazonAudible】

第11回アガサ・クリスティー賞受賞作。第十九回(2022)本屋大賞第一位。

まずはじめに、これがデビュー作か、すごいな、と素直に思いましたね。

序盤はライトノベルのようなキャラ付け、展開の見せ方で、重くなる空気感を払拭し、後に戦争という圧力を「人」で描く。細部の描写も丁寧に感じました。

2022年2月に起きたロシアとウクライナによる戦争という世界的事情により、本作はより売れているとは思いますが、デビュー年を考慮しても執筆時はまだ戦争は起きていませんね。

あとこれは偶然なんですが、少し前に「戦争は女の顔をしていない」を聴いていたばかりで、あまりにタイムリーな内容に、感情移入し過ぎそうになりましたが、何とか冷静に物語は楽しめたかなと思います。

実在した戦争や、最強の女性スナイパーである『リュドミラ・ミハイロヴナ・パヴリチェンコ』も登場しているので、楽しめたという表現が若干難しい所ではありますが、小説の物語事態は虚構なので、いつも通り感想を書きたいと思います。

時代背景は1940頃〜からで、第二次世界大戦中の独ソ戦のソ連側の視点で描かれていました。

この時代のドイツは、ナチス・ドイツ。つまりヒトラーの時代であり、多くの作品が様々なメディアで扱っている時代背景になりますが、本作はその中でも特殊で、ソ連軍『女性兵士』を扱ったという所がまず一つ大きな部分だと思います。

さて物語は村の娘である主人公の『セラフィマ』は、母に狙撃を習い、狩猟をしながら平和に暮らしていました。

セラフィマは学業も優秀でドイツ語も学び、将来はソ連との架け橋になるような希望の夢も持っていました。

ですがある日、村と母親をドイツ兵に殺されます。間一髪の所でセラフィマはロシア兵に命を助けられます。

その赤軍・ロシア兵を率いていたのが、女兵士『イリーナ』でした。イリーナは美貌と非情さを兼ね備えた女性兵士。

そんなイリーナは呆然としているセラフィマにこう問いかけます。

「戦いたいか、死にたいか」この問いが、セラフィマの後の人生を大きく変えていきます。

やがてセラフィマは「戦う」ことを選びますが、イリーナはまずセラフィマの家、死亡した母親、村全体を無情にも焼き払います。

セラフィマの希望の【夢】は、この経験により【復讐】へと変貌し、その対象にドイツ兵と上司になるイリーナも含まれます。

この歪な関係性を保ったまま、セラフィマはイリーナに連れられ、女性兵士になる為、同年代くらいの少女たちと訓練を受け、女性兵士になります。

ここから大きく要約しますが、その後、セラフィマは戦争に駆り出され、多くの仲間を失い、多くの人を撃ち殺し、イリーナという人間を知り、大きな悲しみと苦しみを経験しました。

そしてセラフィマは生き延びたまま、戦争が終わります。

終戦直後、ドイツ市民の女性に暴行し、野蛮な振る舞いしているミハイルを撃ち殺すシーンがありますが、まさに圧巻の一言で、この状況の描き方がとても上手いなと思いました。

ミハイルはソ連軍の暴力的支配体制の中でも珍しく、仲間や部下に暴力統制をしなかったとても賢い優しき人物。そしてセラフィマにとっては、唯一の同郷の幼馴染。

まさにこのシーンは、タイトルにある同志少女よ、敵を撃てになると解釈しています。

セラフィマにとって【敵】というのは、まさにあの優しかったミハイルを変えてしまった【戦争】なんだと思うんですよね。

セラフィマはその【戦争】を撃ち殺した

強いていうなら、このミハイルの部分を冒頭でもう少し掘り下げておけば、なお良かったかなとは思いました。

最後に復讐の対象だったイリーナを殺そうとセラフィマは目論みますが、彼女の真意、抱えていた大きな意志を理解し、共に町外れの家で余生を送りました。

二人のキスシーンなんかもあり、百合の一面もあったりするのですが、ただその背景には苛烈な戦争からなるシスターフッド(同志女性の連帯、絆)があり、また違った心の重み、拠り所みたいなものを感じました。

最後にセラフィマとイリーナの元に「戦争は女の顔をしていない」の依頼が来るシーンがありますが、流石に鳥肌が立ちましたね。

大きく分けて「村編」「訓練生編」「戦争編」「戦後編」と区切りがつけられる構成で、セラフィマという人物を描かれていましたが、その辺も分かりやすかったです。

道中描かれている「スターリングラード攻防戦」などは、実際に起きたもので、緊張感や残忍性といったものもしっかりと描かれていました。

あとは狙撃兵としての心得やアクション描写、兵による性暴力の概念についても大変興味深い内容でした。

彼女たちの一面を知っているからこそ、「戦争は女の顔をしていない」のインタビューは余計、胸が痛む戦後だったんだな、と再認識しました。

余談ですが、その後本屋さんで気になり単行本を手にとってみたのですが、装丁とイラストがめっちゃくちゃ良かったです。

表紙はセラフィマ、裏面はおそらくイリーナだと思うのですが、表と裏が繋がっていおり、まるで一枚の絵画のような雰囲気でした。

それでは今日はこの辺で終わりたいと思います。

お読み頂き、ありがとうございました。

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