あらすじ
夏休みを迎える終業式の日。先生に頼まれ、欠席した級友の家を訪れた。きい、きい。妙な音が聞こえる。S君は首を吊って死んでいた。だがその衝撃もつかの間、彼の死体は忽然と消えてしまう。一週間後、S君はあるものに姿を変えて現れた。「僕は殺されたんだ」と訴えながら。僕は妹のミカと、彼の無念を晴らすため、事件を追いはじめた。あなたの目の前に広がる、もう一つの夏休み。
(新潮社より)
感想・レビュー
道尾秀介さんは初読みになります。
まず本作を読んだ私としての所感は、気持ち悪い小説やったなぁ。笑)という感じ。
けどすごい所も沢山ありました。でもやっぱり気持ち悪い小説やったなぁ。笑
という感じで、本作はミステリとホラーの融合した感じでしょうか。
九歳の男の子ミチオ(著者さんと同じ名?)が、ある日クラスメイトのS君が家で首を吊っている所を目撃したところから物語が動き出す。
ミチオには三歳の妹ミカがいて、そのミカを異常に愛する母親がいて、その母親はミチオに対して家族とは思えないような仕打ちや態度を取り続けていて、それを父親は黙認しているという。
これだけでも歪んだ家族構成の中に、ある日死んだはずのS君が蜘蛛になって現れるというカフカの「変身」のような幻想設定まで割り込んでくる。
他にも幼男児が性癖の担任教師や、ヒントを与えてくれるトコ婆さんなど、様々なキャラクターが出てくる。
もう一方で、本作はミチオの一人称視点以外にも、泰造という老人の三人称視点が挿入され、物語はより撹乱されて読者がミスリードされる形になってもいました。
本作の途中まで読んだ時の感想は、面白いんですけど、三歳のミカの発言がいやに大人びていたり、S君の発言も、ミチオの思考もやっぱりどこか年齢不相応な感じで、いや三歳と九歳にしては賢すぎるな……名探偵コナンかよ、笑)と。
まぁ前提として「生き返る」という設定自体がもう幻想設定なので、その辺は本格ミステリだけど笑いながら読み進めるしかない。
やがてどんどん真相が見えてきて、かつそうなってくるとミチオサイドの謎と不気味さが膨らむという構成は素晴らしいと思えましたね。
何度もミチオの不気味な行動に「は?」となって楽しかったです。
そして事件の真相が終盤で明かされます。
結論・全部とは言わないが、ミカもS君もトコ婆さんも全部ミチオが作り出した妄想世界だった……。
ただ妄想世界だったとはいえ、事件の真相や人間的ロジックなどは、かなり緻密に構成されており、論理的に真相に導かれるようになってます。
なのでこの作品は、賛否が分かれるのだろうなと思います。幻想設定が混じると、本格仕様のトリックにはどうしても粗が出るので、確かに最後の謎解き殺人サイコパスミチオなんかは、もう九歳ではないし、笑
他にも人の足ってそんなに簡単に折れるものなのかしら?
泰造に関しても流石にあれだけ折ってたらもう少し誰かに目撃されててもおかしくないような気もするような?
あとはS君の作文もいくら狂っているとはいえ、九歳で作りあげたにしては秀逸すぎる、これ絶対作家が書いただろ、笑)と少しリアリティを疑う要素も多く、ここが賛否の分かれるところかと。
ただリアリティを意識するなら幻想設定なんて最初からお話にならないし、一応、ミカとS君などの大人びた発言は、ミチオの妄想世界ということで片付けられということが判明したので、オチてはいる。ここが嫌いな人意外と多いんじゃないかなぁ。笑)
なにせずるいですからねぇ、妄想なんて。何でもありじゃねぇかと。笑
でも著者さんは最初から幻想設定を入れてきているので、何も文句は言わせないよ?みたいな感じ。
けれど本格スタイルの構成なので良いとこ取りでもある。うーん、私としても微妙だけど、少しだけ著者さんが巧みだったのかなぁ。
構成や見せ方という点においては、一級品なのは間違いありませんしね。
おわりに
結局終わってみれば、とても怖い作品でもあり、でもちゃんとミステリでもありましたから、私的には楽しめましたね。ただ疑問点がないわけではないので、手放しでは褒められない作品でもありましたが。
それを差し引いても構成や展開の運び方は、めちゃくちゃ上手いので捲る頁は止まりませんでしたね。
リーダビリティが素晴らしい作品。一応、文庫本で460Pほどあるのですが、スラスラ読める文体のリズム感、文章力は本当にかなりの腕だと思いました。
タイトルの「向日葵の咲かない夏」というのも、意味もちゃんとありますし、センスも良い。
著者さんを調べてみたら芦屋出身という、お坊ちゃまだ。笑
私はその近隣街の生まれなので今度、他の作品も読んでみようかしら。
あ、今思えばあの変態教師は、どう見ても犯罪者だったのですが、最後まで出てこず終わりましたけど、絶対今後も被害男児が出てくるのは間違いないのですが、どうなったんでしょうか・・・